脚フェチな彼の放課後デート3
――しかし
「先輩、光世を自分の付喪神にする、という点については、まあ不可能では無いかも知れません。ただ、その原動力である“霊力”のキャパシティが増えないと、そもそも付喪神を複数使役する事が出来ないんじゃないでしょうか」
篠宮との戦いの時も、結局これが原因で生死の瀬戸際に立ったようなものだ。霊力の絶対量が多ければ、喜由のバックアップ無しでも“同化”は可能だった筈。
「ふむ、良い質問だ。勿論君の危惧する通りだよ。そして現状、残念ながら君の霊力の絶対量は十分とは言えない」
「そう、ですか…………」
昨日今日能力に目覚めた素人同然の俺だから予想はしていたが、はっきり指摘されるとやはり堪える。
「けど、そう落胆する事も無い。所長の見立てでは、君のポテンシャルは相当のものだそうだ。それに今指摘したのはあくまでも“現時点で使用可能な”霊力の総量、という意味合いだしね」
「え?」
「要は、良い“モノ”を持っているのに使い方がなっていない、という訳だ。考えてもごらんよ。何の前触れも無く、ただ単にいわくつきの骨董品に触れたからといって、そう簡単に能力が開花するものだろうか」
「それは…………」
「それに今だって、お光君と妹君を恒常的に顕現させ続けている。妹君の場合彼女自身の妖力も使用してはいるが、二柱の付喪神を、だ。君はいとも簡単にやってのけているけどね、所長から聞く限りでは、相当に霊力を消耗する行為だそうだよ? 気が付かなかっただけで、実は凄い能力を持っていた。まるで物語の主人公みたいだよ」
「まあ、実感はありませんが……」
とは言ったものの、ハッとさせられた。
指摘されて気付いたが、正直疑問に思った事も無かった。
「けどそれが現実だ。仙洞田総一郎は、大典太光世の鍔に触れて能力に目覚めた。そして本人の自覚も無いままに高度な術を行使している。だからこそ、だ。ここで基礎を固めて、飛躍的に力を伸ばそうじゃないか」
「……そう、ですね。頑張ります。先輩、強くなって見せますよ、俺。絶対に」
「ふふ、強くなってみせる、か。男の子らしいセリフだね、仙洞田君。不意にそんな事を言われると、ドキっとしてしまうじゃないか」
そう言った先輩の頬は、店内の暖色系の灯りのせいかも知れないが、どこか赤みを差してしるように見えた。
何だろう。今ってひょっとして“イイふいんき”なんじゃないだろうか。
先輩に対しては、下心は大いにあるものの、恋愛感情を持って接した事は無かった。
けど、さっきの先輩のセリフ。あれは俺をそういう目で見ている、という意味なんじゃないのか?
だとすれば、もし、今この場で結婚を申し込んだとし
「それより店の中、何だか暑くないかい? ボクだけかな?」
「暑く、は無いですね。まあ飲み物がホットでしたから」
申し込まなくて良かった。危うく人生初のプロポーズがそのまま黒歴史入りする事になりかねないところだ。
ある意味予想通りの展開に、それでもやっぱりガッカリしている俺。上手く行けば、先輩の美脚を思う存分堪能出来る間柄になれたかも知れないのに……
「ところで仙洞田君。何故かさっきからやたらと君の視線が気になるんだが……悪い意味で」
「え? そうですか? そんな事は無いですけど?」
「そうか……?」
あからさまに白々しく誤魔化す俺を、先輩が訝しがる目で見ている。
「……まあ良いだろう。で、話を戻すが、眠っている才能を開花させる方法だ」
「はい」
「少々乱暴ではあるが、限界まで力を行使して無理やり引きずり出す」
「無理やり……」
「そう。例えば基本の“顕現”。普通に顕現させるだけじゃなく、可能な限り持てる力を注ぎ込んで顕現させるんだ。お光君を顕現させる時のイメージはもう確立してるんだろう? 今度はそのイメージに、ありったけの力を乗せるイメージをプラスしてご覧よ。きっと何かつかめるものがある筈だ」
そう言い切った先輩の瞳が、黒井フレームの奥でキラリと光ったような気がした。
――限界まで
先輩の言葉を頭の中で反芻する。
あの、篠宮との再戦でお光を顕現した時。疲労感がいつもの倍くらいあった。意気込んで顕現した影響なのか、恐らくお光の力もいつもよりも強かった筈だ。
ぼんやりとではあるが、何となく、分かるかも知れない。
だとすれば――
「仙洞田君」
思考をフル回転させていると、不意に先輩の声が耳に飛び込んできた。
「そろそろ出ようか。時間も時間だし、ここで長考も難しいだろうしね」
「すみません。思考の世界にトリップしていたようです」
「君らしいな。さ、行こう」
先輩は柔らかく微笑んでそう言うと、スクールバッグを持って優雅に席を立った。
「じゃあな、仙洞田君。方向が逆だからここで別れよう」
店を出て、デパートの駐輪場のところで先輩が言った。
「送りますよ。日が長くなったとは言え、もう結構暗くなってきてますし」
「心配は無用だよ、仙洞田君。むしろボクが君を送って行こうかと思っているくらいだ」
「それは……」
事実とは言え何とも情けない現実だ。先輩の言う通り“俺が護る”というより“俺を守る”という状況。強くなる理由がまた一つ見つかった気がした。
「焦らなくても良い。まあ悠長な事も言ってはいられないんだが……でも、まずは出来る事から確実に一つ一つクリアしていこう。何事もそうだけど、能力の向上にも近道なんて存在しない。地道に努力を続けられた者だけが高みに辿り着ける。良く覚えておいてくれ」
「ありがとうございます、先輩。肝に銘じます。けど」
「けど?」
「いつの日か、必ず先輩に“送ってくれ”と言わせてみせます」
正直言ってる当人が恥ずかしくなるようなセリフだったが、何となく、俺は先輩に宣言しないとダメなような気がしていた。
「そうか。それは楽しみだ。但し、僕はこう見えてあまり記憶力が良い方じゃないんだ。あまり待たされると、約束を忘れてしまうかも知れないよ?」
「じゃあ一日も早くその日が来るよう鍛錬を積みます。期待していて下さい」
「うん、よろしくな。それじゃ」
「お気をつけて」
そのまま俺達はお互いに自転車に乗って、それぞれの方向へと走り出す。
夜に入って日中とはまた違った下記を見せ始めた駅前の雑踏の中を、俺は一人胸の高鳴りを感じながら、ひたすらペダルを漕ぎ続けていた。
よろしくお願いします。




