第31話 深愛と唯香(SIDE MIO)
「おはよー」
いつも通り眠い目を擦りながらリビングのドアを開ける。
誰もいないことはわかっているけど、挨拶するのは日課というか癖みたいなものだから仕方ない。
「あれ……?」
ダイニングテーブルの上をみると、悠弥のために残しておいた料理一式がなくなっており、シンクの方を見ると水切りラックに使ったお皿が並べられていた。
「悠弥起きてるのかな?」
現在の時刻は7時を過ぎたあたり。
平日ならともかく、休日のこの時間に悠弥が起きてることは絶対にと言えるほどない。
それに昨日はオフ会から帰ってきて、よほど疲れたのかずっと寝ていたし……。
夜に布団をかけに部屋の中に入ったけど、起きる気配が全くなかった。
もしかしたら、お腹が空いて早めに起きたのかもしれない。
「ってことは部屋にいるのかな?」
おそらくゲームだろうなと思いながらも悠弥の部屋のドアを開けるがその姿はなかった。
「出かけたのかな?」
仕方なくリビングへ戻ることにした。
もしかしたらゲームで使う電子マネー?を買いにコンビニへ行ったのかもしれない。それならすぐに帰ってくるだろう。
そう思いながらテレビの電源をつけることにした。
「……遅いなあ」
悠弥の帰りを待ちながら朝のニュース番組を見ていたが帰ってくる気配は全くなかった。
テレビの画面には再放送のバラエティ番組が始まっていた。
他のチャンネルに変えるが、これと言って見たいものがなかったためテレビの電源を切った。
「どこいったんだろう?」
朝食を食べてから歯磨きや、着替えなどを済ませるも悠弥が帰ってくることはなかった。
「昨日あんなにグッタリしてたのに平気なのかな……」
帰ってきた時の悠弥は少し顔色が悪かったし、元気もなかった。
それでも夕飯の時になれば起きてくるだろうと思ったけどそれもなく夜通し寝ていた。
「ごはんちゃんと食べたなら大丈夫だよね……」
本当に何もなければいいんだけど……。
リビングで買ってきた雑誌を見ていると思っていたより時間が経っていた。
先ほどLIMEを送ったが、既読すらついていなかった。
「なんか私、怒らせるようなことしたかな……」
ここ最近、休みの日は一緒の部屋にいなくても悠弥の部屋に行けばゲームに没頭しているが、いることは確認できたので、安心感はあった。
けど、今日に限ってはなんか不安になる。
何故なのかは自分でもわからなかった。
「……変なことが起きなきゃいいんだけど」
1冊目の雑誌を読み終え、次の雑誌を開こうとした時インターホンが鳴り響いた。
「悠弥?」
ドアホンの応答ボタンを押して、カメラを起動させると、そこに写っているのは悠弥ではなく1人の女性だった。
「この駅だよね」
電車から降りると、この駅出身グループのデビュー曲の発車ベルが鳴り響いている。
その曲を口ずさみながらエスカレーターで上の階に上がり改札をでていった。
改札をでると大きなロータリーになっており、進んだ先にはショッピングモールが続いていた。
「悠弥くん、結構いいところに住んでいるんだ、いいなあ」
その場に立ち止まり、カバンの中から四つ折りの紙を取り出してから開くと乱雑な地図が書いてあった。
昨日のチームメンバーとのオフ会が終わった後に悠弥くんが体調を崩して帰ったことを理人くんに話し、心配だからお見舞いに行くから彼の家の場所を教えてくれと聞いたら、地図を書いてくれた。
「たしか駅から歩いて20分とか言ってたよね……」
遠ければタクシーでも拾おうと思ったけどそれぐらいの距離なら歩けるだろうと思っていたが、紙を見ながら歩いていたためか、道を間違えること数回。20分どころか倍近くかかって目的地に到着した。
門にかけられた表札にはアルファベットで『SAKURA』と書かれているのでここで間違えはないだろう。
「これで悠弥くんに会えるんだ……」
そう思うと胸の高鳴りが止まらなくなった。
悠弥くんがでてきたら、ぎゅっと抱きしめて久々だから唇を重ねてみるのもいいかもしれない。
あふれ出そうになる欲望を抑えながらインターフォンのボタンを押す。
「はーい、どちら様でしょうか?」
聞こえてきたのは悠弥くんの声ではなく女性の声。
とてもハキハキした印象が取れる声だった。
誰よこの女、もしかして悠弥くんの新しい——
沸々と怒りが込み上がってくるのが自分でも感じていた。
「あのー! どちら様でしょうかー?」
「えっと、成田と申しますが悠弥さんはいらっしゃいますでしょうか?」
「すみませんー悠弥は今出かけていていないんです……」
何でいないのと思わず叫びそうになっていた。
「そうですか、何時頃戻りますか?」
「うーん、それがわからないですよ。 もしかして約束があったとかですか?」
「えぇ、そうです」
「そんなに遅くならないと思いますので、よかったら中で待ちますか?」
どこで悠弥くんを待とうか悩んでいたがこれはとてもいいチャンスに思えた。
「よろしいでしょうか?」
「大丈夫ですよ、鍵開けますので少しお待ちください」
ドアホンのモニターには白いワンピース姿の女性が映っていた。
茶色のセミロングの髪におっとりした感じのいかにも清楚な女性って感じだった。
悠弥に用があるってことはもしかして、昨日のオフ会で知り合った人なのだろうか?
せっかく来てもらったのに返すのは躊躇ったので家の中で待ってもらうことにした。もうすぐお昼にもなるし、そろそろ帰ってくる頃だと思う。
鍵を開け、玄関を開けるとドアホンのモニターに映っていた成田と名乗る女性が経っていた。
「うわぁ……」
生で見ると私ですらドキドキしてしまうほどの美人さんだった。
身長は私より少し小さいぐらいかな。
「お待たせしましたー、おあがりください」
「ありがとうございます」
成田さんは深く頭をさげると家の中に入っていった。
「何か飲みますか?」
「あ、いえ……おかまいなく」
成田さんをリビングに案内すると、いつも悠弥が座っている椅子に座らせる。
お客様に出す用のマグカップにいつも飲んでいるハーブティーを淹れて彼女の目の前に置いた。
「ありがとうございます」
成田さんはそういうとすぐにハーブティに口をつけていった。
それ以降、お互い何も話さずにいた。
と、いうよりも、どんな話題から話を切り出していいのか、わからなかった。
それにしても、見れば見るほど綺麗な人だなと見入ってしまう。
悠弥もこんな綺麗な人がいるなんて隅におけないなぁ……。
「あ、あの……?」
成田さんが少し顔を赤らめていた。
「えっと、私の顔に何かついていますか?」
気がつかないうちにじっくり見ていたようだった。
「あ、ごめんなさい! すごく綺麗な人だったので」
私は慌てふためきながら答えると目の前の綺麗な女性は微笑んでいた。
「そんなことないですよ、私なんて……」
先ほどよりも顔が真っ赤になっていた。
そ、そうだ。話題を変えよう!
「そういえば、悠弥とはお付き合いされているんですか?」
言ってから気づく、私は何を言っているんだろ。
「えぇ、悠弥さんとはもう1年近くですね」
「そ、そうなんですね!」
あれ、1年ってことは私たちが会う前から付き合ってたってこと?
そんな素振りまったくなかったけど……。
「それに悠弥さんとはそれ以上の関係もありますので」
えっと、ニコっとした表情ですごいこと言ってたんですけど!?
しかも、何で今それを言ったの!?
「どうかしましたか? もしかしてショックでした?」
成田さんの顔を見るとものすごく勝ち誇ったような顔をしていた。
どんなにバカな私でもわかる。
これはケンカを吹っ掛けられている。
理由はわからないけど。
「でも、これは揺るぎない事実ですから仕方の——」
「だから何ですか?」
「え?」
私は目の前の女性をジッと見ながら力強く答える。
こういう時は弱気になったら負けだって、琴葉が持ってる漫画で言ってたような気がした。
「悠弥があなたとどんな関係だとしても、私にとって悠弥は大事な人であることには変わりはありませんので!」
とりあえず強気にでるために思いついた言葉を並べてみた。
なんかすごいこと言ったような気がするけど大丈夫だよね?
「私が一番悠弥くんを思っているんだから!」
成田さんは大声で怒鳴ると立ち上がり、隣の椅子に置いてあったバッグを取るとそのままリビングから出ていってしまった。
「悠弥を待たなくてもいいんですか?」
私も玄関の方へ向かうことにした。
どんな形であれ弟の大事な?お客様なので、お見送りぐらいはしないと。
「あとで電話するからいいわよ!」
成田さんはそのまま玄関をあけて出ていってしまった。
とりあえずどうにかなったけど、滅多にしないことをしたために玄関の鍵をかけると安心したのか、一気に力が抜けていきその場にへたり込んでしまう。
自分でも知らないうちに気が張っていたのか安心感と同時に目から大量の涙が流れだした。
「怖かったよぉ……悠弥……早く帰ってきてよー!」
「何なのよ、あの女……」
私は悠弥くんの家を出てからイライラが止まらなかった。
今ならアルミ缶ぐらいなら握り潰せるのではないかと思ってしまうほどだ。
歩いているうちに喉が乾いたため、途中にあったコンビニでペットボトルのお茶を買うことにした。
店の中に入り、雑誌コーナーを横切ろうとした時に1冊の雑誌に目が入った。
この間、スマホの機種変更をした時に読んでた雑誌だ。
「そういえば……」
雑誌を手を取り、パラパラとページをめくり、開いたのは、悠弥くんが写っていたページ。
そして一緒に写っていたのは先ほど悠弥くんの家にいた女だった。
雑誌には小さくMIOと書いてあった。
「何で雑誌で写るような女が悠弥くんの家にいるの……!」
怒り任せに持っていた雑誌を握りしめていく。
「……悠弥くんは、絶対に渡さないから」
——その後、店員さんに怒られたのは言うまでもない。




