天平勝宝五年の八月の十二日、高円の野の歌三首
天平勝宝五年の八月の十二日に、二三の大夫等、おのもおのも壺酒を提りて高円の野に登り、いささかに所心を述べて作りし歌三首
※天平勝宝五年の八月の十二日:752年8月12日(太陽暦では9月13日頃。当時、在京諸司に限り、6日に一度、休暇が与えられていた)
高円の 尾花吹き越す 秋風に 紐解き開けな 直ならずとも
(巻20-4295)
高円山のススキの穂を吹き流すような強めのあきかぜに、衣の紐を解いてしまいましょう。彼女と直に逢うわけではないので。
右の一首は、左京少進、大伴宿祢池主
天雲に 雁ぞ鳴くなる 高円の 萩の下葉は もみちあへぬかも
(巻20-4296)
空の雲のほうから、雁の鳴き声が聞こえて来ます。この高円の萩の下葉も、黄葉となるのでしょうか。
右の一首は、左中弁中臣清麻呂朝臣。
をみなえし 秋萩しのぎ さを鹿の 露別け鳴かむ 高円の野ぞ
(巻20-4297)
女郎花や、秋萩を踏み、雄鹿が露を別けながら(濡れながら)、鳴くことになるでしょう、この高円の野は。
右の一首は、少納言大伴宿祢家持。




