113/1385
柿本人麻呂 古にありけむ人も
古に ありけむ人も 我がごとか 妹に恋ひつつ 寝ねかてなずけむ
(巻4-497)
過去の世の人であっても、私と同じで、愛する人を想いつづけて眠れぬ夜を過ごしたのだろうか。
人を恋し、眠れない夜が続く。
こんな苦しみは、昔の人にもあったのだろうかと自問する。
きっと、こんな苦しみは、昔の人にもあったのだろうと想像し、自分の心を少しでも慰めるのだろうか。
ただ、それは昔の人にもそんな苦しみがあったとわかっても、実は少々の慰めにもならないだろう。
恋に苦しむ人の心を慰めるのは、ただ逢瀬のみなのだから。
過去に答えを求めても、自分を慰める効果などは、ほとんどないことなど、わかっていたはず。
しかし、少しでも、慰めを欲しくて、こんな苦しい歌を詠む。
この歌に込められた想いは、人に恋して眠れぬ夜が続く人こそが、理解し感じうるもの。
しかし、それにしても、苦しい想いである。




