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脚フェチな彼の遭遇4

 槍のように突きや払いといった攻撃に、刀のように小手や面を狙う“斬る”攻撃もプラスされる薙刀。長さによって生じた遠心力が加わって、斬撃の一つ一つが正に必殺の威力を持っていて、その上“すね”まで狙ってくる。

その脅威は、想像以上だった。

「光世!!」

 十分な体勢で薙刀の一撃を受け止めた光世だったが、その威力に刀を弾かれていた。

「っく!」

 すかさず追撃が襲い掛かってくるが、流石の体捌きでそれをかわして窮地を脱した光世。そのまま更に間合いを広げて薙刀の攻撃圏内から外れた位置まで遠ざかる。

 そして正眼の構えを取った。

対する巴は薙刀を上段に持ち上げている。

「クソ………………」

 攻めきれない光世の様子に、見ている俺まで歯痒くなってくる。

 確かに刀に対しての薙刀は有利な点が多い。このまま戦いが長引けば、いずれジリ貧になる事は必至。

しかし、一たび懐に入る事が出来れば、その有利も一気に打ち消す事が出来る。勿論相手は相当な使い手だ。並の達人じゃあ、歯が立たないだろう。

――並の達人だったら、な

 生憎光世は“並”なんかじゃない。

 柳生新陰流の、しかもかの剣豪柳生十兵衛の魂が宿った刀の化身だ。

 このまま終わる筈、

「無いよな」

 光世。

「うおっち!?」

 直後、巴の驚きに満ちた声が聞こえて来た。

 光世の逆袈裟斬を間一髪でかわした巴が、しかし身体は仰け反って完全に体勢が崩れている。

――西江水せいごうすい

 柳生新陰流の奥義。

 剣気を敵の心眼からどうとか、“能”の足捌きがどうとか解説されたけど、未だにどういう仕組みなのかは分かっていない。

 確かなのは、まるで魔法でも使ったかのように、一瞬の内に間合いを消して敵の眼前に現れるという事。

 だけど、それで十分だった。

「反撃開始だ」

 西江水に翻弄される巴。神出鬼没の光世の攻撃を前に、後手に回らざるを得ない。

しかも元々長物である薙刀だ。懐に入られればその機能は失われてしまう。

瞬く間に形勢は逆転した。

「ちぃっ!!」

 またしても光世の斬撃が巴を襲った。

 紙一重でかわされたものお、巴の右の二の腕が浅く切り裂かれている。

 たまらず大きく飛び退いて、体勢を整えようとする巴。

 光世も深追いせずにその場にとどまって対峙する。

 およそ10mの距離が開いた。

――行ける

 そう思った俺だったが、それでもいくつかの懸念も残っている。

 一つは、自分の付喪神が押されているにも関わらず、ピンクが余裕の表情を崩していないという事。

 そしてもう一つ。確かに光世が優勢ではあるものの、戦闘の序盤にして、既に切り札とも言える西江水を使っているという事だ。

 睨み合う二人を見て、俺はどんどん膨らんでくる嫌な予感を必死で頭から追い出そうとしていた。

 その時、巴が不敵な笑みを浮かべながら、ゆっくりと薙刀を持ち上げた。

「お前!! かなりの腕前だぜ!! ここからはオレも遠慮はしないぜ!!」

 高々と薙刀を持ち上げながら声を張り上げる巴。

 そして何を考えているのか、その場でそのまま薙刀を振り下ろした。

 次の瞬間、

「が――!?」

俺は爆音と共に吹き飛ばされた。

一瞬の出来事に思考が全く追いつかず、ただ酷い耳鳴りと頭痛がして、目の前が真っ白のなっている事だけが分かる。

意識を失わなかった事が不思議なくらいだった。

「い、て…………て…………」

 痺れる身体を動かそうとすると、あちこちからパキパキと乾いた音がする。

 何がどうなったのかさっぱり分からないが、どうやら公園出入り口の脇にある、つつじの植え込みに叩きつけられているようだ。

 朦朧としたまま、それでも何とか立ち上がろうとした時、目の前に気配を感じた。

「大事無いか、主殿」

 そして、光世の声が聞こえる。

 一気に意識が戻って来た。

 辛うじて顔に引っかかっていたメガネの位置を戻すと、俺をかばうようにして立っている光世の後ろ姿が見えた。

「光世。お前大丈夫、なのか?」

「主殿よりは、の」

「何が起こった?」

「儂にも解せぬ。彼奴が薙刀を振り下ろした途端、耳をつんざくような音と共に猛烈な突風が吹き荒れたのじゃ」

「突風……?」

 痛む身体に鞭を打ちつつ何とか立ち上がりながら、光世の言葉を反芻する俺。

 そんな生さやしいものじゃなかった。爆風、とでも言った方が正しいだろう。

 カラクリは全く分からない。けどヤツは、人間を簡単に吹き飛ばせるくらいの威力の衝撃波を放つ事が出来る、その一点だけははっきりしている。

 光世と互角以上の戦闘力を持ちながら、更に特殊スキルまで駆使してくる巴。

 この時俺は、嫌な予感が的中した、そう思っていた。

 そして、光世でも敵わないかも知れない、とも。

「何、そう案ずるな、主殿」

 すると、背中を見せたまま、まるで俺が絶望しかけているのを見抜いたかのように、軽い調子で光世が話し掛けてきた。

「確かに賊の放った技の正体は分からぬ。が、それと勝敗は別じゃ」

「……どういう事、だ?」

「忘れたか、主殿。往時の儂は、魑魅魍魎や悪鬼羅刹どもを相手に数々の修羅場をくぐっておった刀じゃ。人智を超える面妖な術など数限りなく目にしてきたわ。今更どうという事は無い」

 そう言うと、光世は刀を担ぐように構えて腰を落とした。

「正体が知れぬのであらば、斬り伏せてしまえば良い。儂に斬れぬものは無い。この場にてご覧じろ。退魔の剣の真髄を」

 そして、自信に満ちた言葉を残して、一気に地面を蹴った。


よろしくお願いします。

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