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オレンジな明日の国民

帝国最北部にある農村、メルック

「遠くまで来たね」

 クーパが背伸びをする。

『奴等を置いてきてよかったのか?』

 ペンダントのキキの言葉にクーパが頷く。

「これ以上は、余計な人間を巻き込ませられない。全て、あちきとロの問題だから」

『確認しておくが、お前は、ロの事を好きでは、ないのだな?』

 キキの質問に首を横に振るクーパ。

「好きだよ。優しいし、大切にしてくれる。多分、他の何を犠牲にしてもあちきを選んでくれる。乙女の夢だね。でも、誰かを傷つけてまで、結婚して独占したいと思えない。あちきは、多分二番目や三番目が良い。ロの一番目になるなんて、帝国の全てと自分が天秤に掛けられるって事だから、物凄い罪悪感だよ」

『確かにな、本当にロの事が好きでなければ、そんな罪悪感には、向かっていけないな』

 キキが納得する中、クーパが言う。

「だからこそ、ロンさんがあちきに刺客を送ってくるのも容認している。これは、輝石剣士としての決定だよ」

 クーパの脳裏には、城を出るまでの話し合いが思い出された。



「また、お前のところに来ていたのだな?」

 道場での修業を終えて、帰る途中に、ロの側近であるバンに捕まったクーパが頭を下げる。

「すいません。輝石剣士としての機密もあるので、二度と来ないように強く言っておきました」

 首を横に振るバン。

「その機密に対する、皇帝への開示義務を作ろうと、動き始めた」

 呆れた顔をするクーパ。

「いくらロに権力があるからと言って、そんなごり押しは、通りませんよね?」

 バンが難しそうな顔をする。

「普通の皇帝なら、不可能だろうな」

 クーパが唾を飲む。

「まさか、もう、目処をつけているの?」

 バンが頷く。

「過去にあった、刺客を理由に、護身の為に皇帝が近隣に居る者たちの技を知る規約を作ろうとしている。反発も出そうだが、強く反発すれば、反意を持っている事になりかねない為、誰も強固に反対できないで居る」

 大きく溜息を吐くクーパ。

「有能過ぎると言うのも問題だね」

 バンがクーパの顔を凝視して言う。

「いっその事、顔に大怪我でも作るか?」

 その言葉には、一緒に来ていた、ロつきのメイドでバンの恋人、ムーメが怒鳴る。

「女の子の顔に傷を作るなんて、許されると思ってるの!」

 しかし、クーパは平然と言う。

「あちきは、平気。元々、叔母さんに似すぎてて、色々トラブルの元だったから、それが回避できるんだったら、顔に傷くらいつけても良いよ」

 バンが頷く。

「ならば、その線で行くか。あいつも、顔に大怪我負った女性に求婚は、しないだろう」

「待って!」

 ムーメが止めようとしたが、クーパものりきであった。

「それだったら、火傷の方が良いよね? でも視界塞がるのは、嫌だよ」

「そんな事をしたら、あの子は、クーパの怪我の原因に少しでも関係ある人間を、一族ごと処刑しますよ」

 その声に振り返ると、皇帝の母で、クーパの叔母、ミーナが立っていた。

「自分でやったって言えば、大丈夫だと思うけど?」

 クーパの言葉に、ミーナが首を横に振る。

「残念だけど、それも駄目。火傷の原因になる物を用意した人、それを作った人間。止められなかった周りの人物。全てを処刑するわ」

 バンが顔を引き攣らせながら言う。

「いくらロでもそこまでは、しないと思いますが?」

 ミーナが遠くを見ながら言う。

「私が、訓練中の事故で大怪我を負って、暫く休養をとって戻った時には、訓練を行った場所は、取り壊され、建築に関った物は、処刑されていた。現場監督官に至っては、公開処刑にあったわ。全ては、先の皇帝、ロの父親の決定だったわ。ロは、父親に凄く似ているわ」

 バンが唾を飲みながらも反論する。

「しかし、このままでは、政務に影響が出てくるのは、明白です」

 ミーナがクーパの方を向く。

「クーパ。すまないけれど、輝石剣士として、城での名誉を受けることは、諦めてもらえる」

 その言葉に、クーパは驚く。

「どうしてですか! あちきは、輝石剣士として育ちました。いずれは、バン兄さんの様に役職について、その力を十二分にホーク帝国に役立てたいです!」

 ミーナがはっきり答える。

「残念だけど無理よ。それは、私が証明しているわ。頑張れば頑張るほど、周囲に余計な負担を増やした。私が、現役を引退したのは、そんな状況を打破するため。そして、正直、貴女がロと結婚する事は、輝石剣士は、望まない。理由は、解るわね?」

 クーパが頷く。

「輝石剣士が軍部に強い発言力を有しています。それは、ミーナ叔母さんが皇太后だから。この上、再び后に輝石剣士が選ばれたら、輝石剣士の権力は、あるいみ磐石な物になります。しかし、それは、対抗勢力を生み出す要因にしかならないから」

 バンが頭をかき言う。

「今は、軍部で一番発言力がある、ガン将軍の娘を婚約者に置く事で、バランスを保っている。あいつの気持ちがクーパにしか向いてないことを知れば、争いの火種になる」

「だから、貴女には、城を出て欲しい。その間に、私達が、ロとロンさんの仲を育み、結婚させる。男子が生まれれば、ロンさんの地位が不動の物になる。それまでの間、城を離れていて欲しいの」

 ミーナの言葉にクーパは、即答を出来なかった。



「結局、城を出て、旅をすることになったけど、商人ってあちきに合ってるよね」

 そう呟きながら、貧しい農村で、商品を売るクーパ。

 しかし、あまり売れ行きが良くなかった。

 店頭に並べられたアクセサリーを欲しそうに見ながらも、通り過ぎて行く女性は、大勢居たが、買われるのは、大半が一般雑貨のみであった。



 売上が上がらず、クーパが酒場でやけ食いをしていると、クーパと同じ、行商人が近寄って来て言う。

「この辺じゃ、まだ贅沢品は、高嶺の花だよ。それでも、帝国に占領される前よりは、ましだがね」

 首を傾げるクーパ。

「そうかな、占領された直後の貧困に喘ぐ人たちってかなり見たよ」

 商人が大きく肩を竦める。

「貴女は、ホーク帝国を出たことが無いね?」

 クーパが頷くと商人が続ける。

「ホーク帝国は、上の人間の征服欲が強いから、常に戦争をしている。だから、国民が武器になる事を知っている。その為に、国民を生かすことには、細心の注意が払われている。しかし、自分の地位に満足した中途半端な王達は、国民を使い捨ての道具としか思って居ない。そんな奴等の国は、地獄だよ」

 暗く、そして根深い闇をクーパは、見た。

「もしかして、貴方の国もそんな国だったの?」

 商人は、苦笑する。

「ああ、それで、国を飛び出して、ホーク帝国にたどり着き、商人になった。十年も経った時、自分の国がホーク帝国に飲み込まれ、占領されたと聞いた時は、最悪な状況を予測した。しかし、行ってみたら、予測が裏切られていた。そこには、笑顔があったんだ。元の国王の下には、無かった笑顔が。楽では、無いが、毎日食べていける。もう長くないと思っていた母親とホーク帝国が作った病院で再会できた時、皇帝陛下に感謝をしたよ。周りの国は、ホーク帝国の事を、戦争を繰返す、邪悪な侵略国家だと言うが、そういう自分達は、なんなんだ! 既得権利を使って、贅沢をし、その下で、どれだけの人間が飢えて居るかも知ろうともしない奴等に、陛下を、ホーク帝国を悪く言う資格なんかあるわけない!」

 ヒートアップする商人。

 酒場の人間の大半が賛同していく。

 それを見ていた一人の少年が言う。

「これは、危険な兆候だ」

 クーパがその少年を指差して言う。

「誰かの連れ?」

 客達は、首を横に振る。

 少年は、カウンターにお金を置いた。

「代金は、ここに置いておく」

 そのまま、店を出て行く少年。

 クーパが首を傾げていると、マスターも首を傾げる。

「こんな古い硬貨、どこのだ?」

 クーパがそれを確認すると、ペンダントのキキが答える。

『それは、百年以上前のホーク帝国で発行した特殊硬貨だ。そういえば、奴等にも記念品として、渡してあったな』

 クーパが酒場を出てから問いかける。

「さっきの、調和竜の一体?」

『ああ、地の調和竜だな。しかし、火の調和竜と良い、過剰な干渉な気がするが?』

 キキの答えに、クーパが悩みだす。



『本当に会いに行くのか?』

 キキの言葉に、クーパが頷く。

「会って真意を確かめないと」

 そして、キキの案内の元、地の調和竜が住む、洞窟に入るクーパ。

「お邪魔します。輝石剣士クーパ=ホーが話しを聞きに参りました」

 以外にも返事は、直ぐに帰ってきた。

『奥に入ってくるが良い』

 声に応えて、奥に入るクーパ。

 そこには、ミーナと共に会った、風の調和竜より二周り大きな竜が居た。

「昨日の言葉の真意を聞きに来ました」

 それに対して、地の調和竜が答える。

『そのままの意味だ。我々は、この世界の調和を司る者。ホーク帝国の勢力、勢い、指導者、多くの点で他の勢力を凌駕している。これは、非常に危険な状態だ』

 クーパは必死に言う。

「しかし、皇帝陛下のお蔭で、地獄から抜け出した人も多く居ます。現状は、悲観するほど悪い状況とは、思えませんが?」

 地の調和竜が首を横に振る。

『地獄は、この現世にこそ必要なのだ。はっきり言おう、ホーク帝国がこの大陸を統一した後、行き場を無くした力は、破滅を呼ぶ。誰もホーク帝国の暴走を止められず、人間達は、滅びの道を進む。我々の調和竜の、様々な世界の過去記憶を知る者の判断だ』

 クーパが反論する。

「幾ら、皇帝陛下が優秀でも、大陸統一は、不可能です」

 地の調和竜が頷く。

『今のままでは、無理だろう。だが、あれが覇王として覚醒した時、その侵攻は、激流と変わる。そしてその鍵は、お前が持つ』

 困惑するクーパに地の調和竜が告げる。

『人としての心。不完全である証。感情による暴走。それが人を不安にさせて、皇帝としての欠点を産みだす。その為に、誰もが否定するお前との関係が必要なのだ。皇帝は、お前の為に、大きな痛手を国に負わせる。それは、不評となるだろう。それこそ、覇王を生み出さないための方法』

 クーパの目が鋭くなる。

「それは、多くの国民を犠牲にする事を意味しませんか?」

『多少の犠牲は、仕方ない事だ。皇帝は、それを補って余りある祝福を与える者でもある』

 地の調和竜の答えにクーパが反論する。

「あちきは、認めたくありません。自分の為に多くの人間が不幸になるなんて」

 地の調和竜が悲しそうな目をする。

『そんなお前だからこそ、この先、多くの者を救う為にその命を懸ける時が来る。その時、お前を救うか、国民を救うかの選択が生まれる。それでどちらを選ぶかで皇帝の行き末が決まる』

 言葉を無くすクーパ。

 そしてキキが語る。

『もしも、覇王が生まれた時、調和竜が立つのだな?』

 地の調和竜が強い眼差しで答える。

『大きな争いになるだろう。そして、多くの人間を打ち滅ぼし、我等は、邪悪なる者と言われるだろう。しかし、それでもこの世界が滅び、人間が全滅するのは、回避しなければならない』

 クーパは、地の調和竜の洞窟を後にする。



「あちきは、どうすれば良いの?」

 クーパの呟きにキキが答える。

『自分の思いだけに素直になれ。周りの状況など関係ない。世界を救う為だけに、ロと結婚するのは、どちらにとっても不幸な事だ』

 クーパは、帝都の方を向いて言う。

「帝都に戻るよ。自分の気持ちをはっきりさせに」

 歩みだすクーパ。



 ロンを後ろから後押しする、大臣のセル=ドロスが宮殿の自室で暴れていた。

「ガンの奴は、何を考えているだ! 娘が可愛くないのか? どうして、陛下と輝石剣士の娘の仲を勧めるのだ!」

 全身を包帯だらけのヤペが自分の報告で暴れまわっている主に舌打ちをしていた。

 その時、一人の男が入ってきて言う。

「クーパ=ホーを監視して居た人間から連絡が入りました。クーパが帝都に向かって移動を開始したそうです!」

 青褪めるセル。

「陛下に、我々の悪事を密告するつもりなのか! 急いで、始末するのだ!」

 慌てて、命令を伝えに行く男。

「お前も早く、動くのだ!」

 セルの言葉に、ヤペが頷く。

「了解しました」

 部屋を出た後、ヤペが呟くのであった。

「そろそろ見限り時だな、保険をかけておくか」

今回は、かなりシリアスです。

結論から言えば、地の調和竜が言ったとおりの物凄い戦いになり、ホーク帝国は、滅びます。

そして、邪神竜として調和竜は、封印されてしまいます。


次回、第一部完的話。

期待を持たせるのも何なので、結論から先に、ロのボケで問題を先送りにします。

激しい戦闘シーンと世間からは、賢帝と呼ばれるロの豪快な自爆ボケを楽しみにしていてください。

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