ダータイト1
光が俺達を包み、一瞬の浮遊感の後光が薄くなる。
目を開けると強い光が目を焼く。反射的に目をつぶってそれを防ぐ。
久しぶりの太陽の日差しが強い。どうやら今は昼間のようだ。
あいつが来なくてよかったなとか思いつつ目を鳴らすために薄目を開ける。
俺達が転移できた先は帝都アストルティア、ケイネス領。ダンジョン【アシュタロス】の前。帰ってきたのだ、ここに。
隣にいるエイリャは嬉しそうであったり、緊張したりと百面相を繰り返している。そういうコロコロ表情が変わるのも可愛いと思うが、そうなるのも分かる。
エイリャは今から自由になりに行くのだ。飼い主からの条件、二十層の攻略を証明して。
「じゃあ、行ってくるね」
エイリャが歩き出すが、その足は手と一緒に出ている。大丈夫か・・・?と思ったが俺が一緒について行くとややこしくなるだろうことは分かりきっているので大人しく家に帰る事にする。
なんたってエイリャの飼い主はこの町の領主、ケイネス子爵。ダンジョン【アシュタロス】から出てくる莫大な利益を利用し、たった一代で男爵から成りあがった男。
好きなものは金、女、そして拷問。最近は獣人の女を弄ぶのがブームと、世間では嫌われている。が、経済力ではこの国の中では侯爵にも劣らぬほど優秀ということで迂闊に批判も出来ない。
そんな奴が解放してくれるとは思えないが約束は守ってくれるだろうと思われるので俺は待つことしかできない。
エイリャには俺の家の場所は教えているので終わったら来てくれるだろう。
そう思っていた。なのにその日、エイリャは来なかった。
次の日、どうしても気になった俺はケイネス伯爵の住む屋敷に出かけた。
エイリャの事だけを考えていて周りの音はあまり聞こえてなかったがその話だけはすんなりと頭の中に入ってきた。
「昨日来た奴隷、解放を旦那様に訴えたらしいぞ」
「あぁ、あの何日か行方不明になっていたのだろ?馬鹿なんじゃねぇの?そんなの旦那様が許すわけねぇじゃん」
「旦那様と約束したとか言ってたらしいぜ」
「どんなだよ?」
「なんでも【アシュタロス】の二十層まで攻略したら解放してくれるってやつ。ポイズンスケイルリザードの鱗持ってきてたぜ」
「そういえばそんな約束してたな。それでも旦那様は取り合わないだろうけど。あれ結構高かったらしいからな」
「そうそう。それで暴れようとしてたらしいけど旦那様の騎士団にあっさり捕まったらしいぞ。今は牢屋だと」
「うっわご愁傷様」
領主が嘘をついた?何を言ってるか分からなかったが、それも一瞬。次の瞬間には怒りではち切れそうになっていた。
〈技量が一定に達しました。スキル【怒り】を獲得しました〉
分かっていたはずだ。あの領主が解放するわけないと。そう思っていたはずなのに自分は何で一緒に行かなかったのか。
確かに領主に対する怒りはある。が、自分に対する怒りの方が強く感じた。自分は分かっていたはずなのに何でそうしなかった?
簡単だ。領主が怖かったのだ。自分が行くことで話がややこしくなるとか、円滑に進める為とかそんなのは言い訳に過ぎない。
そんな自分の事のためにエイリャを一人にした自分が腹立たしい。せめてここでそれを償おう。
走る。領主の元まで。
「何者だ!止まれ!」
屋敷の外にいる兵士たちが何か言ってるがそいつらを薙ぎ払って前へ進む。
こいつらは恐らくDランクだろう。兵士は最低でもDランクであることが義務付けられている。普通なら俺と同等の兵士。それをさっき獲得した【怒り】を発動させることで差をつける。
以前【怒り】のスキルの効果について聞いたことがある。それは野生化。人間が持つ最大の武器、知性。それを捨て本能だけで動くようにする。そうする事ですべての能力を上昇させるというものだ。
発動が止まるのはある程度暴れてストレスから解放された時。もしくは耐えられなくなって気を失った時。
それでもいいと思った。この混乱に乗じてエイリャが逃げ出してくれれば。俺は捕まれば死刑は免れないだろうがエイリャだけでも逃げ出してくれれば。
そう思っていたのに俺はすぐに捕まった。
領主の騎士団。ケイネス騎士団によって。
兵士ではなく騎士と称されるようになるには最低でもCランクになる必要がある。Dランクの俺が勝てるわけもなく捕らえられた。
何がせめてだ。そのせめてすらできない俺なんて・・・。
【怒り】の効果が切れたのか急に疲労感が襲ってきて俺は眠りについた。
何日たったかはまだ聞かされていない。あの後俺は殺されることなく生かされていた。牢屋という部屋の中で。
あんなことをしておいて生かされるなんて変だなとは思ったが、どうやら死刑にはなるらしい。
公開死刑という形で。
こんなことを起こすような奴がいなくなるように。その戦意を挫くように。
高い台につながる階段を登らされる。
登り終わると正面には大勢の人が注目していた。ケイネス領の全ての人というわけではないだろうが沢山の人が居る。その中には知り合いも混じっている。
死に際を大勢の人に見守られるなんて嬉しい事じゃないか。誰も見ていないところで命を落とす人もいるのだ。それに比べたら恵まれている。
エイリャは救いたかったな。
そう考えるとともに死刑執行人の持つ鉈が振り落とされた。




