脚フェチな彼の訓練4
「始める前に兄者、一つ言っときたい事あるんだけど」
「何だよ急に」
俺が三人に続いてガレージに到着するや否や、喜由がビシリと俺を指差しながら話し始めた。
「兄者は迂闊過ぎる」
「はあ? 藪から棒になんだ?」
「ポンポンポンポン力使ったりしてるけど、それって結構周りにダダ漏れだから」
「ダダ漏れ?」
「そう。ここに付喪主がいますよー、しかも大典太光世の付喪神までいますよー、って言いふらしてるみたいな感じ」
「それは………………」
「なんじゃ、きがついておらなんだのか。わしはてっきりいにかいしてはおらぬだけかとおもうておったのじゃが」
気付かなかった。
だから、なんだろうか? 緋紗子という付喪主にも、安易に接近を許してしまったのは。そして遡れば、あの篠宮にだって俺の所在を知られていた。
元を辿れば、俺が安易に力を使っていた事が原因だったんだろう。
「おみっちゃん&お姉ちゃん殿はかなりのレアアイテムなんだぜ? 見せびらかしたりしてたら、それを欲しがってロクでもない連中が群がってくるっしょ? もうちょっと自覚しとかないと」
「そ、それはその、スマン。知らなかったとはいえ迂闊だったな。以後は十分気を付けるとしよう」
「いえ総一郎殿。それがしも迂闊にございました。責はそれがしにもございます」
「おいおいお光、お前がそんなかしこまるなよ。お前は自分で顕現したりとかしてないんだから」
「まあまあ二人とも、そのへんにしときな。分かってくれりゃー良いんだからさ。ま、それこそ先輩ちゃん殿がそばに居る時とかだったら問題無いとは思うけどね。んじゃボチボチ始めますか」
「きゆよ、なにをどうするのじゃ?」
「まずはお姉ちゃん殿をちゃんと顕現する事からかな? オーケー? 兄者」
「それは勿論オーケーだが……」
喜由の隣に立つチビ光世お見下ろす。
この愛らしい光世がもう見られなくなるのか。確かにいつもの美脚を晒してくれる光世は貴重な存在だが、こっちのチビバージョンも捨て難い。愛玩用として保存しておきたいくらいだ。
って、それだけじゃなく、
「お前今言ったばかりじゃないか。迂闊に力を使うなって。今この場でどうこうしろなんて、どう考えても迂闊だろ」
そういう事だ。
「ふっふーん。元大妖怪様を侮ってもらっちゃあ困るねい。ちゃーんと用意してあるに決まってんじゃないっスか。狐様の結界が」
しかし、喜由はそう言い返しながら、得意そうに胸を張る。
それを聞いてぐるりを辺りを見回してみる物の、それらしい何かは見当たらない。
「まあ素人がキョロキョロ見て回ったところで見破られるようなチープなもんじゃないぜ? ちょとマジにやったから。まあそういう訳さ。ほれほれ、ちゃっちゃとやっちゃってちょうだいな」
「……そういう事なら」
光世の前に歩み出て、そのまましゃがんで目線を合わせる。
そして、光世の頭に左手を置いた。
思ったよりも小さいその頭に、再び在りし日の喜由の姿がオーバーラップして、またもや涙腺が緩みそうになる。
「それはもう良いっての」
無粋な喜由のその一言に、胸の中で舌打ちをしつつ目を閉じた。
そしてお光の時と同じように、顕現させるのとは逆のイメージを固める。
「戻れ、光世」
閉じたまぶたの上から光を感じて、直後、頭をつかんでいた左手に硬い無機物の感触を覚えた。
静かに目を開けると、黒塗りの鞘に収まった懐刀が左手にある。
「よし、じゃあ今度こそ……」
「ちょい待ち、兄者」
「何だよ」
「お姉ちゃん殿を顕現させる前にもう一仕事だ」
「もう一仕事? お光も戻すのか?」
「のんのんのん。拙者だよ」
「は?」
「だからあ、拙者を戻すの。元に」
あっけらかんとして言っている喜由だったが、俺には、まさに青天の霹靂というべき一言だった。
勿論喜由が付喪神だと忘れていた訳じゃない。
けど、まったく考えた事も無かった。
喜由を、元の状態に戻す事なんて。
よろしくお願いします。




