第73話 「みんなの帰る場所」
数日後、それぞれの帰省を終えた仲間たちは再び集まる。目的地は一つ。リリアの家だった。
「お邪魔しますわ!」
エレノア到着。
「来ました!」
ルシェ到着。
「久しぶりだな」
セリナ到着。
「長旅だったわ」
フィアナ到着。
「戻ったぞ」
最後にティアも荷物を背負って現れた。
先に滞在していたミレーユ、ノア、カレン、ユナ、そしてルナが、玄関先まで迎えに出る。
「おかえり」
ミレーユが笑う。
「おかえりなさい」
ノアも小さく頷いた。
「観察対象が増えましたね」
カレンが早速メモを構える。
「私は観察対象じゃありません!」
エレノアが即座に抗議した。誰もが笑った。
「みんな揃うと、やっぱり賑やかですね」
ユナが嬉しそうに言う。
ルナは縁側から手をひらひらと振っていた。
「おかえりー」
いつも通りの気楽さだった。エレノアがふとルナに気付き、律儀に頭を下げる。
「神様も、お変わりなく」
「お菓子、故郷のも美味しいよ」
答えになっていない返事だった。だが、それもいつも通りだった。気付けば全員揃っていた。
リリアの母が固まる。
「増えたわね」
父も頷く。
「さらに増えたな」
当然だった。十人パーティーである。庭は賑やかだった。食卓も賑やかだった。家も賑やかだった。いや、騒がしかった。
「リリア先輩!」
「リリア!」
「リリアさん!」
あちこちから声が飛ぶ。父がぼそりと呟く。
「よく友達ができたな」
ミレーユが笑った。
「私もそう思います」
満場一致だった。
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# 第73話「みんなの帰る場所」(リライト版)
リリアたちが故郷でのんびりしていた頃。帝都からそれぞれの故郷へ帰った仲間たちも、久しぶりの時間を過ごしていた。
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最初に領地へ戻ったのはエレノアだった。ローゼンベルク家の屋敷。使用人たちが一斉に頭を下げる。久々の帰宅だった。
「おかえりなさいませ、お嬢様」
「ただいま帰りましたわ」
相変わらず優雅だった。しかし以前より少しだけ雰囲気が違う。柔らかくなった。領民たちと話す姿も自然になった。
「学校はどうでしたかな?」
執事が尋ねる。
エレノアは少し笑った。
「楽しかったですわ」
それが本音だった。友人もできた。仲間もできた。守りたいものも増えた。
「もっと良い領地にしたいですわね」
そう呟いた時、周囲の使用人たちは嬉しそうに笑っていた。
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一方、セリナは剣術道場へ戻っていた。
「帰ったか」
師範である父が迎える。
「ただいま」
簡潔だった。親子らしい親子である。しかし訓練場へ入ると、すぐ木剣が飛んできた。
「久しぶりだ」
「望むところだ」
模擬戦開始。数分後、父が木剣を下ろした。
「強くなったな」
初めてだった。正面からそう言われたのは。セリナは少しだけ照れた。
「まだまだだ」
だが内心は嬉しかった。
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次にルシェ。帝都と故郷を繋ぐ商会へ帰っていた。
「お嬢ちゃん帰ったか!」
商人たちが歓迎する。
「ただいまです!」
相変わらず元気だった。帳簿を見る。取引を見る。商品の流れを見る。以前なら難しかったことも理解できる。帝都で勉強してきた成果だった。
「成長したなぁ」
商会長が感心する。
ルシェは胸を張った。
「将来は帝国一の商人になりますから!」
大きな夢だった。しかし誰も笑わなかった。今のルシェなら本当にやりそうだからだ。
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そしてフィアナ。久しぶりの同盟国だった。国境を越える。懐かしい空気。懐かしい言葉。懐かしい故郷。
「フィアナ!」
友人たちが駆け寄ってくる。しばらく会っていなかった。話すことはいくらでもあった。帝都のこと。学校のこと。仲間のこと。そして、
「帝国の人たちって本当はそんな感じなの?」
その質問に、フィアナは笑った。
「人によるわ」
正しい答えだった。
「でも良い人もたくさんいる」
リリアたちを思い出す。
「少なくとも私の友達はね」
そう言うと、少しだけ誇らしい気持ちになった。
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そしてティアも、久しぶりに工房へ戻っていた。
「戻ったか」
師匠のドワーフが、槌を振る手を止めずに迎える。
「戻った」
ティアも短く答えながら、勝手知ったる様子で作業着に袖を通す。帝都の工房ではもう見慣れた光景だが、故郷の炉の火はまた違う匂いがした。
「腕、鈍ってないだろうな」
「試してみるか」
言うが早いか、ティアは鉄を炉へくべ始めていた。しばらく槌を振るう。カン、カン、と音が響く。師匠がその手つきを黙って見ていた。
「悪くない。むしろ、前より良くなってるな」
「向こうでも、色々作ってるからな」
短いやり取りだったが、ティアの顔にはどこか誇らしげな色があった。地下都市で見た古代の技術のことも、いつか師匠に話してみたい。そう思いながら、しばらく手を動かし続けた。
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数日後、それぞれの帰省を終えた仲間たちは再び集まる。目的地は一つ。リリアの家だった。
「お邪魔しますわ!」
エレノア到着。
「来ました!」
ルシェ到着。
「久しぶりだな」
セリナ到着。
「長旅だったわ」
フィアナ到着。
「戻ったぞ」
最後にティアも荷物を背負って現れた。
先に滞在していたミレーユ、ノア、カレン、ユナ、そしてルナが、玄関先まで迎えに出る。
「おかえり」
ミレーユが笑う。
「おかえりなさい」
ノアも小さく頷いた。
「観察対象が増えましたね」
カレンが早速メモを構える。
「私は観察対象じゃありません!」
エレノアが即座に抗議した。誰もが笑った。
「みんな揃うと、やっぱり賑やかですね」
ユナが嬉しそうに言う。
ルナは縁側から手をひらひらと振っていた。
「おかえりー」
いつも通りの気楽さだった。エレノアがふとルナに気付き、律儀に頭を下げる。
「神様も、お変わりなく」
「お菓子、故郷のも美味しいよ」
答えになっていない返事だった。だが、それもいつも通りだった。気付けば全員揃っていた。
リリアの母が固まる。
「増えたわね」
父も頷く。
「さらに増えたな」
当然だった。十人パーティーである。庭は賑やかだった。食卓も賑やかだった。家も賑やかだった。いや、騒がしかった。
「リリア先輩!」
「リリア!」
「リリアさん!」
あちこちから声が飛ぶ。父がぼそりと呟く。
「よく友達ができたな」
ミレーユが笑った。
「私もそう思います」
満場一致だった。
その夜、子供たちが騒ぐ声を聞きながら、両親は台所で二人きりの時間を過ごしていた。
「立派になったわね、リリア」
母がしみじみと言う。
「昔は水滴しか出せなかったのにな」
父も湯呑みを傾けながら頷いた。故郷の学校で、初めて回復魔法が発覚した日のことを思い出しているようだった。あの日は、一滴の水で騒ぎになった。
「今じゃ、桶いっぱい出せるらしいわよ」
「聞いた。しかも、魔力を回復させる水まで出せるとか」
「あの子が?」
母は少し驚いた顔をした。
「エレノアさんが話してくれたの。地下都市で、大変な時に助けてもらった、って」
父はしばらく黙って、湯呑みの中身を見つめていた。
「大きくなったな」
短い一言だった。だが、そこには色々な感情が込められているようだった。
「そういえば、今日、診療所の先生のところにも顔を出したそうよ」
母が思い出したように言う。
「先生、驚いてたでしょうね」
「昔、あの子の水を何度も試させてもらった仲だからな。ずいぶん感慨深そうだった、って聞いた」
父は少し目を細めた。
「あの頃から、ずっと世話になってる相手だ。喜んでくれたなら何よりだ」
「立派に育ってくれて、嬉しいわ」
母が微笑む。父も、珍しく柔らかい表情で頷いた。
「ああ」
窓の外からは、まだ子供たちの賑やかな声が聞こえていた。その声を聞きながら、両親はしばらく、静かに笑い合っていた。
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夕方、全員で村を散歩する。薬草畑。広場。橋。学校。昔リリアが遊んでいた場所。
「ここで育ったのね」
フィアナが言う。
「うん」
「なるほど」
何か納得された。理由は誰にも分からない。
道すがら、見慣れた診療所の前を通りかかった。中から、白髪の老医師が顔を出す。
「おや、リリアじゃないか」
昔からの顔なじみだった。かつて、まだ一滴の回復水しか出せなかった頃、何度も実験に付き合ってもらった相手でもある。
「久しぶり」
「大きくなったな。それに」
老医師は、リリアの後ろに続く仲間たちを見て、目を丸くした。
「ずいぶん賑やかになったものだ」
リリアは少し得意げに笑った。
「聞いて。回復水、もう傷薬だけじゃないよ」
老医師が首を傾げる。
「どういうことだね」
「魔力回復の水も出せるし、普通の綺麗な水も、意識すれば作り分けられる。あと、桶いっぱいとか、大量にも出せるようになった」
一息に説明する。老医師はしばらく黙って、それを聞いていた。
「……あの頃は、一滴出すだけで大騒ぎだったのにな」
懐かしそうな声だった。かつて、村の診療所で何度も水滴を落としてもらい、傷の治りの速さに驚いていた、あの日々を思い出しているようだった。
「あんな小さかった子が、そこまで」
老医師は目を細めた。半分は驚き、半分は、それ以上に温かい感情がこもっているようだった。
「今度、詳しく聞かせてくれるか。年寄りの好奇心でな」
「うん、いいよ」
即答だった。約束を交わすように、二人は頷き合った。
散歩の途中、ノアはふと足を止め、賑やかに歩く仲間たちの背中を眺めていた。
「じいちゃんに、この事を手紙に書こう」
小さな呟きだった。誰に聞かせるつもりもない、独り言に近かった。だが、隣を歩いていたリリアには、その声がしっかり届いていた。
「何て書くの?」
「みんなで、リリアの家に来た、って」
「それだけ?」
「うん」
それだけで、十分な気がした。祖父にとっても、それが一番嬉しい報告になるはずだった。
リリアは笑った。
「いいね」
「うん」
短いやり取りだったが、ノアの表情は、いつもより少しだけ柔らかかった。
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そして翌朝、帝都へ戻る日。馬車の前、村人たちが集まっていた。前回と同じ光景だった。
「また来る!」
ユナが手を振る。
「歓迎しますわ!」
エレノア。
「今度は商売で来ます!」
ルシェ。
みんな楽しそうだった。リリアの母も笑う。
「またいつでも帰ってきなさい」
「うん」
リリアは頷いた。帰れる場所がある。待っていてくれる人がいる。それはとても幸せなことだった。
馬車が動き始める。帝都へ向かう道。仲間たちは笑い合う。平和な休暇だった。短い休暇だった。だが十分だった。力をもらった。元気ももらった。
そして、これから始まる大きな出来事に向き合う準備もできた。
リリアは窓の外を見る。故郷が遠ざかっていく。少しだけ寂しい。でも、
「楽しみ」
その一言だった。ミレーユは呆れたように笑う。
「帰る時もそれなのね」
「うん」
それがリリアだった。
こうして少女たちは帝都へ戻る。知らず知らずのうちに積み重ねてきた人との繋がりを胸に。




