第62話 両親の帰宅
「悠弥、もうすぐ着くから起きてー!」
体を左右に揺さぶられ、俺はゆっくりと目を開ける。
目の前には赤く塗られた横長のシート、その真上にはガッチリと閉められた縦長の窓が2つ。
窓の外は永遠に続いているんじゃないかと思えるぐらいのコンクリートの壁。
まだしっかりと脳が目覚めていないせいか普段とは見慣れない風景にとまどう。
「ほーらー! 早く起きてよ!」
俺の隣で深愛姉が俺の方を掴んでグラグラを揺らしていた。
「……起きてるから揺らすな」
深愛姉の手を掴み体の揺れをとめさせる。
「もー! 久しぶりにカズさんとママが帰ってくるんだからちゃんと起きてないとだめだよー」
「はいはい、わかったよ……」
そう言いながら口元を手で抑えて大きくあくびをする。
「……帰るにしても何で始発便なんだ」
俺はスマホの画面を見ると画面には7:45と表示されていた。
本日は土曜日、いつもならまだ寝ている時間である。
「それだけ2人も楽しみにしているんだよー」
深愛姉は一番楽しみにしているんじゃないかってぐらいの笑顔で答える。
事の始まりは先週の頭まで溯る。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「予定だともう少しで遅くなるんじゃなかったのか?」
リビングでは深愛姉と遊びに来ている習志野がサブスクサイトでプニキュアをみて子供のように大はしゃぎしていた。
この2人にあわせるのは体力的にも精神的にも無理だと察した俺は自分の部屋に行ったところ、父親から電話があり帰ることを告げられる。
『本当はそうだったんだがな、取引先の1つが急遽都内の支部と統合することになって、プロジェクトが終わるまで俺と深月さんも戻ることにしたんだ』
「……よくはわからないが大変そうだな」
『まあそうだな、で、帰るのは今週末の朝一番の便で行くつもりだ』
「別にもう少し遅めでもいいんじゃないか?」
『仕事がなければそうしたいけどな』
もう少し話しをしようと思ったが奥から佐倉さんと呼ぶ声が聞こえてきた。
『すまんな、呼ばれたから切るぞ』
「わかった」
俺が返事をすると同時に通話が切断された。
ホントに忙しそうだな、ぶっ倒れなければいいが
このことを深愛姉に伝えようとリビングに行こうとしたが2階まで響くキャラと2人の声を聞いて思いとどまる。
「……後にしよう」
俺はそのまま部屋のドアを締めるとPC用を起動させてゲームの世界に飛び込んでいった。
「深愛さん楽しかったッス! また一緒に見ようッス!」
日が沈む頃、習志野が帰るということで何故か俺まで見送りに付き合わされる。
原チャのエンジンをかけてアクセルを軽く回し、ジェットタイプのヘルメットをかぶった習志野は大きく手をふっていた。
「うん! 気をつけて帰ってねー」
「はいッス! それじゃッス!」
アクセルを回して原チャを発信させているが興奮が冷めないのか主題歌を口ずさんでいた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「カズさんとママが帰ってくるの!」
リビングで夕飯を食べている際に、父親から電話があって今週末に父親と深月さんが帰ってくることを伝えると、深愛姉は目をまん丸に開きながら大声で反応していた。
「何時の便で戻ってくるの?」
「始発便とか言ってたな」
そう言うと深愛姉はスマホを取り出して画面をタップとスライドを繰り広げていた。
「……どうしたんだ?」
「ママに何時にこっちに着くか聞いてるの」
どうやら家族のグループチャットで連絡しているようで深愛姉がメッセージを送ると俺のスマホまで震え出していた。
しばらくして、深愛姉のスマホからはポン!という軽快な音がそしてテーブルに置かれた俺のスマホはガタガタと音を立てて揺れていた。
「8時40分に着くって」
「随分早いな……」
俺がそっけなく反応すると深愛姉は再度スマホの画面を巧みにスライドを繰り返していく。
「6時の電車に乗れば充分間に合うね」
深愛姉がつぶやくと俺のスマホが再び震え出す。
Mio Sakura
『悠弥と2人で待ってるよー』
俺にとって無慈悲にも等しい内容が送られていた。
「……って何で俺もなんだよ!?」
「せっかく両親が帰ってくるんだから迎えにいってもいいじゃん!」
すぐにまた俺のスマホが震え出していたので恐る恐る画面を見る。
Kazuhiko Sakura
『わかった、せっかくだし美味しいものでも食べに行こうか』
Mio sakura
『わーい!』
Kazuhiko Sakura
『悠弥、言っておくが当日バイクでいなくなったら小遣いなしにするからな』
よりによって父親から厳しい言葉が飛んできた。
つまり、毎度のごとく俺の逃げ場がなくなってしまった……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「わあ……! ひろーい! 人があまりいなーい!」
そして今に至る。
空港まで直結の電車を降りた俺たちは案内板の通りに進んでいき搭乗口の前に立つ。
空港内にある時計を見ると現在、8時25分を指していた。
2人が乗った飛行機の到着が8時40分と言っていたのでもうじき来るだろう。
「どうしようか、カズさんがものすごくげっそりしていたら……」
いつものように俺の腕に組んだ深愛姉が今にも笑いそうな顔で話していた。
そんなことを言われて、父親がげっそりしている姿を想像してしまう……。
「……それはないな」
「そうだといいんだけどね、ママって気が強いから」
「そんなイメージないけどな、深月さん」
「悠弥はそんなに話したことがないからじゃない?」
「……言われてみればそうだった」
一緒に暮らしてから避けてたし、いつの間にか出張になってたしな。
そう言えば、深愛姉とも最初は避けていたことをふと思い出す。
「……これを機に深月さんと話してみるか」
「うん! ママも喜ぶと思うよ」
「……今までの深愛姉がしてきたことをやっと愚痴れるな」
「それはダメー! ママに怒られちゃうじゃん!」
深愛姉は眉間のしわを寄せた顔で俺のことをじっと睨んでいた。
俺はため息をつきながら搭乗口の方を見ると、聞き覚えのある曲が流れ出していた。
「あ、電話!」
深愛姉がバッグからスマホを取り出すと画面にはママと表示されていた。
「もしもし、ママー? どうしたの?」
深愛姉は俺の腕を組んだまま、もう片方の腕で通話を続ける。
「もうすぐ、搭乗口着く? もう搭乗口前にいるから!」
どうやらもうすぐ2人が来るのかと思い、搭乗口の奥を見てみると見覚えのある2人を発見する。
父親の右手にはキャリーバッグ、左手にはどこかの店のロゴが入った白い袋を持っていた。お土産だろうか。
その父親の隣には深月さんがいて、俺と深愛姉がいるのに気づいたのかこちらに向けて手を振っていた。
「深愛姉、深月さん手ふってるぞ」
「あ、ホントだ! ママー!」
2人の存在に気づいたのか、それに応えるように深愛姉も大きく手を振っていた。
お読みいただきありがとうございました!
ランキングに載ってみたいですので応援宜しくお願いします!
その際にこのページの下(広告の下)にある、
「☆☆☆☆☆」を押して評価をしてくださると泣いて喜びますので
ぜひページを閉じる前に評価いただけたら嬉しいです!
感想もぜひよろしくお願いします!




