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柿本人麻呂 み熊野の浦の浜木綿
み熊野の 浦の浜木綿 百重なす 心は思へど ただに逢はぬかも
(巻4-496)
み熊野の浦の浜木綿のように、幾重にも幾重にも貴方のことを思って苦しむけれど、なかなか逢うことは難しいようだ。
浜木綿は、白色の花弁を細長く開きながら、一茎に幾つも開花する熱帯性の植物。
南紀の海岸に自生している。
また「思ふ」の意味は、外に求める「恋ふ」とは異なり、より内に秘めた心となる。
逢えない人を慕い、内に秘めた思いが、幾重にも重なり苦しむ。
その恋に苦しむ心を南紀の浜辺に自生する浜木綿にたとえる。
ギラギラした南紀の太陽の光に照らされた浜木綿の花のように、私も強く深く貴方を思っているけれど、逢うことができないと詠う。
そして、恋の苦しみは、また幾重にも、重なることになる。
かの中西進氏が、「浜木綿という万葉特有の植物の美しさと、歌の格調の高さによって、名歌とされてきた」と評価しているけれど、これも至言、その通りと思う。