柿本人麻呂 娘子らが
娘子らが 袖布留山の 瑞垣の 久しき時ゆ 思ひきわれは
(巻4-501)
おとめが袖を振ると言われている、石上神宮の瑞垣のように、私はかなり前から貴方に憧れ続けてきたのです。
※布留山の瑞垣:布留の社(石上神宮)の垣。
袖を振る行為は、招魂の心意を込めた動作。
離れ合っている恋の魂を招き寄せ、その霊魂の結合の中で、恋の成就を夢見る。
また、石上神宮に奉仕する娘たちには、古来、袖を振る神事が行われていたのかもしれない。
輝くような美しい若い娘が、領巾を首にかけ垂らす、ゆららに響く玉を手に巻く。
そして、その顔を上気させ、汗まみれに、懸命に袖を振り舞い踊る。
人麻呂をはじめとして、それを見る人々は、古き社でもある石上神宮の霊威を感じる、神秘の歴史に包まれた美しさの中に入り込む。
この状態での、袖を振る娘たちは、まるで天女のような輝きと美しさなのだと思う。
まさに、神に愛される巫女なのである。
石上神宮の周りに張り巡らされている美しい垣が、相当昔からあるように長い間、私は貴方に憧れ続けて来た。
人麻呂氏だけではない、そんな神秘の美しさを見れば、誰でもそう感じるのではないだろうか。
これも、美しい霊威を感じるような名歌だと思う。




