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脚フェチな彼の放課後デート2

「ゴールデンウイーク後の最初の部活での出来事、覚えているかい?」

「え、部活、ですか?」

「ああ、急に話が飛んですまない。けど、関係ある事なんだ。で、どうかな? 何か覚えているかな?」

「それは覚えてますけど」

 付喪神の事を先輩に相談した最初の日だ。覚えているに決まっている。付喪主という言葉を初めて聞いたとのもその時だ。

「付喪神の話をした日、ですよね?」

「そうだな。それもあるんだが、他には何か無いだろうか」

「他、ですか……確か先輩が白いスクールソックスを履いていたのとサンダルのにお」

「その時僕の愛読書の話をしたんだが、覚えているか?」

 俺の言葉を華麗にインターセプトして、先輩が正解を教えてくれた。

 先輩の愛読書。ラ・ムーというオカルトの月刊誌だ。

 そう言えばそんな事もあった。

「そう言われれば、思い出しました。確か……ユーフォーの特集記事が面白かった、という話でしたよね?」

「そうそう、それだよ。厳密に言えばユーエフオーの特集では無いんだがね。どうだろう、その時の話、思い出せるかな?」

 さり気なく俺の言葉を訂正する先輩。

「どうでしたか…………」

 正直覚えていなかった。オカルト体質を持っているにも関わらず、実のところその手の分野にはあまり興味を持っていない俺。毎月雑誌の発売日には熱っぽく語ってくれる先輩ではあったが、その実俺の興味と言えば先輩の脚にしか向いていないのである。

「申し訳ありません。どうにも思い出せません」

「ふふ、まあそうだろうね。君はいつだってボクの話なんて聞かずに足下ばかりみているからね」

 案の定見抜かれていた。

「まあ良い。ボクもフェイクの一環として必要以上にマニアっぽさを演出していた部分もあるから」

 多分ウソだろう。

「話を戻すがその特集記事だ。あの号の特集はMJ12(マジェスティック・トゥエルヴ)とMIBメン・イン・ブラックについてだったんだ」

「ああ、そう言えば」

 その2つのキーワードを聞いて、俺ははたと思い当る事があった。

「確かその記事が、核心に近すぎてどうとか……という話だったんじゃないですか?」

「そう、その通りだよ。何だ、割としっかり記憶しているじゃないか。流石は仙洞田君だね」

 いつもクールな先輩が、しかも良く考えれば放課後駅前のカフェで二人きりというまるでデートのようなシチュエーションの下、希少価値の高い満面の笑みを見せているという状況。

 図らずも胸が高鳴ってしまう。

「いや、その、恐れ入ります」

「かしこまらなくても良いよ。で、その特集だ。内容としてはMJ12とは絶大な超能力を有する世界の真の支配者だ、というものだったんだけどね? 実はこれ、真実なんだよ」

「はあ…………」

 思わず気の無い返事をしている俺。

「まあピンと来ないのも無理はない。けど、MJ12と称される特殊能力の所有者達は実在している。だからボクは驚いたんだ。何故こんな情報がリークされたのか、とね。ただまあ、あの雑誌の記事というだけで信憑性は皆無に等しくなってしまうのも事実なんだけれども」

 成程。先輩はウソをウソと見抜いて楽しんでいる、という訳か。

「まあニュースソースや記載の経緯は今は置いておくとして、そのMJ12だ。ボクらの業界の中では伝説のような存在として知られていてね、他にも“降り注がれた12の災厄”とか“世界に君臨する12の王”なんて呼ばれ方もしている。人間以外の存在も含まれる彼らだけど、全員が例外無く常識の埒外とも言える途轍もない強力な能力を有している事で共通している」

「少々話のスケールが大き過ぎて逆にぼやけた印象ですが……何と言うか、好きな人は好きそうな内容ですね、色々と」

「本当にね。いわゆる“中二病”の症状のような話だとボクも思う。でもね。事実中二病の妄想も真っ青なくらいの力なんだよ。何せ“たった一人の力でこの世界に深刻なダメージを与え得る事が可能”な規模の能力の持ち主なんだから」

「ひょっとして見た事、あるんですか?」

「一度だけね。しかもその時は100の内、1も実力を発揮していはいなかったみたいだけど」

「どんな状況だったのか非常に興味があるところですが……で、その絶大な力の持ち主が黒井さん、という事なんですね?」

「そう。MJ12序列第四位“絶対強者”黒井殺助。それが所長の正体だ」

「それは何と言うか…………」

 本気なのかジョークなのか非常に評価しづらい、割とグレーゾーンな一狩り行きたくなるようなネーミングだ。まさかパクッた訳でも無いと思うが。

「ゲームにハマってから二つ名を変えたって所長は言ってた」

 余裕でアウトな事実だった。

 黒井さん、世界に君臨してるのにパクっちゃダメだろう。

「話は長くなってしまったが、そういう訳だ。その実力者たる所長の言葉だからね。予想、というより預言だと思った方が良いだろう。強くなるに越した事は無いしね」

「そう、ですね。先輩の仰る通りです」

 俺は自戒するように先輩に答え、すっかりぬるくなったカプチーノの残りを一気に飲み干した。


よろしくお願いします。

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