越中守大伴宿祢家持の報へし歌と所心三首(1)
越中守大伴宿祢家持の報へし歌と所心三首
天離る 鄙の都に 天人し かく恋すれば いける験あり
(巻18-4082)
常の恋 いまだやまぬに 都より 馬に恋来ば 担ひあへむかも
(巻18-4083)
これほどまでに都から遠ざかった田舎の都にまで、天人のような貴方が、恋い焦がれてくれていたとは、これこそ生きていてよかったという験があったというものです。
常日頃、貴方を恋い慕う気持ちが、いまだおさまらないというのに、なんと都から、馬の背にどっさりと乗せて恋心を運んでいただけるとは、とても私では担いきれないほどの有難すぎるお心、と思うのです。
叔母であり、姑、しかも大伴家の刀自である坂上郎女からの歌に応えた歌。
※坂上郎女
常人の 恋ふといふよりは 余りにて 我はしぬべく なりにたらずや
(巻18-4080)
片思を 馬にふつまに 負ほせ持て 越辺に遣らば 人かたはむかも
(巻18-4081)
※「常人」に対して「天人」、「我はしぬべく」に対して「いける験あり」と掛け合っている。
※「世間の人が恋しいと言うなんて、比べ物にならないほどに貴方のことを恋しく思っているのですよ、だから、それが苦しくて、もう、息も絶え絶えですよ」に対し、「そこまで気にかけてくれて、これこそ生きていてよかったという験があったというものです」と返す。
※「この片思いを、馬の背にどっさりと積んで、越の国の方まで送りますよ、あなた、その荷をおろすのを手伝ってくれるでしょうね」に対し、「とても私では担いきれないほどの有難すぎるお心」と返す。
家持も歌の師匠でもある坂上郎女に、久々に冴えのある歌を詠んでいる。




