7-3
一馬が目を覚ました時、ここがどこだかわからなかった。
シーツのないベッド。枕代わりの丸められたブレザー。天井から下がった、斜めに傾いた金のシャンデリア。明らかに安物ではない壺は横になりヒビが入っている。床の赤い絨毯が気分を落ち着かせない。
壁にかかった金の旗のオブジェで、ここが金畑ゴールデンホテルの客室だということがわかった。だが、何故こんなところでひとり寝ていたのかわからない。
「そうだ、烏丸は?」
せっかく捨て身の作戦で行動不能にしたのに、逃げられたのでは話にならない。それから、ありさとかえでの姿が見えないことも気になる。
建物のどこかで爆発音がした。
「な、なんだ?」
客室があるのは二階。下の方から聞こえた。
廊下に出て吹き抜けになっているエントランスホールへ向かう。
もうもうと白煙が立ちこめていて視界がきかない。
「なんだこれ。どうなってるんだ?」
「一馬?」
「お兄ちゃん?」
煙の中からありさとかえでの声がする。だが、その声は疲労を含んでいるように感じた。
白い煙が晴れていく。
大理石の床はあちこちが砕け、焦げ、凍っていた。
ありさとかえでは大の字になって倒れている。
「ど、どうしたんだ!?」
とりあえず近い方にいたありさの元へ近づいた。
「あー、お兄ちゃん、私よりもその子を優先したー!」
倒れていたかえでが抗議の声を上げる。
「ええっ? い、いや、まずは近い方から確かめるだろ。そんなことより、これは一体どんな状況なんだ? 烏丸はどうなったんだ」
「烏丸は私が呼んだ『互助会』の人に引き渡したよ。一馬のお手柄だね」
戦いは終わっていた。その事実にほっと胸をなで下ろす。
「それじゃ、もうここにいる意味はないな。お前たちは何をやってたんだ」
「お兄ちゃんが目を覚ますまで時間があったから、私とその子でどっちがお兄ちゃんにふさわしい女なのか、勝負してたのよ。ドッグファイトってやつ?」
一馬の脳裏を戦闘機がテイクオフ。
「な、何をわけわからんことを……。ん、ありさの炎とかえでの《エンド・オブ・ザ・ワールド》で争ってたんだよな。どっちが勝ったんだ?」
炎と氷の対決。盾と矛の戦いのようで、勝敗の気になる組み合わせだった。
「な、なんでお兄ちゃん、その技を知ってるの!? タマちゃんしか知らないはずなのに!」
「え? あっ」
口が滑ったと悔いてももう遅い。緊急時とはいえ、かえでの秘密に手を付けて暴いてしまったことに変わりはない。
「……魔法少女メイプル」
ぼそっと呟くありさ。
「な、なんであんたもそれを知ってるの!」
顔を真っ赤にしたかえでは、秘密を知ってしまった二人の記憶を未来永劫消去しようと追いかけた。
さんざん追いかけまわして無駄な疲労が重なり、三人が三人とも息も絶え絶え。
「はあ、はあ、……も、もう帰ろうぜ。かえではまず親に謝罪会見だな」
「うー……別にいいもん。お兄ちゃんのためだったから悔いはないわ! そんな私こそ、お兄ちゃんにふさわしい女よ」
「断定!? そ、それを戦って決めてたんじゃないのか」
「一馬はどう思ってるのか知りたいの。当然私を選ぶよね。キスもしたし」
「ちょっと! それ聞いてないんだけどお兄ちゃん!?」
「二回も」
「それは俺も知らねえぞ!?」
疲れをものともせず一馬の周りをぐるぐる走り回る二人の声に、さっきまでの心配が吹き飛んだ。
ようやく終わったのだと実感する。
今夜はよく眠れそうだ、と一馬は思った。




