脚フェチな彼の訓練3
「あーだからか、そんな腕中に切り傷作ってたの。何気にジャージも汚れてるし」
一通り午前中の出来事を説明すると、喜由がそう言った。
少々ボリュームがあり過ぎた感のあるお好み焼きをいただいて、そのままダイニングテーブルでミーティングが始まっている。
「メガネとTシャツは替えたんだけど下はそのままだったな……」
「しかし、その程度で済んで僥倖にございました。肝心な時にお傍におれず申し訳ございません」
食器を片づけながら、俺に頭を下げるお光。
「なに、そこもとがきにやむこともあるまいよ。わしらとてゆめにもおもうてはおらぬふいうちであったゆえな」
「いや何でお前が言うんだよ。それは俺のセリフだろ」
「いもうとぶんがきょうしゅくしておるのじゃ。あねとしてほうっておくわけにもゆくまい」
「そりゃそうかも知れんが……」
「しっかし巴御前ねえ。ソニックブームだっけ? 飛び道具まで装備してるとなると、ちょっと手強い相手ではあるよね、実際」
「くわえてたちさばきもかなりのものじゃ。わしにごする、とまではゆわぬが、しかしそうとうなものであることもまちがいない。みがきぬかれたわざまえ、ともうすよりも、いくさばできたえあげられたひゃくせんれんまのつわもの、としょうしたほうがよいじゃろうのう」
椅子の上で正座をしているチビ光世が、目を閉じて腕組みをしながら、うんうんと頷いている。
座高が低い為、正座をしてなんとかテーブルの上に顔がのぞく状態だ。
この状況で何だが、非常に和む姿である。
「光世の言う通りなんだ。だから早々に俺も力を付けないと……」
「で? きゆ、さきほどそこもとがもうしておったな。わしがこのようなすがたでけんげんしてしもうたわけを」
「まあね、って言うか正直兄者もそう思ってんじゃないの?」
喜由の一言で、3人の視線が集まった。
「まあな。十中八九俺の霊力不足が原因だろう……けど、そうなると少し噛み合わない部分があるんだ」
「噛み合わない部分、ですか?」
食器を流しに運んだ足で、人数分のお茶を用意してきたお光。
俺達の前にそれぞれ湯呑を置きながら、俺の言葉に反してきた。
「まさしく。霊力がカラになるくらい消耗してるとすれば、もっと身体の調子もおかしくなる筈だ。それに今だって都合付喪神を3人顕現させた状態なのに、それ程異常も感じてはいない。負担も相当なものになりそうなものなのに」
「ふむふむ、なるほどねい…………」
喜由が右手を顎に当てながら、何やら思案顔をしている。
「喜由殿、何かお心当たりでも?」
そんな喜由に、お光が問い掛けた。
「うーん、まあ何となく。ってゆーか、そろそろ言っちゃえば? 兄者」
ニヤリと笑みを浮かべながら、喜由が促してくる。
いつもながら、俺の心中などお見通しという訳なのか。
その時俺は、あの時の先輩の言葉を思い出しながら考えていた。
『所長の見立てでは、君のポテンシャルは相当のものだそうだ』
つまり、霊力が不足しているのではなく、持っている力を使いこなせていないだけ。そういう事ではないのか、と。
「喜由には何となく察しがつけられてるようだが……実はさっき話した黒井さんによれば、俺には相当な力が備わっているらしい。けど現状、その力を十分に使いこなせていないそうだ」
「では、本来であれば、総一郎殿はもっと強力な術者足り得ると……」
「実際俺自身まだ信じ切れていないところもあるんだ。でも、この状況一つ見ても、やっぱり俺にはまだ眠っている力があるんじゃないかと、どうしても思ってしまう。とはいえこの光世の姿を見るとな……」
お光に返した言葉は、紛れも無い俺の本音だった。
事実光世の顕現一つ取ったところで、まともに成功してはいない。こんな状態なのに、まだまだ力が秘められている、なんて言われてもピンとは来ない。
いわゆる状況証拠だけでは、確証が得られないというヤツだ。
「じゃあさ、試してみようよ」
何となく空気が重くなったところで、喜由が口を開いた。
「試す? 何をだ?」
「決まってんじゃん。兄者の秘められたパワーを、だよ」
おどけた様子で、喜由がウインクをしながら言った。
「ほらほら、まずは表出ようよ。流石に家の中じゃ具合悪いっしょ」
「ふむ、おもしろい。きゆめのかんがえにのってみようではないか、あるじどの」
「左様にございますね。まずは論より証拠。さ、総一郎殿」
3人はそれぞれそう言いながら、さっさと立ち上がって移動を始めてしまった。
「お、おいちょっと待てよ。何でそんなサクサク話進めるんだ」
慌てて俺も後を追って外に出る。
どこに行くのかと思ったが、何の事は無い、両親不在の為スペースが空いている我が家のガレージだった。
よろしくお願いします。




