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花染め屋の四季彩〜森に隠れ住む魔法使いは魔法の花の力で依頼を解決する〜  作者: 花房いちご
第四章 天上の青、地上の雫

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天上の青、地上の雫 八話

 夕飯の後。セレスティアとジェドは、明日以降の予定を相談し合ってから眠った。


(ふかふかのベッド、いい気分)


 ティリアの工房兼自宅には、空き部屋が幾つかあった。セレスティアとジェドは一部屋づつあてがわれたのだが、何故かジェドは『俺は外で寝る!野営で充分だよ!』と主張した。ティリアは許さなかったが。


(ジェド様、生殺しがどうとか言ってたけどなんだろう?まあいいか。それより……)


 セレスティアは、相談内容を振り返った。

 明日の朝、王都で準備してからルディア王国に戻る。ジェドは、行きよりも帰りの方が困難だと言った。


『ルディアの結界は、出るよりも入る方が難しくなっているはずだ』


 確かにそうだが、セレスティアには魔力の流れが見える【魔眼】がある。多少の時間はかかるかもしれないが、焦らずに見定めれば入れるはずだ。

 他にも理由がある。


(理由を他国人のジェドさんに言うべきではないけど、現政権は信用ならない。父様たちも力さえあれば反旗を翻す気だった。なによりも、ルディアとフリジアが対立した場合、辺境軍に頼られているジェドさんが巻き込まれる可能性は高い)


 しばし悩んだが、現政権への不信感含めて話すことにした。


『ジェドさんには返しきれない恩があります。結界について、私が知っていることをお教えします。情報と私の見立てが確かなら、結界は不安定なまま安定することはありません。むしろ、さらに不安定になるでしょう』


『っ!それは何故だい?』


 セレスティアは顔を曇らせた。セレスティアの父が収集した話は酷いものだった。

 あの結界は、大量の魔道具と複数の魔法使いで維持している。

 魔道具と彼らは、国境沿いの塔に分かれて守られている。魔道具の補強があるとはいえ、強力で巨大な結界を張れる優秀な光属性魔法の使い手たちだ。


『本来なら丁重に扱われるべきですが……彼らは虐げられていて、次々と命を落としているそうです。そして、その度に新しい魔法使いを追加しているのですが、だんだんと数も減って実力も下がっている。結界が不安定なのも当たり前ですね』


 虐げられている彼らは、おそらくは前政権で重用されていた魔法使いたちだ。信じられない暴挙である。


『酷い話です。現政権は、彼らを闇属性魔法の【最上級洗脳】で従わせているらしいです』


『……そうか。噂は本当なんだな』


 ジェドの琥珀色の目が強く光り、厳しい顔になった。


『セレスティア、教えてくれてありがとう』


 その後は、明日何を買うかの相談になった。セレスティアにとっては、結界の中に入ってからの方が心配だ。ジェドはついて来ないのだから。


『食料と服と(ゴースト)避けの護符は必要ですね。まあ、護符に関しては要らないかもしれませんが念のため』


 セレスティアは(ゴースト)を闇俗世魔法の【忘却】で祓える。

 ジェドは祓えないが、霊感があるので物や人に取り憑いた霊も見ることができる。

 それに、一度倒れてからは霊を全く見てない。国境から王都までの道のりでも見なかった。


「この辺りでも、大規模な(ゴースト)討伐をしたのでしょうか?こんなに(ゴースト)に絡まれないし見かけないのは初めてです」

 

 一瞬、ジェドは複雑な顔になった。


『ああ、そうかもな。俺も戻ったばかりだから知らないけど。……それより、ティリアが君に古着を贈りたいと言っていたよ』


『え!助かります!お二人には、何から何までお世話になりました。いずれご恩返しをさせて下さい』


『とんでもない!ティリアの働きはともかく、俺のやった事なんて大した事ないよ。君が教えてくれた情報の借りは絶対に返す』


『まさかそんな』


『本当さ。君に心残りがないようにする』


 ジェドの真剣な顔と共に、話し合いはお開きになった。

 違和感の正体が掴めそうで掴めないが、しっかり睡眠を取る方が大事だ。


(【ガニュメデスの水瓶】を、送り届けなきゃいけないんだから。それまで、私は……)


 セレスティアは青空色の目を閉じ、眠りに落ちた。


 ◆◆◆◆◆


 翌朝。朝食の後、ティリアから服を渡された。とても綺麗な刺繍が施された、青空色のフード付きローブだ。なんと、古着を天上釣鐘(セレストブルーベル)花染(はなそ)めてくれたのだと言う。


「わあ綺麗!本当に頂いてよろしいのですか!?」


 しかも、美しいだけではない。しっかり水属性魔法の力で染まっているので、魔道具として使える。


「もちろんです。私にはこんなことしか出来ませんが……」


「とんでもないです!宝物にします!」


 ティリアは眩しそうに目を細め、羽織るようにすすめてくれた。セレスティアはローブを羽織り、外に出た。朝の光の中でくるくる回る。ローブの裾が広がる。青い蝶が戯れているかのようだ。


「セレスティア!よく似合っている!」


「本当に。姿見でご覧になりますか?」


「いえ、鏡なら自分で用意できます!」


(【ガニュメデスの水瓶】が無くても、このローブならきっと出来る)


 セレスティアは動きを止めて集中した。


「水面よ水面、磨かれよ。水面よ水面、全てを映せ。水面よ、水面、(まこと)を写す鏡となれ【水鏡】」


 セレスティアの周りを螺旋状に水流が巡り、正面で楕円形にまとまっていく。


(やった!こんなに水属性魔法が上手くいったのはじめて)


 水の楕円は大きく縦長く薄くなり、くすみのない鏡となっていき……。


「……え?」


 写った己の姿に、セレスティアは固まった。


「え?だ……誰?」


 髪と目は青空色だが、顔立ちも背丈も違った。手で触って、その手の形や大きさも己のものとは違うと気づく。


「これは私の顔じゃない」

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