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第11話

 事件から二日後、被害報告。

 我々の部隊は重傷九名(軽傷はフィンさん、ジル、隊長だ)しかし既に治癒魔導士により完治。つまりは被害無く硬碗熊を倒すことができたのだ。良質な武器と人数差でなんとか倒せたのだが、難易度四〇の魔物の討伐は街に大きな反響をもたらした。冒険者でないと勝てないとされる魔物を自分たちだけで倒したのだ、衛兵たちには明るい報せだ。西の衛兵隊の辞めた人員も戻ってきているという。


 このニュースは冒険者たちにも伝わっていた。熊を討伐した次の日、冒険者たちは街に戻ってきた。彼らは森の奥の山脈の魔物の討伐などを行って戻ってきたところだった。

 まず、俺たちが活躍したと聞いてナツミさんとネコマルさんが詰所にやってきた。彼らは凄い凄いと称賛してくれた。さらには俺に冒険者にならないかなどと勧誘もしてきた。フィンさんがそれでぶちぎれていた。速攻で辞退させていただいた。


 俺たちは今日もパトロールに出ていた。またジルと一緒に街を周っている。中央通りに来ると武器屋のおっちゃんのところに向かった。熊の討伐後はすぐに寝込んだため挨拶にも来ることができなかったのだ。


「おっちゃん! ミスリルの槍大活躍だったぜ。止めもこれで刺したんだ」

「売った甲斐があったな、ガハッハ」

「オレの盾もすごい活躍だったぜ! もうボロボロだけどな」

「持ってきたら、手入れしてやるよ? 勿論有料だけどな。ガハッハ」


 おっちゃんと暫く話すとパトロールに戻る。

 街では俺たちの活躍を褒め称えるような話があちこちで上がっていた。あの市民団体ですら、褒め称えるような演説をしているのだという。それを話す自分たちの人気の獲得を狙っているのだという。パトロールは平和に終わった。


 その日の業務も終わり。俺達は酒場にやってきていた。闘技大会の慰労会をした酔っ払いのリンゴ亭だ。

 その時とほぼ変わらない面子で来ていた。隊長から労いの言葉で会は始まった。賑やかに隊員たちはお酒を飲んでいる。ジルはあちこちの人たちにお酒を飲まされている。馬鹿が余計馬鹿になっている。フィンさんは俺の隣でモグモグと料理を食べていた。フィンさんはこの店のカラアゲが好きで、ぱくぱくと口に運んでいる。

俺も負けじとカラアゲを食べていた。

(この店のカラアゲは、本当にうまい)

二人だけはお酒を飲むよりは食べることに集中していた。

 途中酒場の店員さんのアルファさんも混じって話をしていた。アルファさんがフィンさんだけに聞こえるようにコソコソと耳打ちすると一瞬だが不機嫌になっていたのは何故だろうか。その後からフィンさんも急にお酒を飲み始めた。


 数人の隊員とフィンさんが酔いつぶれた頃、会はお開きになった。夜道をゆっくりと歩く。フィンさんは俺の腕をぎゅっとつかんでいた。他の隊員たちは先に帰ってしまった。

 赤い顔をしたフィンさんはまだ酔いが回っているのだろう。

「クルト君……」

 フィンさんは呟くように俺の名前を呼んだ。

「フィンさん、どうしたの。気持ち悪くなった?」

 フィンさんは首を横に振る。

「クルト君は……冒険者になりたい?」

 ナツミさんたちが言っていたことを気にしているのだろうか。――冒険者には憧れるが、俺では力不足だろうと思うし、今は衛兵も気に入っているのだ。

「将来はどうなるかわからないけど、今はそんなこと考えてないよ。フィンさんはなりたかったの?」

「ううん、私はクルト君といられればそれでいい」

 フィンさんはドキッとするようなことを口にする。――たぶん、俺やジルと楽しく過ごせればいいという事だろう。彼女は俺を弟のように見ているだけだ。深い意味はきっとない。


 ――なんて彼女の顔を見てしまえば思えない。

 いつの間にか歩くのもやめていた。強く腕を握られていた。フィンさんは真剣な目でこちらを見ている。彼女の瞳はわずかに潤んでいた。

 俺はガキだからって、色恋についてあまり考えないようにしてきていたのだ。認めてしまうとフィンさんとの関係が壊れてしまいそうだったから。


 俺はフィンさんをしっかりとみる。俺よりもわずかに高い背、小さい肩幅。丁寧に梳かれた灰色の髪。俺よりも六才も年上だが同じ年の少女くらいに見える。俺からの拒絶があるかもしれないと怯える彼女はひどくひどく小さく見えた。

 だから俺は少しでも彼女を安心させたくて言葉を紡ぐ。

「フィンさん、俺もフィンさんといるのが楽しい。ずっといっしょにいたいと思うよ」

 今言える精一杯を言葉にする。好きだ愛してるなんてまだよく分かっていない。一緒にいたいってのが愛なら俺はフィンさんを愛していると思う。けど言葉にするのは気恥ずかしくて、これが俺の精一杯だ。


 この言葉だけでも照れくさくなった俺は視線を彼女から逸らす。ふと見上げた空は星がキラキラと輝いていた。熱くなった頬を撫ぜる風はすこし冷たく感じる。だから俺はフィンさんともっと近づく。寒さから逃げるためだと、心の中で誰かに言い訳をする。


 いつもより近い距離は彼女の息遣いまで感じることができた。彼女に視線を戻すと彼女は軽く目をつむる。俺は誘われる様に唇を軽く重ねた。軽く触れた唇は柔らかく、すぐに離れるとなんの余韻も残さなかった。だからもう一度深く重ねた。短くて長い時間は馬鹿の声で終わりを告げる。


「おおぉ? フィンさんとクルトぉ、キスしてるぞぉ」


「【エアプレッシャー】」馬鹿は飛んでいった。


 見上げた夜空は馬鹿が一つ輝いていた。



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