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スカーレットな身分の商人

帝国西部にある、貿易の拠点、ハクセイ

「今回は、買い込みがメインだよ」

 食事屋でのクーパの言葉に、オシロが首を傾げる。

「何で? ここって商売が盛んなんでしょ? こういう所でこそ、商売するんじゃないの?」

 クーパがそっぽを向いて答えない。

「どうして?」

 オシロの問いに隣で黙々と食事をしていたウドンが答える。

「それだけの商才が無いんだ。少し考えれば解る、田舎者を騙して小銭稼ぎしか出来ない人間が、まともな商人相手に取引出来ると思うか?」

「まだまだ修行中なの」

 クーパが拗ねた様子で呟く。

 その時、一人の中年商人がクーパ達の席に着く。

「嬢ちゃんの年齢じゃ、まだまだ地方周りが妥当だね。下手に色気を出すと、大損だからね」

「お前は、何者だ?」

 鋭い目付きで睨むウドンに、馴れ馴れしく話しかける中年商人。

「敵意をむき出しにしなさんな。同じ、旅の商人じゃないか」

「あたしと兄さんは、違うわよ」

 オシロが余計な事を言うのでウドンに睨まれて、小さくなる。

「へー、旅の商人じゃないとしたら、傭兵か何かかい? しかし、そっちの嬢ちゃんが護衛を雇える程、儲けているとは、思えないがな」

「あちきの叔母さんが偉い人で、色々とトラブル発生してるので、その間だけの護衛を押し付けてきたの」

 クーパの言葉に、中年商人があっさり頷く。

「なるほどね、嬢ちゃんが護衛居るのに慣れてるのもその所為か」

 クーパは、否定しない。

 そして中年商人が去った後、ウドンが言う。

「良かったのか?」

 クーパは、肩を竦めて言う。

「オシロが余計な事を言わなくても、二人の格好を見れば商人じゃないことは、明確だったからね。まあ、金持ちの道楽とでも誤解してくれれば御の字って所かな」

「実際そうだろ」

 ウドンの突っ込みにオシロが驚く。

「クーパって金持ちなの?」

 クーパは、大きく溜息を吐く、オシロににじり寄り、耳を引っ張るウドン。

「輝石剣士の家系は、名家で、下手な官僚より権力あるんだぞ。金が無い分けないだろう」

 ウドンが他人に聞こえない様に諭してから、指を離すとオシロが言う。

「でも、だったら何で行商やってるの?」

「一言で言えば、趣味。仕事もしないで旅してるのも変でしょ?」

 クーパが普通に答える。

「金持ちの道楽旅行って事にしてくれれば、こっちも楽なんだがな」

 ウドンのぼやきに、クーパが苦笑する。

「やってみれば解るよ、あんな者は、隠居か、仕事休みにやるものだよ」

 そんな呑気な会話を続けていたクーパ達だったが、この何気ないやり取りが、後で大事に展開するのであった。



「安いだろ?」

 市の端でアクセサリーの大量の在庫を抱えている商人が、何とか在庫を処分しようと、必死にクーパに商品を売り込んでいた。

「本当に安いの?」

 商品を見ながらクーパが質問すると、商人が大きく頷く。

「元々は、ルビーコイン二枚(約二万円)で売られていた物だ、それが、たったオニキスコイン一枚(約千円)で転売するんだ、こっちは、大赤字なんだよ」

「だったら、どうして売るの?」

 クーパが振り返り相手の顔色を窺う。

 相手も長年商売をやってる人間、さも辛そうに答える。

「このまま在庫を持っていても、売れる可能性がないからね、少しでも次の商売の種銭にしないといけないんだよ」

 クーパは、少し考えてから言う。

「買値は、ガーネットコイン(約五百円)って所?」

 商人が固まる中、クーパが商品を元に戻して言う。

「パチモンでしょ? デザイン料が取られない上、材料も色突きガラス。売れ抜けば大もうけだったよね」

 舌打ちする商人にクーパが言う。

「まとめてサファイアコイン三枚(約十五万円)だったら買うよ」

 少し考えた後、商人が言う。

「五百個は、あるんだ、元値売りでも、サファイアコイン五枚(約二十五万円)は、貰わないと」

 クーパは、端のほうを指差して言う。

「作りと管理が甘くて、端にある奴に傷が目立つから、元値は、無理だよ。サファイアコイン三枚とトパーズコイン五枚(約十七万五千円)」

 作り笑いを浮かべながら、商人も食い下がる。

「完全に駄目になってるわけじゃないだろ、サファイアコイン四枚(約二十万円)でどうだ?」

 クーパが、困った顔をして言う。

「持ち運ぶのにも体力使うんだよ。サファイアコイン三枚とルビーコイン三枚(約十八万円)」

 商人が沈黙して、頭の中で激しく算盤を弾き始める。

 クーパは、隣の同系列の店を見て一言。

「それ以上だせないから、他の店に行きますよ。ここみたいに不良在庫が残ってないかって聞けば、もしかしたらもっと安く売ってるかもしれませんし」

 それが止めだった。

「解った。その値段で良い」

 商人が諦めた表情で言うと、クーパは、あっさりお金を渡して商品の上に、一つの輝石をかざすと、アクセサリーが吸い込まれていった。

 商人が驚愕して叫ぶ。

「それって四石の器じゃないか!」

 クーパが頷く。

「そうだよ、良いでしょ?」

 商人は、躊躇せずに頷く。

「それって幾らしたんだ?」

 安ければ自分も買おうと企んでるのか、物欲しげな表情を見せる。

 クーパは、苦笑して言う。

「原材料費だけ。知り合いにこれを作れる職人が居て、行商に行く時に作って貰ったの」

「紹介してくれよ。紹介料は弾むからさ」

 商人が一気に食らいついて来るが、クーパが意地悪そうな顔をして言う。

「王宮の勤めの魔法工房の職人だけど良い?」

 その一言に商人が畏怖の眼差しを向ける。

「お前何者だ?」

「秘密」

 それだけ言って、クーパは、宿に戻っていく。



 宿に戻りアクセサリーの選別を開始するクーパ。

「また騙して売りつけるの?」

 オシロが軽蔑の視線を向けるとクーパは、素知らぬ顔で言う。

「ちゃんとパチモンだって言って売るよ。でもね、田舎だと、本物持ってる人間の方が少ないの。ガラス細工の偽者でも、都会で流行ったって言えば、オニキスコインで売れるんだよ」

 大きく溜息を吐く、オシロ。

 そして、その時ドアがノックされた。

「はーい」

 慌てて出る、クーパ。

 するとそこには、一人の老人が立っていた。

「なんですか?」

 その老人は、懐から不思議な光沢のアクセサリーを取り出す。

「これの価値が解るかな?」

 クーパは、それをじっくり見た後、驚いた顔をして言う。

「これって、皇族御用達の服飾工房で作られた、アクセサリーですよね。多分、捨て値で売っても数十ダイヤコイン(数百万円)だと思いますけど」

 老人が頷く。

「いい目をしておるな」

 後ろで硬直していたオシロが引き攣った顔で言う。

「それが、数十ダイヤコインもするの?」

 クーパは冷や汗を垂らしながら頷く。

「うん、かなり上物だしね。これより良い物っていったら、陛下やその母君が身に着けてる物でしか見たこと無い」

 その一言には、老人が冷や汗を垂らして言う。

「見たことあるのか?」

 クーパが戸惑いながらも言う。

「うん。さすがに式典とかじゃないと着けてないけど、ダイヤコイン二千枚(約二億円)のペンダントを持った時は、心臓が飛び出すかと思った」

 老人の表情が引き攣る。

「随分、皇族の人間と親しいみたいだが、これを買い取って貰えないか?」

「無理」

 クーパが即答する。

「どうしてじゃ? この程度のものだったら十分買えるじゃろ?」

 老人が慌てるのでクーパが首を横に振る。

「あちきは、家に帰れない人間だから、とてもダイヤコイン以上の買い物なんて出来ないよ」

「だったらある時払いで良いぞ」

 老人の言葉に、クーパが眉を顰める。

「何の詐欺ですか?」

 慌てて手を横に振る老人。

「詐欺では、無い。商品自体が、間違いない物であろう?」

 クーパは、頷き、アクセサリーを返して言う。

「でも、これが貴方の物って証拠も無い。後で本当の持ち主が現れて代金を払えって言われても困るからね」

 完全に疑いの視線を向けるクーパに、老人が怯んでいた時、外から数人の商人が入ってくる。

「詐欺一味は、ここか!」

 オシロが驚き、目を白黒させ、クーパが肩を竦める。

「そこの人でしょ、早く連れて行って」

 他人事と思い込んでいたクーパの手を商人の一人が掴む。

「お前も詐欺一味の一員だな?」

「違う!」

 クーパが思いっきり反論するが、誰も相手をしない。

 そのまま、商人ギルドの商館まで連れて行かれるのであった。



「詰り、この老人が、高額服飾、転売詐欺の人間で、そしてその娘がその助手だというのだな?」

 ギルドマスターの言葉に、商人達が頷く中、クーパが大声で反論する。

「違います! あちきは、その人とは、さっきあったばっかりです!」

 老人が諦めきった表情で言う。

「諦めるのじゃ、無駄なあがきは、醜いぞ」

「あんたは!」

 クーパが怒りを堪えきれない様子で睨む中、商人の一人が手をあげる。

「その娘が詐欺メンバーだという商人が居ます」

 ギルドマスターが促すと、クーパが安物アクセサリーを大量買いした商人が来て言う。

「そこの娘は、二束三文のパチモンアクセサリーをパチモノと知って、買い付けています。きっと本物と偽り販売し、大金をせしめるつもりなんでしょう。それは、間違いなく詐欺行為です」

「それをあちきに元売値、ルビーコイン二枚って売ろうとしていた人間がよく言うよ!」

 クーパが怒鳴るが、その商人は平然と答える。

「本当にルビーコイン二枚で売っていたんだ、嘘は、吐いていない」

 クーパが歯軋りをしながら言う。

「とにかく、実際売るところを見てないのに、詐欺の証拠だとするのは、問題。確たる証拠を見せてよ!」

 すると別の商人がクーパの荷物の中から四石の器を取り出して言う。

「これが、証拠になるだろう。四石の器は、貴族にしか売られない貴重品。それを持っていて、貴族でも無い以上、非合法の手段でそれを手に入れたとしか考えられない。これの入手経路を細かく聞かせてもらおうか?」

 クーパが沈黙すると、商人たちは、鬼の首を取ったように言う。

「間違いない、この娘は、きっと非合法の方法でこれを貴族から騙し取った、詐欺師に違いありません。この様な娘に行商人をやらせていては、商人の名折れ。すぐさま、許可書を破棄し、役所に突き出すべきです」

 クーパが必死に堪える中、今まで、事態についていけなかったオシロが言う。

「ねえ、クーパ、商人辞めて済むんだったらそうしたら。役所の方だって、幾らでもコネ効かせられるでしょ?」

 ざわめく商人達。

「どういうことだ、一介の詐欺師が、役所にコネがあるとは、思えないが」

 ギルドマスターの言葉に商人達が戸惑う。

 老人と商人の一人の視線がぶつかるのを見た時、クーパが全てを悟った。

 そして、クーパが切れた。

「なるほどね、最初から、あちきを詐欺師と誤解させて、許可書を破棄されたくなかったら、高額の示談費を払えって言うつもりだったんだね?」

 商人達が怯むが、引かなかった。

「証拠は、あるまい。こちらには、お前が詐欺師だと思われる証拠だったら幾らでもあるぞ!」

 クーパが大声で宣言する。

「あちきは、皇帝陛下ロ=ゼロレの従兄妹、クーパ=ホー。あちきの素性に文句あるんだったら、照会してみなよ。でも覚悟しなよ、あちきに詐欺師の汚名を着させようなんて事がロの耳に入ったら、あんたら間違いなく終わりだよ」

 その一言に誰もが驚愕する。

「ハッタリは、止せ! 皇族の名前を語れば死罪だぞ!」

 商人の言葉に、クーパが余裕たっぷりな態度で言う。

「あちきがどうして四石の器持ってたのか考えなよ」

 そして止めとばかりに眼鏡を外す。

 その顔を見たギルドマスターが、思いっきり顔を引き攣らせる。

「……先皇后に瓜二つ」

 商人達も言葉を無くす。

「もう一度言うよ、あちきの素性を疑るんだったら好きに照会しなよ。でも、従兄妹に無実の罪を着させたと解った時、陛下が貴方達を許すとは、思わないでね」

 商人達が、顔を真っ青にする中、商人達に紛れ込んでいた、食事屋でクーパに話しかけて来た中年商人が怒鳴る。

「生かして帰すか! 先生お願いします!」

 大きな体をした用心棒達が、得物を構えて入ってくる。

 他の商人達が慌てて止めようとする。

「皇族に危害を加えれば、一族全部に処罰がおよぶぞ!」

「五月蝿い、このままでは、どちらにしても同じだ! ここで口封じをするしかないんだ!」

 中年商人がクーパを睨む。

 クーパの前に立とうとするオシロだったが、クーパがそれを押しとめて蛇輝を構える。

「今日は、機嫌が悪いから手加減は、しないよ」

『我が戦いの意思に答え、我が前に戦いの姿を示せ』

 刀の姿に変化した蛇輝にダイヤモンドを当てる。

『ダイヤモンドよ、その力、光の力を我が剣に宿せ』

 光り輝く蛇輝を振り上げてクーパが告げる。

「覚悟を決めろ! 光乱波コウランパ

 その一撃は、商館を木っ端微塵にした。



「毎度毎度、大騒ぎにして楽しいか?」

 騒動を聞きつけた、地元の役人との裏工作を終えたウドンの一言に、クーパがそっぽを向いて答える。

「不幸な廻りあわせだもん」

 結局のところ、商館の修理費の一部などを支払わされて、不機嫌なままなクーパにオシロが言う。

「結局、クーパもまだまだ子供って事ね」

「口を滑らせたオシロには、言われたくない!」

 クーパとオシロが喧嘩する姿を見て、自分が通常業務の復帰するのは、まだまだ先だと感じ、大きく溜息を吐くウドンであった。

うーん、今回の話は、いまいち。

一応こんな話もあっても良いかもって所かな?

次回は、風の調和竜が登場です。

そこで巻き起こる、商人同士の諍いをクーパはどう沈めるのか?

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