12 布団ガチャ
……寝るっ!?
ひとつ屋根の下で、この狭い空間で、女子高生と……。
……寝るっ!?
いやいやいや、それって完全にアウトなやつじゃん。
時代が時代なら、晒し首にされちゃうやつじゃん。
俺はもう、目の前で折り目正し正座しているユズリハのことが、直視できなくなっていた。
そういえば『ネルシャツ』ってさ、『寝る時に着るシャツ』の略だと思ってたんだよね。
などと思考を現実逃避させていると、
……ピロリン!
とスマホが鳴動して、思わず飛び上がりそうになってしまった。
見ると、『人生ガチャ』の画面には……。
『布団ガチャ』
というのが出現していた。
それで俺は思い出す。
我が家の布団は、高貴なJK様が身体を横たえるには、許されないほどに汚損していることを……!
こっちに引っ越してきてから、洗濯どころか一度ですら干したことがない布団。
今はユズリハの手によって隅っこのほうに畳まれているが、かつてはキノコが生えたこともあるほどの万年床だった。
あんなホームレスまたぎの物体に、ユズリハを寝かせるのは……。
美しく咲いた花を、肥溜めに投げ込むようなものだ……!
俺はすぐさま『布団ガチャ』にすがる。
これで最高レアを引き当てれば、ユズリハにふさわしい天蓋つきのベッドくらいは手に入るかもしれない。
全神経を集中し、この一ガチャに賭けるように、ボタンをプッシュした。
すると、ドラムロールの演出のあとに、出てきたのは……。
『ノーマル:寝袋』
お……終わっ……た……!
絶望にくれる俺の背後で、ドサリと着荷の音がする。
ユズリハが玄関に出て、持ってかえってきたものは……。
まぎれもない、寝袋であった……!
……おいおい、女子高生が寝袋で寝るなんて、ありえないだろ。
もしあるとしても、キャンプ漫画の中だけだ。
しかも、ここはアウトドアでもなんでもない。
風が吹くと隙間風がすごいし、雨が降れば当たり前のように雨漏りするけど……。
れっきとした、インドアなんだ……!
俺の落胆とは裏腹に、ユズリハは目を輝かせていた。
ドレスのように寝袋を拡げ、わぁわぁと歓喜の声をあげている。
「これが、お布団なのですか!? まるで、かいまきみたいですね!」
そして俺は、その寝袋が通常のものと違うことに気付いた。
よくある、ミノムシみたいにくるまって寝るタイプのものではなく……。
袋状……!?
「コレ……ふたり用の寝袋だ」
「そうなのですか? あっ……で、では、あの……」
ユズリハは急に口ごもった。
しゅるんと抱き寄せた寝袋で、顔を半分覆い隠す。
彼女はすこしの間、言葉にならない可愛い唸り声を、うにゃうにゃと絞り出していた。
しかしやがて思い切った様子で、まるで愛の告白をするような、ドキッとする上目遣いで俺を見つめると……。
カミカミで、とんでもないことを言ったのだ……!
「もっ、もし、ごめっ、ご迷惑でなければ……ごっ、ごごご、ご一緒させていただいても、よろしいれす、よろしいですか……?」