怠け者の翠風 七話
カイはその日のうちに王都に帰った。
すでに日が落ちていたが、冒険者ギルドは開いていた。カウンターにいたメンダーは、カイを見てすぐ駆け寄ってきた。
『うわ!いっぱい背負ってる!すげえ!見せて見せて!』
『うお!まとわりつくな!犬かお前は!』
『メンダー!落ち着け!……カイさんすみません。ここではなんですから、こちらにどうぞ』
ミンディが疲れた顔で別室に案内してくれた。そして、メンダーとミンディはカイの成果に嬉しい悲鳴を上げる。
当然だ。本命の【風切矢車菊】二輪はもとより、ある程度傷んでいるが【雷光狐】一匹と【地震兎】数羽が手に入ったからだ。
『おっしゃー!カイさんをスカウトした俺たちの目が確か過ぎる!特別支給もらったあああ!』
『ありがとうございます!次は【迦楼羅】討伐ですよね!期待していますよ!』
やたら親切というか、冒険者にさせたがっていたのは、優秀な人材をスカウトすることで恩恵があるかららしい。変な情でなくて安心した。
(まあ、次で最後だけどよ)
とはいえ、カイは悪い気はしなかった。
今日はゆっくり寝て、明日の昼過ぎ辺りに例の【花染め屋】のところに行こう。そう考えていた。
『だからよお。明日、お前らのどっちかが、その【静寂の森】の入り口まで案内するか、地図に書き込んで……お前ら、どうした?』
メンダーとミンディは黄色い目を釣り上げた。双子なだけあって、同じ表情だと見分けがつかないなと、カイは現実逃避した。
それくらい、二人は凄まじい形相でまくしたてた。
『は?まさかとおもうけど、その泥と草の汁と虫の死骸まみれの服と革鎧で行く気?正気?洗うか古着を買うかするよね?あと、風呂にも入るよね?前から臭くて汚かったけど酷すぎ。
は?洗わないし買わないし入らない?何考えてんの?獣みたいな討伐の仕方したせいで、脳みそまで獣並みになったの?
大体さあ、この三日間ろくな飯を食べてないだろ?それなのに、明日染魔したその脚で【迦楼羅】討伐に行くつもり?本当に何考えてんの?何も考えてないの?』
『一仕事終えたのですから休息を取るのは当然です。僕の見立てですが、丸三日は休んだ方がいいでしょう。
は?今は平気?そう思っていても、後から疲労が出るのは良くあることですよ。すぐ近くに公衆浴場があるので、とりあえず入って下さい。着替えも用意しますから、その服と革鎧は洗濯屋に渡して下さい。
は?風呂も着替えも洗濯も金がかかる?確かにタダじゃないですが、ケチるほどの値段でもないです。そもそも最低限の身嗜みと装備の手入れは基本でしょう?
それでは、風呂から上がったらまたギルドに来てください。医療班の診察を受けてもらいます。ギルドに所属していれば診察はタダ、治療も格安なんですから絶対来てくださいよ』
『お……おう。わかった……』
(おしゃべりのメンダーはともかく、堅物のミンディまで面倒くせえことになった)
カイは二人の勢いに押され、しっかり休まされることになった。丸一日ぐっすり寝てから、たっぷり食べる。食べながら思うのは、やはり【迦楼羅】と首飾りのことだった。
(【迦楼羅】を討伐したら、何かわかるかもしれねえ)
カイの空っぽの心が、ほんの少し期待で波打った。
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三章完結まで毎日一度か二度更新予定です。
2023/08/19。二章「桃色は爛漫の恋をする」一話追加して全九話になりました。九話(最終話)は、三章につながるお話です。ぜひご一読ください。




