第63話 似たもの親子
「朝か……」
ベッドに一番近い窓から燦々と光り輝く朝日が俺の目にクリーンヒットしたため俺は目を開ける。
聞いたらやる気が全て削がれそうな声と一緒にあくびをしながら体を起こすがすぐにベッドに背中を預ける形で体を倒した。
「……体が重い」
何故だと疑問に思うと同時に理由がすぐに頭の中を駆け巡っていた。
「そりゃそうだよな、朝早く出て帰ってきたのが夜だしな」
昨日は両親が一時的に戻ってくるというので、深愛姉と一緒に空港まで迎えにいく羽目になり、2人と合流してすぐに帰るのかと思いきや、空港内のショッピングエリアの散策や食事をして、帰ってきたのは夜遅くになっていた。
帰ってきた後のことはほとんど覚えておらず、気がついたらベッドに突っ伏していた。
寝巻きに着替えているのでおそらく風呂には入ったのだろう……。
枕のすぐに横に置いてあるスマホを見ると8時5分と表示されていた。
「もう少し寝るか……」
目を瞑るが、睡眠が訪れることはなかった。
珍しく規則正しい土曜の夜を迎えたため充分睡眠が取れていたからだろうか……。
「仕方ない起きるか……」
布団を勢いよく蹴り上げると同時に勢いに任せて体を起こす。
何か腰の辺りからバキバキと音がしていたような気がするが大丈夫だろう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
リビングのドアを開けると、深月さんがキッチンテーブルの指定の席に座わり、茶色のカバーがかけられた本を見ていた。
いつもみない光景に一瞬、戸惑う。
テレビの方には水色のパーカーにハーフパンツ姿の深愛姉が体育座りの状態でソファに座っていた。手にはいつも使っているタンブラー。
「あら、悠弥くん起きたの?」
俺がいることに気づいた深月さんは本を閉じて俺を見ていた。
「……おはようございます」
「おはよう。 何か飲む?」
「お茶で……あ、いや自分でやります!」
「遠慮しなくていいの、座って待ってて」
深月さんはキッチンテーブルに本を置き、すぐに急須と湯呑みを取り出してお茶を注いで行った。
「はい、どうぞ」
「……ありがとうございます」
湯呑みを受け取るとゆっくりとお茶に口をつけていく。
「あれ? 悠弥おはよー! 早くない?」
急須をキッチンテーブルに置いた音で気づいたのか深愛姉が驚いた顔で俺の顔をみていた。
「そろそろプニキュア始まるけど、一緒に見るー?」
そういや今日は日曜だった。
「……やめとく」
「えー! 今日は映画の後の話だから悠弥もわかるのに!」
「そもそも好きでみたわけじゃないからな!」
「もー!」
不貞腐れた表情をしていた深愛姉だが、テレビでカウントダウンが始まるとすぐに真剣な表情になってテレビを見る。
カウントダウンが終わるとすぐに映画館でも聞いた主題歌が流れ出した。
俺はため息をつきながら再びお茶を飲む。
「悠弥くんも映画見に行ったの?」
「……行ったと言うか付き合わされただけです」
「深愛に?」
「そうです……」
俺の返事に深月さんは右手で額を押さえていた。
「そういえば私がいない間、深愛が迷惑かけなかった?」
「……俺にですか?」
「えぇ、あの子あー見えてワガママだから」
そう言いながら深月さんはテレビに釘付けになっている深愛姉を見ていた。
本人は見られていることなど露知らず。
「そ、そんなことはないですよ……」
普通に答えるつもりが何故が声が震えていた。気づかないだろうと思っていたが……。
「やっぱり、迷惑かけていたのね」
完全にバレていた。
「……もう一度姉になれたんだからしっかりしてほしいわね」
ため息混じりの声で深月さんは呟く。
何か反応をしようと思ったが、どう返していいのかわからなくなり、この気まずさを誤魔化すために黙ってお茶を啜っていた。
ふとテレビの方をみると、この気まずさを知る由もない義理の姉が映画館で俺がもらったステッキを持って振り回していた。
その光景に思わずため息が口から漏れていく。
「……あの子、悠弥くんがいるって知った時とても喜んでたの」
いつの間にか深月さんも、ステッキを振る娘の姿を見ていた。
「……そう、なんですか?」
「そうよ、引っ越した後でも会えるのに、わざわざ引っ越し当日に悠弥くんを探しに行くぐらいなんだから」
あの時か。
頭の中で俺を逆ナンしている姿と山奥直前まで行かされた記憶が蘇える。
そういえば深愛姉との出会いはそこからだったな。最初は嫌で近寄って欲しくなかったから距離をおいていたけども。
でも、そんな対応をとっていた俺を、あの時は姉として俺を励ましてくれた。
嫌なことから逃げていた俺を侮蔑することなく。
「……たしかにそうかもしれないですね」
「うん? どうしたの?」
俺の言葉に深月さんは俺の顔を見ていた。
「深愛姉が俺の姉になれたことに嬉しがっていたことです」
これまでの深愛姉の行動を思い返すと、深月さんが言っていた意味がわかるような気がした。
俺の返答に深月さんはふふっと声に出して微笑んでいた。
「そう言ってもらえると、あの子の親として嬉しい限りね」
最後にもちろん今は悠弥くんの親でもあるけどね……と、慌てて付け足す。
当の本人は気付くことなくテレビの前で大喜びをしている。
「うん?」
俺が見ていたことに気づいた深愛姉は俺の方を向いてにっこりとした表情を浮かべる。
「今日はプニリーフが大活躍したんだよ!」
「……いや聞いてないから」
俺の返答が気に食わなかったのか、「もー!」と不機嫌な声をあげながら再びテレビを見ていく。
「悠弥くん」
名前を呼ばれ、俺は声の主である深月さんを見る。
「どうしました……?」
「これからも深愛のことよろしくね」
「え……あ、はい」
深月さんは真剣な表情のまま話してきたので、驚きのあまり歯切れの悪い返事をしてしまう。
いつも通り接していけばいいんだよなと心の中で思いながら湯呑に残ったお茶を飲み干す。
「さてとそろそろかしらね……」
深月さんは立ち上がり深愛姉がいるテレビの方へ向かっていくと入れ替わりに深愛姉がこちらに来ていた。
どうやら今度は深月さんがテレビを見るようだけど……。
「……深月さん何見るんだ?」
自分が知る限りこの時間帯はアニメかニュースぐらいしかやってないけど……。
「たぶん、すぐにわかると思うよ?」
するとテレビの方からバイクの音と一緒に男性の声が聞こえてきた。
「……マジ?」
テレビの内容が理解できた俺は深愛姉の顔を見る。
「うん、ママって平成シリーズ全部見るほどの大ファンだよ!」
そういえば、前に深月さんがイケメンのイラストが描かれた画集を送ってきていたな。
「変身ッ!!」
聞こえる声に反応して思わずテレビの方を見る。
そこには恋する乙女のようなに目を輝かせながら食いつくようにテレビを見る深月さんの姿が。
「……さすが親子」
「うん? 何か言った?」
マグカップにハーブティーを淹れようとしていた深愛姉がこっちを見ていた。
「いや、なんでもない……」




