第41話 あの子の出会い(SIDE MIO)
「さてと、そろそろ本題に入ろうかな……」
真っ先にケーキを食べ終わった佐倉さんは穏やかな表情から一変して真面目な表情へと変えていた。
「僕が君のお母さんと再婚を望んでいるのは聞いているかな?」
「はい、母から聞いています」
私の返答に佐倉さんは小さく深呼吸をしていた。
「率直に聞かせて欲しいんだけど、深愛さんは賛成してくれるかな? 君のお父さんにもなるわけだし」
声を震わせながらも佐倉さんは私の顔をジッとみっていた。
私は隣に座るママの表情を見る。
「どうしたの深愛?」
私の視線に気付いたのかママも私の顔を見ていた。
「ううん、何でもないよ」
ママはあの時みたいに怯えてもいないし、むしろ楽しそうだった。
佐倉さんも見た目は怖そうだけど、物腰が柔らかくて一緒にいて楽しそうな感じがする。
——あの人とは全然違う。
「す、すぐに答えるのは難しいかな……?」
私が何も言わないので不安になったのだろうか佐倉さんは若干、震えた声をあげていた。
「ご、ごめんなさい! ちょっと考え事をしてて……!」
「もう……人が真剣に話しているんだから」
ママは呆れた様子で私をみていた。
「いいですよ」
私は佐倉さんの目を見て答える。
「ほ、本当かい! よかったぁ……」
佐倉さんは安堵の息をつきながら自分の胸を撫で下ろす。
ママもホッとしたのか、微かな声で「よかった」と呟いていた。
「……けど、いくつかお願いしたいことがあるんです」
私の言葉に佐倉さんは再び顔が強張らせる。
「いいよ、何でもいってごらん」
「絶対にママを幸せにしてあげてください! もし、悲しませたりしたら私——」
「深愛! ここでそんなこと言わないの」
ママは顔を赤らめながら止めようとしていた。
佐倉さんは私とママのやりとりをみて微笑んでいた。
「もちろんだよ、お母さんも……深愛さん両方とも幸せにしてみせるよ!」
佐倉さんは自信満々な笑みで自分の胸板をドンと叩いた。
「……それともう一つだけいいでしょうか?」
「いいですとも! 何でも言って!」
佐倉さんはすごい上機嫌だった。
「……ものすごく自分勝手かもしれないですが、『お父さん』って呼ぶことに抵抗があるんです」
『お父さん』って言葉を口にする度にあの人のことを思い出してしまう。
——二度と思い出したくない元父親のことを。
「深愛……」
ママは心配そうな顔で私を見ていた。
「別にいいんじゃないかな? 『お父さん』って呼ばなきゃ家族になれないわけじゃないし」
佐倉さんは迷うことなく即答する。
「ありがとうございます……」
早速、私のわがままを聞いてもらってちょっと申し訳なく思ってしまう。
「よかったわね、深愛」
「うん!」
「でも、何て呼ぶの?」
「たしかに気になるね」
佐倉さんとママは興味津々といった表情で私の顔をみていた。
全く考えてないよー!
私は頭をフル回転させて呼び方を考えていた。
和彦さん……
いや、すっごい他人行儀な感じがするし、こういう呼び方は格式の高い奥様が呼ぶ感じがする!
ママに合うかはわからないけど。
「それじゃ、か、『カズさん』でどうでしょうか?」
他人行儀にならず、砕けすぎないものを必死に考えた結果、この呼び方が出てきた。
と、いうかこれしか出てこなかったが正解かな。
「『カズさん』か……いいねぇ」
佐倉さん……カズさんはその呼び方がお気に召したようで何度も口にしながらニヤけていた。
「もう、自分の娘になる子の前でニヤニヤしないでください」
ママがカズさんのニヤけ顔を見て呆れ返っていた。
「深愛さんのぐらいの子から名前で呼ばれることなんてないんだから、このぐらいいいじゃないか」
カズさんは大きな声で笑い、ママは頭を抱えながらため息をついていたけど表情は柔らかく、楽しそうだった。
——もちろん私も。
食事を済ませた後はカズさんに駅まで送ってもらい改札の奥に進んでいった。
ホームに着くと来た電車に乗って空いている座席に座る。
最初は気になっていたけどカズさんがとてもいい人でよかった。
でもちょっと気になることがあった。
「ゆうや……くんか」
そう、カズさんの息子さんのことだ。
たしか、私の1つ下だと話していたので『あの子』と同じぐらいだ……。
「私、もう一度、姉になっていいんだよね」
これ以降は色々な手続きをするたびに集まっていたがカズさんの息子さんの「ゆうや」くんが顔を出すことはなかった。
「何であいつは顔合わせの日にどこかに消えるんだ!」
婚姻の手続きをするため、役所に向かう車の中でカズさんは怒りを露わにしていた。
「今日もあえないんだ……」
後部座席に座っていた私は思わず声に出してしまっていた。
「ごめんね深愛ちゃん、次こそは縛り付けてでも連れてくるから」
そんな話をしているうちに車は役所の駐車場へと入っていく。
「お待たせいたしました。 こちらで手続きは完了になります」
カズさんとママの婚姻届、私の住民票など諸々の書類に記入をして待たされること数時間……。
これで私とママの苗字が『佐倉』に変わった。
ものすごい違和感があるけど、そのうち慣れるのかな?
「おわったあ……何でこんなに時間かかるのー!」
私はドリンクコーナーがあるエリアでココアを飲みながら目の前にいる出来立ての両親に文句を言っていた。
「役所なんてそんなもんだって。 気にしたら負けだよ」
カズさんは自販機から出来立てのコーヒーをとりながら私を宥めていた。
「深愛ちゃんはこれで終わりかな? 俺と深月さんは免許とかの更新に行かなければならないしな」
「いつ車使うかわからないから、休みもらって試験場に行かないと」
「そうだな、一緒に言って終わらせようか!」
「何でそんなに嬉しそうな顔しているんですか、娘の前ですよ」
カズさんの顔から笑みが溢れるぐらい溢れていた。
ママのことがホント好きなんだろうなぁと、見ているこっちまでニヤニヤしてしまう。
そして更に月日は過ぎていき、最初に会った時は夏の終わりだったけど季節は冬になり、気がつけば新しい年を迎えていた。
その間に気が遠くなるぐらいの手続きが終わり、残すは私とママが佐倉家への引っ越しをするだけになったが、相変わらず「ゆうや」くんの姿を見かけることはなかった。
今日は引っ越し業者への依頼や荷物の確認のために私とママが住んでいるアパートへカズさんが来ていた。
「悠弥! どこをほっつき歩いているんだ! 県境だぁ!?」
カズさんはゆうやくんに電話しているのだろうか大声をあげていた。
「来週には2人がくるんだから絶対にでかけるんじゃないぞ!」
カズさんは怒り任せに電話を切る。
「まったく、バイクをあげるんじゃなかったな……」
椅子に座ったカズさんは大きくため息をついていた。
「高校生って多感な時期っていうし、気まずいのかしらね」
ママは急須にお茶を淹れてカズさんに手渡しながら話しかけていた。
「たしかにそうなんだけど、こんな時ぐらいまったく……」
ブツブツと文句を言いながらカズさんはお茶を啜っていく。
前に今年は2人の仕事が忙しくなると話していた。
そうなると、「ゆうやくん」と2人になることが多そうな気もするのでできることなら早めに顔を合わせたかった。
「カズさん、ちょっとお願いしてもいい?」
「うん? どうしたんだい?」
1週間後、ついに引っ越しの日がやってきた。
ママは引っ越しの業者がくる時間に合わせて先に佐倉家へ向かっていた。
私はというと佐倉家のある最寄りの駅のロータリーにいた。
「まだかなぁ……」
寒さに耐えながら辺りをみていると、カバンの中からいつも耳にする曲が流れ始めていた。
スマホを取り出すと画面には『ママ』と書かれていたのですぐに通話ボタンをタップした。
「和彦さんが言われた通り、ゆうやくんにおつかいを頼んだらしいわよ」
「うん、わかった! ちなみに何を頼んだの?」
「和彦さんが昔から愛読している格闘マンガですって。 和彦さんが近い本屋はショッピングモールだから、そこに行くだろうって」
「うん、わかった! そういえば写メ撮れた?」
私の質問が聞こえたのか、後ろでカズさんがうねり声を上げていた。
「撮れたけどね、ちょっと見づらいかもしれないって」
「わかったよ! この後すぐに送っておいてー」
電話を切ってから数分してママからのLIMEで写メが送られてきた。
「うわぁ、ブレてる……」
移動しようとしている時に撮ったのか、写真は見事にブレていた。
しかも横顔だから見づらい。
なんとか黒のダウンコートと紺のパーカー、ジーパン姿であるのは確認できたけど、顔まで判定するのは不可能に近かった。
「……服がわかればなんとかなるかな」
スマホをカバンに入れて駅から直結のショッピングモールに向かっていった。
土曜日だからかショッピングモール内は大勢の人でごった返している。
とりあえず「ゆうやくん」がいるであろう本屋のある階を探すことに。
「本屋は……あった、有林書店! 場所は5階」
私が今いるのは2階なので、歩くのは厳しそうだ。
仕方なくエレベーターと思ったけど、人がいっぱい並んでいた。
「こうなったらエスカレーターでいくしかない!」
ちなみにエスカレーターは今いるところからだいぶ離れたところにあったことは言うまでもない。
「なんで途中でエスカレータの場所が変わるのー!」
5階について思わず叫びたくなる衝動を抑えながら小さく文句を言っていた。
「……本屋の場所を探さないと」
登りエスカレーターのすぐに横の柱にあるフロアガイドで目的の本屋を探す。
「何で一番奥なの!もー!」
バタバタしていたので朝の番組の占いコーナーをみていなかったけど絶対に今日、私の誕生月は最下位に違いない。
「うそー! 気になってたショップがあるじゃん! でもまずは彼を探さないと!」
途中で気になっているブランド店に目が行きそうになるけど我慢してひたすら目的の本屋を目指して歩いていく。
「つ、ついたぁ……」
息を切らしながらも目的の本屋に到着。
入口付近に毎月購読しているファッション雑誌があったような気もするけど、今はそれどころじゃない!
カバンからスマホを取り出してブレた写真を表示させ、店内をウロウロしていった。
「いないじゃーん!」
本屋から出ると、再び叫びたい気持ちを抑える。
写真を頼りに探してもそれらしい人は見つけることができなかった。
「もしかして既に家に帰っちゃったとか!?」
すぐにママのスマホに電話をかけてみる。
『帰ってきてないわよ』
ママの一言に安堵感を覚える。
これで帰ってるなんて言われたらショックで立ち直れないかもしれなかった。
『あ、深愛ちゃん聞こえるかい?』
スピーカー越しにカズさんの声が聞こえてきた。
「カズさんきこえるよー! どうしたの?」
『もしかしたら途中のゲームショップで寄り道しているんじゃないかと思ってね、あいつゲームが好きだから』
いや、マジでやめてもらいたいんだけど!
「わかったー……もう少し粘ってみるよ」
私はため息をつきながら通話終了ボタンをタップした。
「とりあえず、休もう、足がクタクタだよー!」
本屋の近くにある休憩用の真四角の座椅子に座りながら本屋に入っていく人を見ていったが、目的の人物らしき人物が通ることはなかった。
「もしかして行き違いとかになっちゃったのかな……」
ここへ来て1時間近く経っていた。
佐倉家からここまでバイクだと10分ぐらいで着くとカズさんが言っていた。
既に買い物を済ませて帰ることも充分ありえる。
「帰ろう……」
さっき見つけたブランドのお店でも見て気分転換するのもいいかもしれない。
そう思い、私は立ちあがる。
「まったくガソリンぐらいさっさと入れろよ……さむっ」
その時、私の目の前を何かブツブツ文句を言いながら本屋の中に入っていく黒いダウンコートを着た人が本屋の中に入っていった。
首には茶色のネックウォーマーをつけてものすごく暖かそうに見えた。
「ブツブツ独り言しゃべって変な人……」
あーあ……カズさんとママに何て謝ろうかなと考えながらふとスマホを取り出す。
そこに映っていたのはカズさんから送られたブレた写真。
「ちょっと待って今の人!」
私は振り返ってもう一度本屋の中に入っていくと周りの目など気にせず、店内を走り回り、その姿を発見する。
格闘漫画がズラッと並ぶ本棚に指さしながら探していた。見た目も高校生っぽいし、たぶんこの子がゆうやくんだろう。
ゆっくりと近づき、声をかけようとするが普通じゃ面白くないし……なんかインパクトのあるほうがいいよね。
「そうだ、この前みたファッション雑誌の謳い文句!あれを試してみようかな」
私は彼に近づき、声をかけた。
「そこの君、暇だよね? よかったら私と一緒に遊ばない?」




