第9話 怯える姉
「いくら何でも寒すぎだろ……」
体を震わせながらバイクのエンジンをとめて車庫の奥にバイク停めた。
今日は期末テスト最終日で赤点がなければ明日から終業式までテスト休みとなるが、一教科でも赤点があればテスト休みはなくなり、地獄の補習期間を送る羽目になる。
帰りのホームルームで担任から声をかけられなかった時点で安心してテスト休みを過ごせることが確定した。
そのため、早々に帰宅し昼過ぎからバイクで出かけていたのである。
「さっぶ……」
家を出る頃は日差しがあり、着込んでいれば寒さを感じることはなかったが、夕方を近くになると徐々に温度が下がり、自分にぶつかってくる風が冷たいを通り越して痛いぐらいになっていた。
駐車場にバイクカバーとチェーンロックをかけると早足で家の中に入っていく。
「……ただいま」
周りを見るが静まり返っていた。
明かりもついてないので深愛姉は帰ってないのか?
「そのほうが静かでいいか……」
ヘルメットとグローブを玄関横にある棚へとしまい、飲み物を取りにリビングへのドアを開ける。
「きゃああああああああ!」
「うわあああああああ!」
突然の金切り声に驚き俺も叫び声をあげてしまう。
「ゆ、悠弥!? もう! ビックリさせないでよぉ……」
震えた声をあげていたのは深愛姉で、ソファの上で体育座りの状態でテレビを見ていた。
何故か頭から毛布を被りながら。
「……何しているんだよ」
俺は呆れた表情で深愛姉を見ながらリビングの明かりをつける。
「これ見てたの!」
一瞬俺を見た深愛姉はすぐにテレビの方を見ていた。
テレビの画面には異形な生物に襲われる人間たちが映っていた。
辺りには血や肉が飛び散り、一言でいえばグロいの一言に尽きる。
「知らない? 去年話題になった映画なんだけど」
「こんなのが話題になるのか……」
「うん、全観客が泣いた! ってキャッチコピーで」
「……色んな意味で泣くだろうな」
深愛姉の話では某映像系のサブスクで配信されたので見ていたと話す。
しかも雰囲気を出すためにリビングを真っ暗にしていたが出しすぎたために恐怖感が強くなってしまい、怖くて動けなくなっていたようだ。
「でさ、悠弥にお願いがあるんだけど!」
「……なに?」
「一緒にみない……?」
「断る」
「えー! なんでよー!」
「何で見たくもない映画をみなきゃいけないんだよ」
そもそもグロテスクなものは嫌いなんだよ! 現に今も大量の血が飛び散っているし。
「もしかしたら面白いかもしれないじゃん!」
深愛姉は必死に俺に興味を持たせようとするが俺の心が揺らぐことは一切なかった。
夕飯は深愛姉が担当しているが、今日に限ってはソファで固まったまま動く気配がないため、自分で作ることにした。
冷蔵庫に焼きそばと野菜セット(コンビニにある数種類の野菜が切られているもの)を取り出して適当に炒めてから自分の分と深愛姉の分を皿に装う。
「夕飯作ったから置いとくぞ……」
「えー! ここで食べてよー!」
自分の分をもって部屋に戻ろうとすると深愛姉が震えた声で呼びかけてきた。
「叫び声や人が喰われるシーンを見ながら食べたくないんだよ!」
グロテスクなシーンを見ながら食事できるほど強靭な精神は持ち合わせていない。
その瞬間テレビでは耳を塞ぐような嫌な音を立てながら1人の人間が異形の生物に食べられていた。
「それじゃ、ごゆっくりどうぞ」
「えー! もうちょっとここでゆっくりしていってよ!」
食欲が失せてしまう前に自分の部屋に戻り、PCを立ち上げて適当に音楽を聴きながら食事を済ませた。
その後はいつも通りゲームを起動して、毎日の日課を終えたので風呂でも入ろうと思い、部屋のドアを開けようとすると外から勢いよく開いた。
ドアの外にはトレーナーにハーフパンツ姿の深愛姉の姿。
「悠弥ぁぁぁぁ」
俺の名前を呼ぶと同時に力強く抱きしめてきた。
正面からなので深愛姉の胸が俺の体に押し付けられた。
「なんだよ……ってかノックぐらいしてくれ」
体に触れる感触を不快に思いながら声をかけると、深愛姉は目には大量の涙をためながら、俺の顔をじっとみていた。
「今日は一人にしないで……」
深愛姉の必死の叫びに俺は言葉を失っていた。




