84話:勘と推理と行動力
「絶対これ、シャノンが首突っ込んで危ない目に遭うやつだと思って急いだんだ」
突然ルール島に来た理由を聞くと、ジョーはそんな風に答えた。
私の送った手紙一つで、ジョーは父親であるウィートボード公爵を説得。最短でルール島へとやって来たらしい。
「シャノンの所行ったらアンディと出かけたって言うし。捜査だと思ったから、アンディの所に行ったんだ」
「誰もいないのにどうしてアンディの所なの?」
「アンディは真面目だから何処まで調べついてるかメモしてると思ってさ」
アンディはちょっと不服そうな顔をするけど、きっと本当にそういうメモがあったんだろう。
そして事件の概要を確認したジョーは、私たちが屋敷の間取りを調べに行ったと知った。
「で、行ったらエリオットが一人で慌ててお嬢さまがいないって言ってたんだよ」
「慌てもします。いきなりお嬢さまがいなくなったんですから当たり前です」
たぶんエリオットに不機嫌な目を向けられてると思う。
エリオットは私の背後で濡れた髪を拭いているから見えないけれど。
アンディは自分でタオルを被って髪を掻き回す。
ジョーは助けるために濡れた靴と靴下を脱いでいた。
「聞いたら探索魔法効いてないって言うし。こりゃ連れ去られたと思ったんだ」
正直、看破の異能のすごさに脱帽したくなる。
私はジョー以外に探偵役の適任がいないことを知った。
「昨日決めた調査、二人が無抵抗で連れ去られた状況、シャノンほどの魔法使いを封じられる場所、そして逃げ出せない設備」
一つずつ上げて行くジョーはそれらの条件を勘案して私たちを見つけ出したそうだ。
「エリオットに聞いたら、この島って古い建物にはアンチ魔法の装飾が施されてるって言うから。古くてあんまり人がいない、その上町長の屋敷にいたらその場所に出入りできるって条件も追加して…………古い公的施設辺りかなって」
新しい物なら貴族屋敷だと当たりはつけたけれど、それなら私がエリオットに声をかけない理由がないとジョーは語る。
「で、役所行ってアンチ魔法のついた建物調べて、見るからに貴族の二人を連れて行っても目立たない場所、連れ出してすぐ帰ってこれる距離、貴族の口を封じて言い逃れできる状況を考えて」
今は使われていないこの排水施設に目星をつけたという。
古い港に通じる場所で、今は人が通わないため林と化していた。
ただし町長の采配で六年ごとくらいに手入れはしている記録が残っていたという。
「子供が遊んで溺死の事故にすれば言い逃れできるかと思ったんだ」
「ジョージさまは施設の管理者や役人を連れ、まず施設の排水の流れを確認しました」
「水がもう勝手に流れてるって聞いて焦ったぜ」
ジョーが駆けつけた時にはすでに水が溜まっていて一刻の猶予もない状況だった。
けれどすぐにどの部屋かは確認できず、ジョーは強硬策に出たという。
「放っておくと溺死する可能性があるって言うし。じゃ、もう水流してすぐに助けられる場所に引き寄せるべきだって考えたんだ」
だからジョーは排水の流れを操作させた。
「海まで地中の排水管流れるって聞いたから、この貯水池に流れを変えさせたんだ」
「元が排水施設ですからね。水を溜めたり流したりする場所なのでそうした水の操作設備はあったのですが」
「錆びついた水門を無理矢理開けるのが一番の難題だったな」
そう言って手を見せる。
よほど力を込めたらしく、真っ赤になっていた。
「だから私たちはここに流れ込んだのね」
「お嬢さま、何処か痛む箇所はありませんか?」
「大丈夫よ、エリオット。結界を張って守ったから濡れただけで済んだわ」
振り返ると無表情のエリオットがいた。
これは感情を押し込めてるんだと思う。
そして周りに人がいなくなったら爆発するんだぁ。
あぁ、これは当分出歩くことを阻止されるなぁ。
「助けられて良かった。シャノン、怖かったろ? 手もこんなに冷えてるじゃないか」
言って、ジョーは私の手を握る。
うん、恰好つくわね。
颯爽とピンチに現れて助けてくれたんだし、正直今のジョーは恰好いい。
「お嬢さま、気づかずにすみません。こちらをどうぞ」
エリオットはすぐに上着を脱いで私の肩に羽織らせた。
怒っているのにこういうことするんだよね。うん、これも恰好いい。
あれ? 恰好いいところ見せたいらしいアンディが静かだわ。
「アンディ、大丈夫? 何処か怪我でもした?」
見ると、アンディは一人燃え尽きたみたいに項垂れてる。
「恰好悪いな、僕…………」
「アンディ、そんな…………」
そんなことない、なんて言っても現状ジョーとエリオットのほうが助けてくれた側だし恰好がつく。
私が慰めの言葉を探していると、ジョーが気安くアンディの肩を叩いた。
「水に浸かって体力なくなったか? だったら、こんなことした奴のことは俺たちに任せて、屋敷に戻って休んでいいぜ」
「…………はぁ?」
あ、元気になった。
負けん気に火が付いたアンディは、ジョーを睨み上げる。
怒らせるつもりはなかったジョーが、何処で逆鱗に触れたのかわからず引いていた。
「あいつには言わなきゃいけないことがあるんだ。後から来て他人の捜査結果だけを見た君にこれ以上首を突っ込んでもらう必要はない」
「なんだよ、助けたのに…………。ま、元気ならいいや」
「…………それは、助かったから、礼を言う。ただし、僕の部屋に勝手に入って他人の書いた物を無断で見た非礼は許してない」
「おう」
すっかり普段の調子に戻ったアンディに、ジョーは満足げに笑う。
そんな気軽さに、アンディは溜め息を吐いて呟いた。
「今回は負けだ…………」
そんなことを呟いて、私に向き直った。
「シャノン、悪いけどつき合ってくれ」
「えぇ、もちろん。私たちを始末したと思い込んでる相手にガツンと行きましょう」
「あぁ。シャノンを階段から突き落としたつけを払ってもらおう」
「違うわよ、アンディ。ミックの冤罪よ」
訂正に頷いてくれたけど、本当にわかってる?
私たちはここに来た経緯を簡単に説明し、書斎で見つけた床の傷と破片についても話す。
「よし。だったら二人はエリオットと正面から戻ってくれ」
「それはいいけれど、ジョーはどうするの?」
「証拠品の靴を探す」
「備品の管理をしていた執事が犯人なんだ。もう捨てられてるだろう?」
無駄だというアンディに、ジョーは自信ありげに笑った。
「靴を捨てて、その後どうなる?」
「なるほど、革靴はすぐに朽ちる物ではありませんし、燃えにくい。何処かに隠すか人目につかない場所に捨てたということですね」
エリオットが即座に理解して、ジョーも同意する。
「土地勘もないのに当てはあるの、ジョー?」
私が聞くとジョーは考えるそぶりを見せた。
「相手が使用人なら無断で長く屋敷からは離れないはずだ。しかも犯行後自由になるのは一夜だけ。その後は調べが入ってるから怪しい動きはできない」
言われてみれば執事の行動は案外制限が多い。
となれば夜の内に革靴を捨てに屋敷を抜け出したのだろうか?
けれどこの周辺、大通りには街灯があるけれど、屋敷周辺にはない。
なら灯りを持って動くから夜は逆に目立つことになるはず。
「靴はまだ屋敷の中だ」
ジョーは断言した。
私たちはジョーの推理を信じて屋敷に戻ると執事を問い詰める。
少なくとも私たちを殺そうとした罪になるのだ。
それでも執事は足掻いて町長の殺害を否定し、罪を逃れようとした。
「あったぜー」
気軽にそう言ってやって来たジョーの手には一揃いの靴があった。
靴の底には白い破片が食い込んでいて取れそうにない。けれど確かに椅子に刺さっていた破片とよく似ていた。
「本当に屋敷の中にあったのね。何処にあったの?」
「使用人の服集めてある中に隠してあった。木を隠すなら森の中ってな」
ジョーのもっともな指摘に、私は外に誘き出されたのが恥ずかしくなる。
そしてジョーが見つけた靴には血痕もついていた。
黒い革靴だから目立たず執事も気づいていなかったようだ。
排水施設から役所の人間も一緒だったため、執事も言い逃れができずに御用となった。
「君たちは本当に、褒めるべきか叱るべきか困ることをしてくれる」
お父さまに、四人揃ってそう言われた。
「あの、お父さま、ミックは…………?」
「執事の自白を引き出せれば無罪放免だ。そうなればすぐにでも真実を公表して、きちんと周知されてから釈放する」
私が安心すると、お父さまは微笑ましそうに目を細めた。
「私は公爵方にこのことに関して報告をする。君たちは、あちらで話を聞き給え」
そう言ってお父さまが隣の部屋を指すと、待っていたように扉が開く。
「…………お母さま、お兄さま」
「褒めるべきは褒めます。けれど、叱るべきは叱りますよ」
「君たちは、妹を止められもせず事態を悪化させるだけの悪い友人なのかな?」
目が笑っていない怖い二人から逃げられるわけもなく。
私たちは四人揃ってお説教されることになってしまった。
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