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捨て子になりましたが、魔法のおかげで大丈夫そうです  作者: 明日
抗争

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最後になってようやく

 


「……片腕の魔法使い。ああ、だから、手袋をしていたんですね」

 レヴィンは弾かれた指先をまた僕に向ける。それなりの速度で石が当たったはずなのに、まるでそんなもの気にしていないように。

 いや、それは気にしていないのではない。気にならないのだ。痛みも何もないその右手の正体。それは、今の音だけで明白だ。

 まあ、いまはどうでもいいか。

「それで一応、聞いておきたいんですが……」


「お前と話すことなんか何にもねえよ!!」

「……そうですね、僕も無いです」

 火薬の弾ける音。それと同時に、あのときと同じ弾丸が飛んでくる。そう、あのときと同じ。

 弾速もその結果も、何も変わらない。


 路地の壁を使い、跳ねながら躱してレヴィンの前に立つ。読めなかったその顔は、怯えの顔に変わっていた。

「でも一応聞いておかなければ。今回の件といいますか、竜騒動からここまでで、何がしたかったんです?」

 レヴィンの処理は決定済みだ。だがその前に、何か言い分があるのならば話しておきたい。

 それは、同郷の人間に対しての最後の情け、とでもいえばいいだろうか。


「俺はいきなりお前に襲われた! それだけだ、何にも話すことなんかない!!」

「まあ、別に何もないならそれでいいんですけど」

 僕の中で完結はしているが、それでも最後の情け。その言葉通りであるならば、もはや話すことは無い。では、……と思った瞬間、レヴィンと僕の間に何かが出現する。

 握り拳大、丸い円筒形の金属。レバーが付いているようで、本当は握って使うのだろう。

 レヴィンを見れば、目を瞑り、両手で耳をふさいでいる。


 およそ戦闘時に取るべきではない姿勢。それはこの金属のためだろう。

 多分、爆発物。どうする、弾くか障壁で防ぐか。

「おわっ……!!」

 迷っている暇などなかったらしい、出現してから、落下が始まるまでの僅かな時間で、その金属筒は弾けて光を発する。そして、それに伴う爆音も。


 衝撃を防ぐ障壁は役に立たなかった。というよりも、障壁自体には殆どなにも起こらなかった。

 光も音も、それを防ぐ機能は入れていないのだ。音の方は衝撃が緩和されたが、それでも大きな音だった。目が眩み、耳の奥が痺れた。




 閉ざされた視界に制限された聴覚。レヴィンの乾坤一擲の手だろうか。

 なるほど、確かに普通の人相手ならばこれは有効だ。では次に来るのは、僕を確実に葬れる攻撃だろう。


「はは!! 不用意に近づくからだ馬鹿が!! お前ももう終いだな!」


 何かレヴィンが喚いている。

 そして、次には、何か小さなものが飛来して……。


「あれ」

 それを掴むと、金属の弾丸だ。この期に及んで、まだそんなものを。

 弾丸を投げ捨てる。その動作が終わる前に、透けるようにして消えてしまったが。


 少し飛び退き、離れたレヴィンが声を上げる。

「は?」

「同じ手ばかり使いますけれど、何か変わったことでも無いんでしょうか?」

 目晦ましが入ったことは評価するけれども、それでも攻撃は変わっていない。僕に負けた後、この程度の工夫しかできなかったのか。


 瞬きを繰り返す。まだ目は見えない。暗く焼き付いているだけなので、治療の必要もなくそのうち治るだろう。治す必要も、今のところないが。


「ゼロ距離スタングレネードだぞ? 見えるわけが……」

「そんな名前なんですね。単なる閃光弾なのに、かっこいい名前までついて」

 受けてみた感じ、強烈な音と光で対象の動きを封じるものだろう。レシッドが僕の発見した懐炉で行ったような、そんなもの。

 だが、そんなものが魔法使いに通用すると思っているのだろうか。



 今回、その攻撃が僕に通じたのは魔力が上回ったからではない。

 その攻撃が僕に通用しないから、障壁に防ぐ機能を付けていなかった。それだけなのに。


 ゆっくりと歩み寄る。

 もともと、透明化しているときには光情報は入ってきていない。光を捻じ曲げて僕に当たらないようにしているから当然なのだけれど。そしてそれは、音の情報も同様だ。

 だから僕は透明化している時、魔力圏に入った光と音を感知している。他の人間を巻き込んでいるときは別の配慮をしてはいるが、僕だけならば、生身の感覚はほぼ使っていない。


 勿論それは作用反作用を無視した力、感覚器官として使える魔力あってのことだ。だがそれならば、魔力を持つレヴィンにも当然想像できると思うのだが。



「化け物……!」

 レヴィンが後退る。その言葉、スヴェンも言っていたが、僕も言われる筋合いはない。

「同じ魔法使いのくせに、よく言いますね」

「俺はお前とは違う!!」

 再び向けられる銃口。それを掴んで止める。

「何も違いません。ところで、逃げようともしない自信のもとはこれでしょうか?」

 握りしめたレヴィンの手首。闘気を籠めずに握れば、それだけでギシリと音がした。


 そして、白熱。レヴィンの抵抗だ。

 手袋が燃え上がり、その右腕が姿を見せる。



 そこには、指先まで滑らかに動く義手が装着されていた。

「……よく気づいたな。お前に折られた右腕、治らねえからその代わりだよ!!」

 向けられたのは、指先ではなく掌。そこにはぽっかりと穴が開き、それから金属が飛び出す。


 僕の障壁にぶち当たったのは、銃弾ではない。

 銃弾よりももっと大きく、材質は鉛などではなさそうだ。とにかく固くそして尖ったその砲弾が障壁に突き刺さるように当たり、それから激しい火薬の爆発と煙をまき散らした。

 煙の向こうから、レヴィンの嬉しそうな声がする。


「モンロー効果を使った徹甲砲弾!! いくらテメエでも……!!」

 気が付かないのか。僕がずっと右腕の義手を握っていることに。魔力で生身と変わらないように動かしているのに、やはり感覚まではフィードバックしていないらしい。

「物騒なものは潰しておきますね」

 ぐしゃりと、多分チタン製の義手を握り締める。それを毟り取り路地の端まで放り投げると、煙が晴れた向こうでレヴィンが息を飲んでいた。



「弁解もなさそうですし、終わりですかね」

 猶予は終わり。残念だ。同郷の人間を殺す。もう少し出会い方が違えば、もしくはこんな迷惑なことをしなければ、楽しく語らうことすらできたかもしれないのに。

「うっせえ! 俺はこの異世界を楽しみつくすんだ!! テメエみたいな邪魔者に構ってる暇はねえんだよ!!」

 もう一度、レヴィンは構える。そして、砲撃。先ほどの徹甲砲弾とやらを連発する。


 その程度、念動力ですべて払いのけられるのだが。


「異世界、ですか」

 攻撃を払いのけ、視界もそろそろ戻ってきた。

 そしてたった今、僕の戦う理由が出来たらしい。いや、そもそも最初から嫌な感じはしていたのだ。

 けれども、気が付かなかった。気のせいだとも思っていた。


 けれど。


「ならば、貴方は僕の敵です」

「……わかりきったことを!!」


 叫ぶレヴィンのその姿。憎しみは感じない。

 でも、殺さなければならない。それが少し、悲しかった。




作者も予想外に長くなりました。申し訳ないです。

次で説教ターン&決着です。

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― 新着の感想 ―
[一言] >モンロー効果を使った徹甲砲弾!! モンロー/ノイマン効果を使った弾頭(弾種)は炸薬弾(正しくは成形炸薬弾) 運動エネルギー弾又は質量弾である徹甲弾とは真逆で化学エネルギー弾
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