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捨て子になりましたが、魔法のおかげで大丈夫そうです  作者: 明日
抗争

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入り組んだ袋小路

 


 夥しい量の短剣を使い、騎士と打ち合う少女。

 それを見ながら僕の思考は、四日前の石ころ屋まで巻き戻っていた。




「これからの予測としては、その襲撃は偽装。襲撃自体は実際に行われるかもしれませんが、実際に殺害や暴行までには至らないでしょう」

「何でー? ねえ、何でー!?」

 僕が次の言葉を紡ぐ前に、エウリューケが声を上げる。

 そのエウリューケを見ながら、先ほどからしていたレイトンとの会話を簡単に伝えるべく僕は考えた。

「レヴィンの目的は『目立つこと』。今回、普通に襲撃を行ってもそれを達成は出来ますが、それをもっと効果的に行おうとしてるんです」

「充分じゃねえかい」

「本来なら、そうです」

 そうだ。レヴィンだけならば、多分それだけで終わる。

 けれども、今回の敵はレヴィンだけではない。レヴィンだけならば単純なこの事件も、大きく面倒くさくなってゆく。


「でもそれだけじゃ足りません。モノケルのことを考えれば、今回のルチアという敵はその後のことまで考えている節があります。それを思えば、それだけで済ますとは思えない」

 レヴィンの名前が上がりました、で終わらせるはずがない。その後のことを考えた手も打ってくるはずだ。

「例えば、レヴィンの名が上がり、そしてこの街での邪魔ものもいなくなった。そんなところまでいけば、大成功といえるのではないでしょうか」

「はー、邪魔もの、ねえ。……ひょっとして、あたしらかい!!?」

 今気が付いたかのように、エウリューケは小さく跳ねた。頭は良いのに、こういうところが僕と同じくらい鈍い気がする。

「そのための偽装です。具体的に行われることとしては、その姫様の襲撃のため、……多分、護衛に騎士の方々が付きますよね?」

「ああ。当日はイラインに駐屯してる騎士団から十人ほど駆り出される予定だ」

 グスタフさんが答えてくれる。では、多分その人たちが。

「その騎士たちがやられます。殺されるかどうかはわかりませんが、戦闘不能にはされるでしょう。レヴィン以外の誰かによって」

「そのレヴィンって野郎は?」

「助けに入ります。その襲撃者を退けて、姫様を助ける。そうすれば、『悪の組織に襲われた姫を助けた金髪の英雄』となれますので」


 多分、それが僕らが妨害に入らなかった場合の正解ルート。もしも僕がライプニッツ領で会った時に、『邪魔しない』といえばその姫様が殺されていたかもしれないが、そこの予想はするだけ無駄だろう。

 そもそもその場合は、姫様が巻き込まれることもなかったかもしれないし。



「レヴィン以外の誰か、というところがこの計画の肝要なところですね。まず最初は、奴の部下が襲いに来るでしょう。そして適当なところでレヴィンに負けて、引き下がる」

「あたしたち邪魔者ってのが出てこねえですけど」

「僕らに計画を露見させたのがその布石です。奴らは、僕らの誰かが妨害に来るのを待っている。『襲撃者に間違われた善意の協力者』とともに。……そこまではわかりませんが、多分その姫様もレヴィンの魔法で支配されてるんじゃないでしょうか」

 妨害が入った時点で、その妨害者に向けてレヴィンが出る。そこからは妨害者が『襲撃者』だ。『助けて』とレヴィンに向けて姫様が叫ぶくらいはするんじゃないだろうか。


「……そして()襲撃者と協力して、救出に向かったあたしらの誰かを殺して、あとは計画通り、と。えげつねえですなぁ」

 エウリューケは溜息を吐いた。

 そう、これは誰がどんなふうに動こうが最初から結果が決まっているのだ。レヴィンの敵は、その時によって決まる。僕らの妨害がなければスムーズに事は運び、僕らが妨害してもそれを利用して効果を出す。

 まして、その妨害者を殺害できればそれは奴らには最上の結果だ。



 僕の予想を聞いて、レイトンがようやく口を開く。

「ま、概ね奴らの計画はそんなところだろうね。けれど、その計画は既に破綻している」

「はい。最低条件として、レヴィンたちはその妨害者を撃退及び殺害出来るほどの戦力を有していなければなりません。しかし……」

 僕はそこで言い淀む。油断はいけない。けれど、そうとしか思えない。

「ヒヒ、奴らが弱いって。それも多分正解だよ。この計画も、ただ正面からぶつかれば食い破れるはずさ。で? 君はそれを選ぶのかな?」

「……いえ。正面から、ですけれど……」


 それもいいが、敵の手に乗るのは今回はちょっと嫌だ。そのほうがずっと楽なはずなのに。

 何故だろう。これは元日本人の戦いだと思っているからだろうか。


 まあ、理由はこの際どうでもいい。嫌がらせを思いついたのだ。やるしかないだろう。

 僕は少し俯いていた顔を上げ、明朗に答えた。


「少し嫌がらせをしたいと思います。グスタフさん、月野流の方で、協力を仰ぐことのできる最強の方はどなたでしょう」

「ヒヒヒ、なるほど」

 僕の言葉をレイトンは笑う。

「それなら……」

「クリスには少し荷が重くないかな? 相手がモノケルと考えれば、少し危ないと思うけど」

 答えようとしたグスタフさんの言葉を遮り、さらに予測してレイトンが答えた。

 言いたいことはわかるんだけども、鼻を鳴らしたグスタフさんが気になり、内心それどころじゃない。

「そういや、お前はあいつの戦ってるとこ見たことなかったか」

 だがグスタフさんは気にする素振りも見せず、レイトンに言った。

「あいつはあんな卑屈な性格じゃなきゃ、次期当主でもおかしかねえんだよ。危なくはあるだろうが、負けねえさ」

「ふうん。ならいいね」

 興味なさげにレイトンは返す。


 一瞬静まり返った部屋。少し僕が続けづらくなったが、それでも頑張って口を開く。

「それで、なんかもうおわかりのようですけど……」

「あたしわかってないからだいじょーぶよ!!」

 ……そこで入る横槍が頼もしいやら悲しいやらだが、良い方に取っておこう。

 もう一度仕切り直し、小さく咳払いをしてから僕は続けた。

「『襲撃者は、護衛の騎士によって問題なく排除された』なんて、楽しいと思うんです」

「クク、そりゃいいな」

 グスタフさんも笑う。けれど目は笑ってない。

 本当は、こうした工作などしなくても同じ結果になるのが望ましいのだろう。そんな気がする。


「じゃ、そうしよう。クリス・ウィートンを護衛の騎士として潜入させる。もちろん、全て秘密裏にな。襲撃者は適当に泳がせ、騎士への攻撃を終える辺りで始末する、と」

「はい。騎士が壊滅するまではレヴィンも現れないと思いますので」

 護衛の騎士が健在なうちに助太刀に入ることは無いだろう。あいつは多分、一人だけ目立ちたいというタイプだ。一応は友人であるグラニーを引き立て役に使ったことから見ても。






 僕の思考が現在へと戻り、眼下の決着がつく。

 月野流免許皆伝と襲撃者の少女。勝ったのは、月野流。


 襲撃者の少女は声も無く、袈裟掛けに通される刃で割られ、斜めに裂かれた体が崩れ落ちた。


 広がる血だまりと内臓に、無理やり扉を開けて外を見た姫様が叫ぶ。演技ではない、本当の驚愕だ。

 そうなると思っていなかったのか、それともほんとうに襲撃を知らなかったのか。どちらかはわからないが、口を裂かんばかりに大きく開けた口は、中々鳴りやまなかった。


 騎士に死人はいなかったようで、小剣を抜かれた騎士たちが立ち上がり、復帰しつつある。

 やはり、彼らを目撃者とするために殺しはしなかったのだろう。


 手早い応急処置と、周囲の警戒が繰り返され、きっともうすぐ彼らの動きは再開される。



「あっけないねー」

「本当は初めから、あれくらい手早く片付けられればよかったんですけどね」

 横に立つエウリューケに僕は同意する。仮面の男との初邂逅で、始末できていればこんな面倒なことにはならなかったのに。……あの時点ではまだ、僕が狙われていると知らなかったのだから仕方ないか。


「まあまあそれはそれとして、見つかったかい!?」

「ええ。二十丈(約七十メートル)ほど向こうにあるあの通り。あそこから窺っていました。今は一応隠れているようですが……」

 そして、目的は達成された。レヴィンの位置の特定は、やはり俯瞰してみたほうがやりやすい。

 騎士が全滅しかけたその時、レヴィンは攻撃の準備に入っていたが、それをすぐにやめている。そこら辺の察しは良いようだ。


 だが、逃がさない。

「レヴィンの位置が特定できたと、レイトンさんに連絡をお願いします」

「はいさー!」

 元気よくエウリューケは跳ぶ。空間転移による連絡は即時性にかけても隠密性にかけても信頼性にかけても素晴らしいものだ。戦いに積極的に出すわけにはいかないが、ここで使わない手は無い。



 僕も身を隠したままレヴィンを追う。身を隠した路地の中に飛び込み、悩むレヴィンを見つけ出す。

 思った通り、金髪が路地の中を駆けていた。


 その進行方向へ降り立ち、透明化を解除する。

 はっきりと見えるようになった僕の姿。それを見て、きょろきょろと周囲を確認しながら駆けていたレヴィンの足が止まる。その視点は僕へと固定されて、笑顔とも驚愕ともとれない表情を浮かべた。


「お久しぶりです。今日は仮面、付けてないんですね」

「てめっ……」


 声を発しながら、レヴィンは右手で指鉄砲を作る。

 その指鉄砲を、足元の石ころを蹴り、弾き飛ばす。


 カン、と綺麗な音がして、銃口が上を向く。


 火薬の弾ける音が、平和だった街に響いた。




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