46 怖い 死にたくない
1週間以上休んでしまいすみませんでした。
~エイリャ・アルファス目線~
ボスを見つけてすぐに向かう。
ボスは容姿からしてリザードだろう。
「エイリャ―、ポイズンスケイルリザードだって。鱗に――」
ユウナギが種族名を教えてくれる。他にも何か言っているが、私にはその続きが聞こえなかった。
「【疾走】。――」
スキルを使ってすぐに詠唱に入る。
今使ったスキルは単純に速度を速めるスキル。猫の獣人である私が初めから持っていた、慣れ親しんだスキル。
相手を見ると物理的な攻撃では倒しづらいという事が分かる。身体を覆う鱗は見るからに硬そうで、19層のアルマジェロスと同等、ランクの事を考えるとそれ以上だろう。
自分はそいつと同ランクだ。だから普通に物理的に殴ったところで大したダメージは入らない。
「【風魔刻印】」
私の詠唱がすぐ終わり発動する。この短時間で詠唱が終わったのは【詠唱短縮】の効果とこの魔法が簡単だからという理由がある。
この魔法は風属性の刻印魔法で、私の拳に風の力を与えるもの。一見強いように見えるがあくまで初級な為与えられる風邪の力は弱いし、自分にしかかけられないという弱点が
ある。
通常魔術師は前線で戦う事はしない。詠唱中に攻撃される可能性があるし、魔力特化型は物理的な攻撃力が著しく低いため殴ってもそれはあまり意味が無いからだ。
だから自分にしか効果のないこの魔法を使うものは少ない。
だが魔法を補助として考えるものにとっては使い勝手の良い魔法だ。物理的な防御力が高いものにもダメージを入れる事ができるし、簡単なため発動も早い。
【疾走】で上げた速度のままリザードにせまり、【怪力】という攻撃力を上げるスキルを使い最大威力の攻撃を放つ。
少し溜める必要があったがリザードはその間に爪でひっかくことも、避けることもせずにその一撃をくらう。
防御力が高い魔物は最初の一撃をわざと受けて相手の力を測る時がある。相手が自分より弱いと思うときにこの傾向は多い。
避けないと分かっているのならための長い攻撃でも構わない。
その拳が入った瞬間リザードが吹き飛ぶ姿が想像できた。この後は多少当てるのにてこずるだろうけど最初の一撃で傷を負えば動きが鈍り、楽とはいかないが倒すことは出来るだろう。そう思った。
が、悲しきかなリザードは少し後ろによろけただけでケロッとしている。大したダメージは入っていない様だ。
そしてその驚愕と同時に襲い掛かる右腕が麻痺したような感覚。リザードの鱗が硬すぎて逆に自分に痛みが返ってきた。ううん、それだけじゃない。それだけではこのドクドクとくる痛みは説明できないもの。でも何度か感じたことのあるような痛み。これは・・・
「毒か?!」
【アシュタロス】は毒のダンジョンであるのでその事は不思議ではない。だが、ニ十層という百層からすればまだ浅いと思われるところに触れただけで毒状態になる魔物がいることに驚いたのだ。
先程ユウナギが言おうとしていたのはこのことね・・・。聞いていなかったのは大きな失敗だわ。
毒は早いうちから解毒しなければ後々取り返しのつかないことになる。
一旦下がって【状態異常回復】を唱え始めるが、リザードの方は逃がすつもりはないらしい。気が付いた時には爪が目の前まで迫っていた。
まだ【疾走】の効果が続いているので詠唱は諦め、その爪を強引にバックステップで回避する。
下がり終わったその瞬間、風が動いた。
【風読み】という常時発動のスキルによって気が付いた。
それは物凄い速さで迫ってくる。リザードの方でもダータイト達の方でもなく私の死角からそれが伸びてくる。
周囲の動きが遅く感じる。確かこういうのって死ぬときにおこるものじゃなかったっけ?
少し視線を動かしてみるがそこには何もない。だけど風はそれがそこに存在することを教えている。
それは獣人である私を殺すには威力にかけるものだとは思うが、おそらく毒がある。根拠はないが、さっきそれで痛い目を見たのだ。最悪の事も考えるべきだろう。
感覚的にはスローモーションみたいな世界だから避ければいいじゃないかと体を動かそうとするが全く動かない。
それが自分にせまることに恐怖を覚える。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない
死にたくない?私はそんなことを考えていたの?Dランクに一人で挑むという自殺に等
しい事をしているのに?
いえ、当然ね。誰だって死にたくないと思うでしょう。
体が動かないことがもどかしい。そこに迫っているのが分かるのに何もできないのが悔しい。
私はここで死ぬの?
怖さが最高まで高まり、目をつむる。視界が黒に染まる。
不意に暗闇の中で泣いている自分の姿が見えた気がした。これが走馬灯と言う奴だろうか?それは昔の事だったかもしれないし最近の事だったかもしれない。
無理せずダータイト達と協力していれば、もっと鍛錬を積んでいれば、そもそも主人の賭けに乗らなければ・・・そんな今更考えてもどうしようもない事ばかりが頭に浮かぶ。
いつまで経っても何かが自分に当たる感覚がしない。
流石にこんな長い間何も感じないのはおかしい。
もしかしたら私はもう死んでいて霊にでもなったかなとか思い、恐る恐る瞼を上げる。
目の前にはリザードから私を庇う様に立つダータイトと何かを掴むユウナギがいた。
それが視界に入った瞬間、暗闇で泣いていた私の涙は止まり立ち直った気がした。




