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脚フェチな彼の試練2

 息苦しいくらいの緊張。

 部室の中の酸素が薄くなったような錯覚を覚えてしまうくらいだ。

 カチカチ、と壁掛け時計の秒針の音がやけに良く聞こえてくる。

「仙洞田君。さっきよりも顔が白いような気がするんだが、ひょっとして具合でも悪いのかい?」

「え? い、いえ、そんなこ――」

 待て。待て待て待て。

 これはチャンスだ。

 ここで

『実はさっきから腹が痛くて……』

 とか言っておけば無事この場から脱出出来るんじゃないか?

 よし、それしかない。

「そうか。なら良いんだ」

 シット!!

 仮病で誤魔化そうとした途端、先輩の中ではこの話が終わってしまったらしい。

 千載一遇の大チャンスを棒に振ってしまった…………

 いや、ここで後悔している暇は無い。次なる計画を早々に練らないと。

「で? さっきの話の続きだけど……どうかな? 何か思い当る事は無いかい?」

「そ、うですね……いえ、やっぱり特には何も。融合の副作用で妹や光世が縮んだくらいでしょうか」

「ふうん……そうか。なら良いんだ」

 そう言った先輩からは、さっきまでの張り詰めた雰囲気が消えていた。

 柔らかな微笑みも至って自然なものだったし。

 気が付けば、俺は大きく、しかし静かに肺の空気を吐き出していた。

「あ、そうだ」

 密かに安堵していると、先輩がポンと手を打って立ち上がった。

 何だろうと思って様子を窺っていると、机を挟んだ向かい側からスタスタとこちらに歩いてくる。

 そして俺の横に来たかと思ったら、そのまま長机に腰を掛けた。

 ギシリ、と机の軋む音が響く。

「仙洞田君が何か有用な情報を提供してくれたら、この後ボクのソックス脚の撮影会でも開こうかと思ってたんだ」

「な…………!?」

 ガガッ、という椅子で床を擦る音が鳴る。

 俺は思わず椅子ごと身体を引いていた。

「でも、特に何もつかんでいないんだよな?」

 Sっ気たっぷりの笑みを見せて、上から俺を見下ろす先輩。

 しかし俺の視線は、すぐに先輩の顔から下へと移動してしまう。

 ゴクリ。

 俺は生唾を飲み込んでいた。

 今日の先輩は、まるでこの事態を見越していたのかと思うくらい、俺のユボを押さえた白のハイソックスを着用している。

 だ、だまされるな! これは罠だ! 大切な家族を売り渡すような真似、出来る筈が――

 そう思った時だった。

――別にいんじゃね?

 俺の頭の中に、聞こえる筈の無い俺の声が聞こえて来た。

――先輩だってチビを取って食おうってんじゃねーんだろ? だったらいーじゃねーか。んな事より早く先輩の脚激写しまくろうぜ?

 待、待ってくれ。そんな事言っても無事に済むという確証だって無いんだ。そう簡単に口を割って取り返しのつかない事にでもなったら……

――その通り、何の根拠も保証も無いんだ。断固として秘密を守りきれ。たかが女の脚の1つや2つ、ネットでいくらでも拝めるだろう? こんな見え透いた色仕掛け、引っ掛かるバカがどこにいるんだ。

 そ、そうだよな……そうさ、脚や足なんてネットでいくらでも……

――バーカ。ヴァーチャルがリアルに勝てるもんかよ。お前さ、良く考えてみろって。堂々と先輩の脚を拝めるんだぜ? ネットの画像? んなもんいつでも見れんじゃねーか。でも先輩の脚は今日この瞬間逃したら次あるかどうかすら分かんねーぞ? それにひょっとしたらお触りだってオッケーかも知れねーんだぜ? そこんとこ分かってるか?

 ……ッく!! 認めざるを得ない。まさしくその通りだ。所詮ネットの画像なんてその程度のものでしかない。しかもお触りまで出来る可能性なんてプラスされればもう……

――血迷うな!! もしチビ喜由を売れば喜由は勿論、お光や光世からの信用も全て失う事になるんだぞ!? それがお前のベストな選択とでも言うのか!? それにあれは白のハイソックスだ!! 黒ストッキングじゃ無い!! 気をしっかり持て!!

――おいおいちょっと待てよ。聞き捨てなんねー一言があったぞ? 黒ストッキングじゃ無い、だと? 上等じゃねーか。白ハイこそ至高だろJK。だから悩んでんじゃねーかカスが。

――ふっ、寝言は寝てから言った方が良い。白ハイソックスなぞ所詮オカズ止まり。だが黒ストは違う! 最早オカズではなく主食!! メインディッシュがサイドメニューに劣る訳が無いだろう!!

――さて……屋上行こうぜ……? 久し振りにキレちまった……ケリつけてやんぜ。

――面白い。前々から貴様は気に喰わなかったんだ。どちらが上かはっきりさせてやろう・

――はっ、泣いて謝っても許してやんねーぜ?

 おい、待てお前ら。屋上ってどこのだよ。何でその方向で争いが始まるんだ。ホントの意味で白黒つけてる場合じゃないだろう。

 俺の中の善悪の争いは、明々後日の方向に進んで収拾がつかなくなってしまった。

 ここまでの思考時間、およそゼロコンマ3秒。

 っていうかおふざけはここまでだ。

「先輩、それはすこぶる魅力的なお話なんですが……すみません、本当にこれといって何も無いんです」

 これでファイナルアンサーだ。

 当然だろう。

 迷う余地なんて無い。いくら俺が脚フェチのゲスであったとしても、家族を売るなんて真似、死んでもするものか。

「そうか。それは残念だ。ところで仙洞田君。血の涙は拭いた方が良い。ほら、ティッシュを使え」

 先輩に箱ごと渡されてティッシュを2・3枚取って目元をぬぐう。

 ティッシュは見事に紅く染まっていた。

 これで良かったんだ。

 おれはそう思いながら、ティッシュを次々に紅く紅く染め上げていった。


よろしくお願いします。

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