ブラックな闇の逃亡者
帝国北部にある、国境近くの町、バロック
「この辺は、軍人が多いね」
オシロの言葉に、ウドンが答える。
「現在は、ガン=ミホク将軍の配下、ホーク帝国でも最強の軍が駐屯しているからな」
クーパがご飯を食べながら答える。
「建前上は、国境警備って事になってるけど、北への侵攻の為の準備なのは、公然の秘密だよね」
ウドンが沈痛な表情で言う。
「頼むから、お前がそれを言うな。一応は、皇帝陛下の親戚だろうが」
指を横に振るクーパ。
「よく誤解されるけど、皇族の血族ってそこそこ居るんだよ。問題になるのは、次の皇位にどれだけ近いかで、あちきの場合、従兄妹と言っても、母方だしね、皇位としては、選外だから、問題ないよ」
「そうなんだ」
あっさり納得するオシロの頭を小突き、ウドンが言う。
「馬鹿、こっちが気にしなくても、一般人には、解らない。下手に突っ込まれかねない事は、言わない方が良いに決まってる」
頷くクーパ。
「確かにね。ところで、貴方達は、将軍に挨拶しなくて良いの? あちきと違って軍属なんだから、仁義は、通しておかないと不味いでしょ?」
ウドンが難しい顔をする。
「そこが問題なんだ」
オシロが手をあげる。
「でもでも、ロ親衛隊って、陛下以外の命令を聞く義務は、無いって、言われてますよ」
ウドンがもう一度小突く。
「建前だ。陛下の命令を優先させる必要上、そういうことになってるが、軍属には、変わりない。将軍に挨拶一つしない訳には、いかない。だが、今回の任務を考えると複雑だな」
首を傾げるオシロにクーパが説明する。
「あちきの命を狙ってるロン=ミホクって、ガン=ミホク将軍の娘なんだよ」
咳き込むオシロ。
クーパに背中を摩られながらオシロが言う。
「それって、あたし達、敵陣のど真ん中にいるって事?」
クーパが首を横に振る。
「そこが複雑な話で、ガン=ミホク将軍は、ロン=ミホクとロとの婚約を快く思ってないの。ああ見えて、娘の事を大切にしているから、政略結婚は、絶対しない。ロン=ミホク、本人が望んだから婚約を認めたけど、ロが本心でロンを妻にと思ってない節があるって事に気付いてるから、娘が不幸になる位なら婚約破棄も仕方ないと思ってるよ」
眉を顰めるオシロ。
「ますます解らない? それじゃあ、何が問題なの?」
ウドンが溜息を吐いて言う。
「セル=ドロス、ロン=ミホクの後見人。二人の婚礼を一番、推進しているのがこの大臣だ。ガン=ミホク将軍とは、旧知の仲で、その配下が将軍の傍には、多く居る。そこ等辺が動けば厄介な事になるから、通り過ぎた方が良いんだよ」
その時、一人の男が現れた。
「そこに居るのは、ロ親衛隊のお方ですね?」
その声にクーパが顔を引き攣らせる。
振り返ると、そこには、一度、ボン=ドと組んで、クーパを襲った、ヤペ=ハヤシが居た。
「始めまして、私の名前は、ヤペ=ハヤシと言います」
クーパが深く深呼吸をして言う。
「始めまして! クーパ=ホーと言います」
ウドンとオシロも立ち上がる。
「ロ親衛隊、ウドン=コーナだ」
「同じく、ロ親衛隊、オシロ=コーナです」
頭を下げる二人に、ヤペも頭を下げて笑顔で言う。
「当然、お二人は、将軍の所へ挨拶に行かれるのですよね?」
顔を引き攣らせるウドン。
「今、考えて……」
オシロの言葉は、容赦ないクーパとウドンの肘で遮られる。
「当然ですよ」
ウドンが笑顔で答えると、ヤペが言う。
「そうですよね。私も今は、将軍の傍で働いていますので、またお逢いできるのを楽しみにしています」
頭を下げて、その場を去るヤペを見送って、ウドンが舌打ちする。
「先手を打たれた」
頷くクーパ。
「この状態で、将軍に顔を見せに行かないとなれば、ロ親衛隊は、将軍に顔を会わせられない件で動いてるという事になるもんね」
「でも、実際は、そうなんでしょ?」
オシロの身も蓋ふたもない言葉に、ウドンが肩を落として言う。
「だから、困ってるんだろうが」
「失礼します、ガン=ミホク将軍」
ガンの居る、執務室に、伝令兵がやってくる。
「なんだ?」
書類に目を通しながらガンが答えると、伝令兵が敬礼をして答える。
「ロ親衛隊の隊員が、面会を求めてきております」
それを聞いて、顔を上げるガン。
「何で、こんな所にロ親衛隊の人間が居るのだ?」
思案顔になるガン。
そこにヤペが現れて言う。
「陛下もお急ぎなのでしょう。この北方の国境付近に滞在して、はや数ヶ月。このまま進展が無い状態を続ける訳には、いかない筈です。ですから、様子を見にきさせたのでしょう」
ガンが苛立ちながら言う。
「確かに、ここで足止めを食らい過ぎている。これ以上の駐在は、予算の無駄遣いにしかならない。しかし、侵攻する切掛けが無いのだ」
「それならば彼等にその切掛けになってもらえば、如何でしょうか?」
ヤペの言葉に、ガンの目が鋭くなる。
「僭越だ。ロ親衛隊は、あくまで陛下の部下だ。私が口を出す事は、出来ない。もしも、無理に戦端を切らせるなら私の部下を使う」
ヤペが笑顔で言う。
「それが出来るのですか? 相手も将軍の部下については、用心されています。あちらとしても侵攻の切掛けになる事は、しないでしょう。しかし、ロ親衛隊の人間ならば、相手も必要以上に警戒して、ボロを出す可能性が高い筈です」
ガンが目を閉じ、深く検討する。
「万が一の時は、全責任は、私が取ろう。陛下からお借りしている軍を無駄に浪費する訳には、いかない。直ぐにロ親衛隊をここに呼べ」
「了解しました」
伝令兵が、飛んでいく。
そして通されたウドンが敬礼をする。
「ロ親衛隊、ウドン=コーナであります。将軍閣下のご尊顔をこうして拝見でき、身に余る幸運に打ち震えております」
「同じく、ロ親衛隊、オシロ=コーナです。将軍様の顔を見れて、大変嬉しいです」
馬鹿な事を言うオシロの足を思いっきり踏むウドン。
ガンが二人を見て言う。
「ロ陛下は、お変わりないか?」
ウドンが即答する。
「いいえ、益々、その才気を発揮なさっておられます」
頷くガン。
「そうで有ろう。陛下こそ、この大陸を制覇する御方。その為にも、私がここで、二の足を踏んでいるわけには、行かない。そこで僭越だが、お前達に頼みたい事がある」
「はい。何でございますか?」
ウドンが内心の動揺をごまかし、返事をするとガンが告げる。
「国境付近に、隣国の影響を受けていると思われる村がある。その村の調査を頼みたい。事が事だけに、私の部下を使えば、軍事行動と誤解されてしまう。あくまでそちらの任務の一環として行って欲しい」
ウドンが言葉に詰まる。
「でも、クーパの予定もあるから、それに合わせないと……」
オシロの不用意な一言に、ウドンが殺意を籠めた視線を向ける。
ガンが驚いた顔をして言う。
「貴殿等は、クーパ殿の護衛の任務についているのだな?」
ウドンが冷や汗を垂らしながら言う。
「あくまで非公式な物ですが、陛下からの命なので、それだけは、例え将軍閣下の言葉でも変更出来ません」
ガンが頷く。
「解っている。それにしても、皇太后様やバンは、気にしすぎなのだ。陛下ならば、前陛下と同じく、后を自由に選べる力をお持ちだ。陛下の思う通り、クーパ殿との婚礼を進めるべきなのだ。それで、不満をあげる輩は、私が成敗するまでだ」
ウドンが引き攣った笑みで言う。
「それでは、ロン様がお悲しみになるのでは、ないでしょうか?」
ガンは、遠くを見ながら言う。
「戦略結婚程、女を傷つける物は、無い。私の父は、別な好きな女性が居たのに、私の母と結婚した。母は、父の心が、その女の物である事を無念に思いながら死んで行った。娘には、そんな思いをさせたくは、ない」
ウドン達を見て、ガンが断言する。
「陛下は、己が信念を貫くだけの力と意思の持ち主。私達が不要な心配をすること事態が間違っている」
言葉を返せない、ウドンにガンが告げる。
「クーパ様の護衛の件は、私が責任を持って行う。貴殿等の仕事が終るまで、指先ほどの傷もつけぬと約束しよう」
ウドン達に断る道は、無かった。
「一緒に行こうか? その方が、誤魔化しようがあるでしょ?」
クーパの言葉にウドンが首を横に振る。
「敵の勢力圏かもしれない所に、お前を連れて行けるか。それより、お前の方こそ気をつけろ。将軍は、ともかく、あのヤペって奴が仕掛けてくるかもしれないぞ」
クーパが肩を竦める。
「十中八九、そうだろうね。大体、あいつ一度、ボン=ドを仕掛けてきた時に居た奴だもん。始めましてなんてよく言い切ったよ」
呆れた顔になるオシロ。
「いい根性してるね」
頷くクーパ。
「取敢えず、お互い気をつけようね」
ウドンが頷き返し、翌日問題の村に向かって出発した。
クーパは、軍人相手に、商売をしながら、ウドン達の戻りを待っていた。
ガンの配下の人間の視線を感じながら、食事をしていると、ヤペが向かいの席に座る。
「今回は、何を企んでるんですか?」
ヤペが笑顔で言う。
「あの二人が、ロ親衛隊で、問題の村の秘密を探りに来た密偵だと言う話しを流してあります。ついでに言えば、無臭無味の睡眠薬なんて言うのも、渡しておきましたから、今頃捕まっているでしょうね」
クーパが立ち上がる。
「冗談では、すまされないよ!」
ヤペが頷く。
「当然です。ロ親衛隊が敵国の手に落ちたとなれば十分、侵攻の口実になります。将軍も最悪のケースを想定しています」
クーパがヤペを睨み言う。
「小細工は、独断でしょ? 将軍だったら、小競り合いでもなればと思ってるレベルでしょうから。今すぐ、救援の要請をしないと」
横を通り過ぎようとするクーパにヤペが言う。
「事実を知っても、事が起こるまでは、将軍は、動きませんよ。将軍は、不正を憎みますが、必要なら平気で泥を被る人です」
クーパが足を止めて、振り返る。
「それをあちきに教えたって事は、あちき一人で助けに行けって事だね。上手く、今回の事であちきを殺せれば大成功、失敗しても、将軍が侵攻を開始できれば、後ろに居るセル=ドロスとしては、御の字って寸法。反吐が出る、計算ね」
ヤペが平然と答える。
「それでも、貴方達は、この事実を公表出来ない。貴方達輝石剣士は、もっと権力を持てる筈。それを、他人を犠牲にしない為に、自ら一歩下がっている。本当に不思議です」
クーパが前を向き言う。
「輝石剣士は、護る存在だからだよ」
駆け出すクーパ。
クーパが問題の村に着いた時には、日が暮れていた。
しかし、村には、夜警の人間が何人も居た。
大きく溜息を吐くクーパ。
「完全に捕まって、警戒状態って事だね。村の人も、ほっておけば良いのに、下手打ってくれたよ」
『このまま、いくのか』
ペンダントからキキが聞いてくるので、クーパが頷く。
「最悪は、また力を借りるかも」
『見捨てる訳には、行かないのだな?』
キキの言葉にクーパは、迷いの無い顔で頷く。
『ここでお前が動き、万が一にも怪我を負えば、ロの侵攻は、苛烈な物になるぞ』
キキの忠告にクーパが溜息を吐く。
「ロには、本当に困ったもんだ」
『どれだけの犠牲を出そうと、得たい者、護りたい者がある。愛とは、そういうものだ』
キキの言葉に納得出来ない顔をしながらもクーパが、村に侵入した。
「捕まるなんてドジった」
ウドンが舌打ちする。
「あたし達、どうなるの?」
不安げなオシロを見て、ウドンが強い眼差しで言う。
「お前だけは、俺が命を懸けても逃がすから安心しろ」
「お兄ちゃんは、どうなるの?」
オシロの言葉に、ウドンが言う。
「俺の死が、陛下の手助けになるなら、喜んでこの命を捨てる」
「駄目だよ! 一緒に逃げよう!」
しがみ付くオシロに、ウドンが首を横に振る。
「武器も無い。どちらかが囮になるしかない。気にするな、ロ親衛隊に成った時から、この命は、陛下に捧げている」
涙目になるオシロ。
「そう簡単に命を諦めない」
その声に、驚きウドンが声のした方を見るとクーパが居た。
二人に剣と輝石を渡して、クーパが言う。
「見張りは、倒して置いたけど急いで」
ウドンがクーパを睨む。
「どうして来た?」
クーパが呆れた顔をして言う。
「ヤペの策略だよ。最初から貴方達を犠牲にするつもりだったみたい」
ウドンが詰め寄り、襟を掴み言う。
「自分の立場が解っているのか! お前に何かがあったら、陛下が悲しまれる。そんな事は、俺達の命とは、比べ物にならない!」
クーパも睨み返して言う。
「あちきは、無事帰るつもり。だから大丈夫。今は、急いで逃げる事を優先する」
「そうだよ、早く逃げよう!」
オシロも同意すると、ウドンが渋々頷き、二人が閉じ込められていた倉庫から出る。
「あっちだ!」
遠くからクーパ達を追う声が聞こえてくる。
「もう、見つかったか」
どこか呑気にクーパが言い、蛇輝を構える。
『我が戦いの意思に答え、我が前に戦いの姿を示せ』
刀になった蛇輝にサファイアを当てる。
『サファイアよ、その力、氷の力を我が剣に宿せ』
襲ってきた、村人に変装した兵士達と切り結ぶと同時にその力を解放する。
「氷結剣」
体を凍りつけ、動きを封じた敵を蹴倒し、相手の歩みを遅くして、駆け出すクーパ。
その後ろにウドンがつき言う。
「ここで、俺が足止めをするから先にいけ」
ウドンの言葉をクーパが即答する。
「却下。貴方一人で、足止めしたら、貴方が逃げられない。二人で足止めしている間に、オシロに大技使ってもらうよ。良いよね?」
オシロが頷くが、ウドンが反発する。
「何度も言うが、俺達は、お前の護衛だ! お前に万が一の事があるかもしれない事をさせられない!」
二人が、睨み合う。
その時、クーパたちの前方から矢が飛んできた。
「危ない!」
クーパに当ると思った瞬間、オシロが盾になった。
「「オシロ!」」
クーパが慌てて駆け寄り、傷を見る。
「急所を外してる。でも抜いたら出血でやばい。ウドン、背負いなさい!」
ウドンが戸惑う。
「そんな事をしたら、戦えなくなる」
今も、必死に敵を食い止めているウドンが血を吐く思いで言う。
「俺達を見捨てて、逃げろ。助けに来てくれた事は、感謝をする。このままでは、三人とも死ぬ事になる」
クーパがダイヤを複数、蛇輝に当てる。
『ダイヤよ、その力、閃光の力を我が剣に宿せ』
激しい光が蛇輝に宿り、クーパが大きく、蛇輝を振ると、光が飛び散り、地面に無数の大穴を作る。
クーパは、ウドンと敵の間に入り言う。
「何かを護る時の輝石剣士の力を舐めないで。先にいきな」
ウドンは、頷く。
「解った。この借りは、必ず返す」
ウドンが、オシロを背負うと、駆け出す。
「前にも気をつけてね」
クーパは、そう忠告しながらエメラルドを蛇輝に当てる。
『エメラルドよ、その力、風の力を我が剣に宿せ』
体を回転させながら、クーパが蛇輝を振るう。
「烈風陣」
風が、無数に襲ってくる矢を受け流す。
しかし、その間に、敵が迫ってくる。
『タイガーズアイよ、その力、雷の力を我が剣に宿せ』
クーパがタイガーズアイの力を蛇輝に宿らせると、複雑な剣舞を舞う。
すると、襲い掛かってきた敵兵達が、直前で倒れていく。
「雷球舞、目には、見えない雷の塊を打ち出したよ。不用意に近づくと感電するよ」
敵が怯む中、サファイアを蛇輝に当てるクーパ。
『サファイアよ、その力、水の力を我が剣に宿せ』
サファイアの力を宿らせた蛇輝を腰に構え、気合を溜め込みクーパが暫撃を放つ。
「水流波」
蛇輝から放たれた水流は、敵兵を掠めるが、ダメージは、無かったように見えたが、次の瞬間、感電したように倒れていく。
「水は、電撃を通す。いま空中に撒いた、雷球の電気が貴方達を襲ったよ」
敵兵は、圧倒的な力に、どよめき、一歩後退してしまう。
そしてクーパがオニキスを蛇輝に当てた。
『オニキスよ、その力、闇の力を我が剣に宿せ』
蛇輝が振るわれた時、誰もが咄嗟に飛び退いた。
しかし、それは、攻撃では、無かった。
周囲に闇が飛び散り、クーパの姿を覆い隠した。
慌てて、追いかけようとしたが、まだ残っていた雷球に、感電する者がでて、動けなくなる敵兵であった。
「謝罪は、する。しかし、許してもらおうとは、思わない。だが、陛下に対する忠義心だけは、失わないでくれ。これは、私の無能がまねいた事だ。恨むのなら、私を恨んでくれ」
オシロの治療の手配を終えたガンの言葉に、ウドンが首を振る。
「オシロもロ親衛隊の一人。陛下の為に命を懸ける覚悟は、あります。気になさらないで下さい」
「お前達を攻撃した奴等には、必ず後悔させてやる。それだけは、信じてくれ」
その言葉を残し、問題の村に、大軍をつれて向かっていくガン。
残ったウドンにクーパが言う。
「最初の一発は、あんたに譲るよ」
ウドンが拳を血が滴り落ちる程、握り締めて言う。
「当然だ。それだけは、譲れないぞ」
ウドンとクーパは、出撃の騒ぎで慌しい中、ヤペの所に行く。
そしてウドンが、渾身の一撃を放つ。
激しく吹っ飛ぶヤペ。
周囲がざわめく中、クーパが皇族の証を見せて言う。
「関らない事だよ。関れば皇族問題に首を突っ込む事になるよ」
その言葉に、誰もが背を向ける。
ヤペは、立ち上がり言う。
「痛いですね。何か恨みでもあるのですか?」
ウドンが恨みを込めて視線を向けて言う。
「恨みが無いとでも思うのか! 敵とは、逆のほうから矢が飛んで来た。あれは、お前の部下の仕業だろーが!」
ヤペが肩を竦ませて言う。
「何か証拠でもあるのですか?」
クーパが近づき、腹に一発入れて言う。
「無いよ。有ったら、とっくに正式に貴方を罰して貰ってるよ。だからってあちき達が怒りを堪える必要は、無い。私刑を行う権利位あるんだよ」
冷たい眼差しにヤペが青褪めて慌てる。
「私の後ろに誰が居るか、解っているのですか?」
頷く、ウドンとクーパ。
「だったら、解るでしょ? こんな事をしたら後でどうなるか?」
クーパは笑みを浮かべる。
「どうにもならないよ。だって貴方は、捨て駒だもん。使えなくなったら別の駒を用意されるだけ。それで一々大切なカードを切ってきたりしないよ」
ウドンが拳を鳴らして近づく。
「本当だったら、切り殺したい所だが、お前の主に伝言があるから、半殺しで許してやる」
鍛え抜かれたウドンの拳が、智謀だけのヤペの体を破壊していく。
「誰か助けろ!」
必死に救いを求めるが、クーパが見せた皇族の証がそれを邪魔する。
ボロボロになった所で、クーパが近づき言う。
「主に伝えておきなさい。輝石剣士の力は、護りの力。争いを好まないが、大切な人間を巻き込むとなれば話は、別だと。次は、同じ様な真似をしたら、あなた達を潰しに掛かると」
そしてクーパとウドンは、その場を離れる。
ベッドで横になるオシロを見ながらウドンが言う。
「将軍がいう通りなのかもしれないな」
クーパが眉を顰める。
「何のこと?」
ウドンがクーパの方を向き言う。
「お前が陛下と結婚した方が、争いが起こるが、正しい事だって話だ」
クーパが慌てて言う。
「あのね、こんな騒動が起こっているのに、そういう? 本当に結婚話が出れば、こんなもんじゃ済まないよ!」
「しかし、騒動が起こる。陛下がお前の事を愛している以上、避けられない争いなんじゃないか? だったらいっそ結婚してしまえば、陛下が幸せになれ、ロン様も納得するのでは、ないか?」
ウドンの言葉に、クーパは、反論が出来なかった。
その日の夜、クーパはウドン達を残して、町を抜け出した。
今回は、思いっきり戦闘モードでした。
ロとクーパそしてロンの三角関係が巻き起こすトラブルが元で、遂にオシロが大怪我を負いました。
ロンの父親、ガンの言葉に、ウドンもロとクーパの結婚を肯定し始めます。
次は、北の調和竜が出てきます。
そこでクーパが大きな選択に迫られます。




