脚フェチな彼にハーレムエンドは似合わない2
「兄者~、何か話あるんだったら早くでござる~」
感極まって泣きそうになっていると、喜由が催促の声を上げた。
「す、すまん。えー、では三人とも。今回縁あって俺達は出会いこうして一堂に会する事となった。そしてこれからは家族として、共にこの仙洞田家で暮らしていく事になる。しかし、それぞれがこれまでにシャレにならないような因縁があったり確執があったりしたことは、今更俺が言うまでもないだろう」
三人の顔を順に見る。一様に真剣な眼差しでこちらを見ている。
「だが俺は、そういう事の一切を忘れろとか無かった事にしろとか言うつもりは無い。過去は消す事なんて出来ないし、そこから目を背けても何の解決にもならないからだ。それもこれも、全部含めて受け入れられてこそ、本当の家族になれるものだと思っている。違うか?」
「おお、兄者がマトモな事を……拙者ビックリして生理になりそうでござる」
「ふふふ、そうだろう? えーつまり、皆それぞれ思うところはあるだろうが、ここは一つ付喪主たる俺に免じてだな、互いに手を取って新しい一歩を踏み出そうじゃないか。どうだろう、何か異論はあるだろうか」
そう言って、俺は再び喜由・お光・光世の三人の顔を順に見る。
「良いんじゃない? アタイはほら、元から過去にはこだわらないイイ女代表みたいなもんだし」
「それがしも。総一郎殿のお考えとあらば異論なぞございません」
「儂も同じくじゃ。最早禍根には囚われぬよ」
三人が三人とも同意の返事を寄越した。誰一人として嘘は言っていない。その瞳を見れば一目瞭然だ。俺に向けるそれぞれの真摯な眼差しが、それを雄弁に物語っているのだから。
「ありがとう。じゃあ新たな門出に、という訳でもないが、この機会に改めて言いたい事があるんだ」
俺はそう言って、静かに居住まいを正す。
――遂にこの時が来た
思えば長い道のりだった。最初の頃の険悪なムードからすれば、随分と関係が改善されたものだ。この時の為にコツコツと積み上げた努力。それがようやく報われようとしている。
そう。
今こそ俺は、“太陽”になる!!
俺はゆっくりと深呼吸をして、そして漢らしく言い放った。
「脱げ」
そのただ一言を。
「あ、でも足袋とニーソは脱ぐなよ? 喜由、お前は部屋に戻りなさい。ここからは大人の時間だし、義理だからギリギリオッケーかな? とか思ったけどやっぱり妹に手を出す程外道じゃないからな。ま、出すのは手だけじゃないんだけどね!」
ああ、ようやく辿り着いたんだ。探し求めていた楽園、その入り口に。
いや、違うか。そうだ、これは階段だ。大人へと続く階段。俺は今日、その階段を登るんだ。それも相手が二人もいるという事は……
え、やだ二段跳び!? おいおい飛ばし過ぎじゃね!? ナニをどう飛ばすつもりなんだよ、って――
「え? 何? どうしたんだよ三人とも、そんな無言でゆらりと立ち上がったりして。それに何だよその目は、皆して。見ただけで石にされそうだぞ? おいおいやめろよ痛いじゃないか、髪の毛掴むな、って光世、さん? おい、ヤメ、ちょ、痛い痛い! 降りる、降りるから。すぐベッドから降りるから離せって。ゴメンなさい離して下さ……ちょっと本気で痛いって。痛! 何腕捻り上げてんだよお光!! マジで痛い!! いった!! 喜由! お前何いきなり肩パンしてんだよ!?」
どういう事だか俺は光世に髪をむんずと鷲掴みにされて、ベッドから引き摺り下ろされた。そしてお光により警察がチンピラを取り押さえるみたいにして腕を後ろに捻り上げられ、その上更に喜由の結構マジモードの肩パンを喰らった。これからリンチでも始まりそうな勢いじゃないか。
そこから先は、正直良く思えていない。これ何回目だよ。でも今回のは一番キツかったのかも知れない。思い出そうとしても身体が激しい拒否反応を示すくらいだから。
結果として、俺はその週いっぱい学校を休むハメになった。またもや喜由の周到な根回しで学校や両親については事なきを得たのだけは幸いだったが。
ただこれだけはハッキリした。
人は、決して太陽にはなれないんだ、という事が――
数日後、部活でこの事を打ち明けたると、桜木谷先輩は呆れた表情を見せてこう言った。
「まったく、君ほど付喪神が似合わない付喪主はいないな。才能の無駄遣いここに極まれりだ。これだから思春期の男子は……まあ能力を犯罪に使おうとするよりはマシなのかも知れないのか?」
自問自答を交え、深い深い溜息と共に。
うむ。物憂げな顔を見せる美女というものも絵になるものだ。
「いや、そうでもないな。やはり仙洞田君は心身共に鍛え直す必要があるようだ。丁度良い」
ブツブツと独り言を呟いていたかと思うと、すっと顔を上げた先輩。
そのまま、切れ長な目で俺をしっかりと捉えながら言った。
「仙洞田君、明日の放課後、何か用事はあるか?」
俺を見据える先輩の瞳が、キラリと光ったような錯覚を覚える。
「……いえ、特には、何も」
「そうか」
そしてしばらく間を置いて、
「じゃあ、少し付き合ってくれないか? 君に会ってもらいたい人が居るんだ」
含みのある笑みを見せつつ言った。
勿論俺は、ノーとは言えなかった。
よろしくお願いします。




