1135/1385
由縁ある雑歌(25)
飯食めど うまくもあらず 行き行けど 安くもあらず あかねさす 君が心し 忘れかねつも
(巻16-3857)
右の歌一首は、伝へて云はく
「佐為王に近習の婢あり。時に、宿直に遑あらずして、夫君に遇ひ難く、感情馳せ結ばれ、係恋實に深し。ここに當宿の夜、夢の裏に相見て、驚き覺め採り抱くに、曽の手に觸れるはなし。乃ち哽咽び歔欷きて、高き聲に此の歌を吟詠へり。因りて王聞きて哀しび慟みて、永く侍宿を免しき」といへり。
食事をしても、美味しくも何ともありません。あちこちを歩いてみても、心は全く晴れません。(家で待つ)あなたの寂しい気持ちを思うと。
右の歌は伝承によると、
「佐為王の屋敷で、召し使っている娘がいた。ある時、昼夜の区別なく、勤務が続くことがあった。当然、その夫には逢うことは難しかった。彼女は夫のことを思い、気持ちは沈むばかりで、恋しさはつのるばかりだった。そんな日々が続き、ついに宿直の夜に、夢の中で愛する夫の姿を見た。驚いて、手探りで抱きつこうとしたけれど、手に触れる物はない。
そこで、娘は我慢に耐えかねて、泣きじゃくり、声を高く張り上げて、この歌を詠んだ。その歌を聞いた王は、さすがにあわれに思い、以後は夜勤を免除した」とのことである。




