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たちまちに 枉疾に沈み( 2)
世の中は 数なきものか 春風の 散りのまがひに 死ぬべき思へば
(巻17-3963)
山川の そきへを遠み はしきよし 妹を相見ず かくや嘆かむ
(巻17-3964)
※そきへ:しりぞく方で、隔たったの意味。
右は、天平十九年の春の二月の二十日に、越中国守の館に、病に伏して、悲傷し、いささかにこの歌をつくりしものなり。
世の中とは、なんとはかないものなのだろうか、春の花が散る時期に紛れて、死んでしまうことを思えば。
山と川を隔てた遠い場所にいるので、愛しい妻に逢うこともできず、これほどまでに一人で嘆くことになろうとは。
家持は、実際は三月の初めに、この病気から快復する。
この歌を詠んだ時期が、実は回復の兆し(病状においては)ではないだろうか。
本当に死の苦しみなら、筆を持つ気力さえ、出ては来ないのだから。




