脚フェチな彼の遭遇3
力なく歩きながら公園に入ると、ピンクと黄色の二人組は、既に広場の中央で待ち構えていた。
「ふふん!! さあ観念してその付喪中神をあたしっちに渡しなさい!!」
どうしてそんなに自信満々なんだろう、というくらい自信に満ち溢れた表情を見せながら、チビが腕組みをして高らかに言い放った。
「断る、と言ったら?」
「力ずくでいただくに決まってるでしょう!?」
想像通りの回答だった。
しかし、その実俺はかなり焦りを感じている。
正直こんなに早く賊と遭遇するとは思っていなかった。
しかもこれまでのやり取りからすると、向こうはこちらの情報をある程度は握っている様子が伺える。
だとすれば、だ。こうして正面切って現れたのは、勝算あっての事だろう。
つまり、この場での戦いは可能な限り避けるべき。
勝ち負け以前の話だ。
「何黙りこくってんの!! 早くどうするか決めてよね!!」
イラついているのか、チビは右足をパタパタとさせている。
時間稼ぎは難しそうだ。
「やれやれ、礼儀を知らぬ子供はしようが無いのう」
その時、俺の後ろに控えていた光世が、一歩進み出て俺に並んだ。
「何!? やる気!?」
「威勢の良さは立派じゃが、儂らの事を知っての狼藉か? だとすれば、蛮勇と言わざるを得ぬのう」
「ちょっと!! 何難しい事言ってんの!! 意味分からないんだけど!!」
「…………無謀な真似は止めておけ、と言うたのじゃ」
「ははん!! 余計なお世話ね!! あたしっちの巴はそんじょそこらの付喪神とはレベルが違うんだから!! もう超強いんだよ!! ね!? 巴!?」
「そうだぜ!! あんま舐めてっと大怪我しちまうぜ!!」
相方の方もテンションが高かった。
巴、と呼ばれた黄色頭の付喪神。
こっちもまた美形である。ただ主とは趣が違って、凛々しい美人だ。どちらかと言えば光世系とでも言おうか。鋭い目にすっと高い鼻。こんな変なコスプレじゃなくて、もっとまともな格好をさせて街中を歩かせれば、10人中20人は振り返る事間違い無しだろう。何よりその脚だ。良い感じの肉付きでスラリと長い。モロに俺の好みと来ている。桜木谷先輩に匹敵するレベルと言っても過言じゃないだろう。
けど、この変なテンションのせいで、俺の中の評価は全く上がる事が無いんだが。
「さあ!! おとなしく言う事を聞きなさい!!」
手を腰にして無い胸をグッと反らしながらピンクが声を張り上げる。
どうしたものか、そう思った時だった。
「主殿」
左隣の光世が、声を潜めながら話し掛けてきた。
「儂が賊を引き付ける故、疾く逃げるのじゃ」
「何だって?」
予想外の光世の言葉に、一気に緊張が高まった。
――逃げろ
光世はそう言った。
思わず光世の方を振り向くと、いつもの傲岸不遜な表情ではなく、眼光鋭く敵を見据えている表情が見える。
「問答をしておる暇は無い。疾く去ね。お光と狐めに報せるのじゃ」
「お、お前はどうするんだ?」
「儂一人であらばどうにでもなる。主殿に顕現される前であったのが不幸中の幸いじゃ」
チラリとこちらに視線を寄越しながら、光世が言った。
その直後、光世の身体が光に包まれたかと思うと、一瞬の内にその出で立ちが変わった。
濃紺の剣道着スタイルに腰の二本差し。髪も一つに結い上げられている。久し振りに見る光世の戦闘フォームだった。
「何それ!! やる気なのね!! 上等よ!! 巴!! やっつけちゃって!!」
「任せとけだぜ!!」
ピンクの指示に巴が応えた。そのままピンクをかばうように進み出ると、スッと右腕を正面に突き出して目を閉じた。
すると次の瞬間、光世のように黄色の腕も光に包まれた。それが収まると同時に、その手には薙刀が握られていた。
「む…………」
それを見た光世が眉をひそめる。
恐らく相手の得物を見ての懸念だろう。
刀と薙刀。
リーチの差は歴然だ。
「主殿、儂が動くと同時に行け。良いな」
「けどおま」
お前は、という言葉は最後まで続かなかった。
俺が口を開いた時には、既に一陣の風のごとく、光世が刀を上段に持ち上げながら瞬時に間合いを詰めていた。
刹那の後に響いた鉄を打ちつける音を聞いて、弾かれたように俺は走り出した。
後ろめたさや恐れは、この時完全に頭から消えていた。
ただひたすら、光世の“逃げろ”という言葉に従わなくてはと、そればかり考えていた。
しかし、
「な……!? 脚が、動かな、い…………」
出口までもう少しというところで、いきなり脚が動かなくなった。
脚だけじゃない。全身が思うように動かない。
まるで身体中が見えない手で引っ張られているような感覚。
「逃げようったってムダよ!! あたしっちの“籠女の舞”の結界で公園からは出られないんだから!! 勿論外からだって誰も入れないんだから助けなんて期待しない事ね!!」
思うように動かない身体で必死にもがいていると、勝ち誇ったようなピンクの声が聞こえて来た。
「まさか、あの変なポージング、か?」
舞、と言われて思い当ったのが、最初にこの二人を目にした時に見たあの光景だった。
「……アニメだか何だかのポーズの真似、じゃなかったのかよ……」
それでも何とか身体を元の方向に向け直すと、広場の中央では光世と巴が激しく戦っている。
間合いの不利を相殺しようと光世が執拗に接近戦を仕掛けているものの、対する巴が見た目とは裏腹に見事な薙刀捌きを見せて、巧みに間合いを保っていた。
目にも止まらない光世の斬撃を、薙刀の柄で受けると同時に力任せにお仕返し、そのままリーチが広がったところで一気に薙ぎにくる。
その刃を光世は当然のようにかわして踏み込んでいくが、巴はそれを読んでいたように、タイミングを合わせて後ろに跳んで間合いを詰めさせない。
まさに熟練の達人を思わせる華麗な動きだった。
よろしくお願いします。




