第20話 佐倉家による雪合戦
「……やっぱり家の中にいるわ」
「だーめ!」
深愛姉に連れられて外にでるとそこは極寒の地だった。
辺りは一面真っ白に雪化粧をされており、さらにまだ上塗りをするかの如く雪が降り続いていた。
しかも何か風も吹いてるし、マジで寒い。
「いや無理、凍死するだろこれ」
我慢できなくなったので家の中に入ろうとする。
「悠弥こっちむいてー」
声をかけられ、何も考えずに素直に振り向くと、クシャッと音と一緒に俺の顔全体が何かを覆っており、手で顔に触れると白い粉状のものがくっついていた。
奥の方でボールを投げ切ったポーズをしている深愛姉からである。
彼女が身につけているグローブにも白い粉のようなものがついていたので雪を投げたのだろう。
「やったね!」
その言葉に俺の中でスイッチが切り替わっていた。
こっそりと雪をかき集めると早足で深愛姉に近づいていく。
「ちょっと悠弥こわいー!」
逃げようとするが雪に足をとられてうまく動くことができないようですぐに俺に追いつかれてしまう。
「ちょ……! 悠弥がものすごく悪い顔してるー!」
「深愛姉わかってるよな……?」
そう告げると、俺は先ほどかき集めた雪玉を深愛姉の顔に押し付けた。
「わぷっ……!」
必死に両手を使って顔についた雪を払う深愛姉。
「やられたら倍返しが佐倉家のモットーだ!」
もちろんそんなものはない。とりあえず思いついたことを言っただけだ。
「ふーん……それは初めて聞いたなあ」
顔についた雪を払い終わると深愛姉はしゃがみこみ雪玉を作っていく。
「それなら私は2乗倍返しー!!!!」
雪玉を作っては投げ、作っては投げてを繰り返していた。
「言ってることがめちゃくちゃだろ……」
突如始まった雪合戦は互いの疲労によって終焉を迎えた。
俺は雪の上に座り、体を休めていた。
「うん! 下はこれぐらいでいいかな!」
だが、深愛姉は大きな雪玉を作っていた。
あれだけはしゃぎ回っていたのにまだ元気が残ってるのか。
「頭はこれくらいかな!」
さらにもうひとつの雪玉を作り、先ほど作った雪玉の上に乗せていた。
「佐倉家の雪だるまの完成ー!」
完成した雪だるまを見ながら、深愛姉は一人で喜んでいた。
「……ずいぶん寂しい雪だるまだな」
目もなければ鼻もない、そもそも前なのか後ろなのかさえもわからなかった。
「のっぺらぼうの雪だるまとかどう?」
「……うちに妖怪なんか置かないでくれ」
「もう、悠弥はわがままなんだからー!」
そう言って深愛姉は雪だるまの上の部分に指で何かを描き出した。
「うん、これなら可愛いでしょ?」
雪玉に描かれたのは……ハートの目に分厚い唇、頬には星が描かれていた。
「……地球外生物?」
「ちゃんとした地球製だよ!」
深愛姉は頬を膨らませて怒っていた。
「そうだ! せっかくだから写メ撮ろうよ」
ウェアのポケットからスマホを取り出していた。
「この雪だるまちゃんが真ん中で両脇に立って!」
言われるがままに雪だるまを挟む形で立つ
「それじゃいくよー! はいチーズ!」
深愛姉のスマホからカシャっと音が鳴ると同時に画面に写真が映し出される。
深愛姉は相変わらずのギャル特有のポーズで俺は無表情そのままだった。
「うん、よく撮れてるよー」
「……そうなのか?」
何回か撮られているが何がいいのか俺にはさっぱり理解できなかった。
「楽しかったー!」
「……俺はただ、寒さとの格闘だったよ」
「とか言って、悠弥はしゃいでたじゃん」
地球外雪だるまを作った後も、壮絶な雪合戦が幕を開けたり、流れでもう一体雪だるまを作ったり(深愛姉は雪だる男と命名)していたが流石に汗による体が冷えてきたので、家の中へ退散することにした。
外にいるときもリビングのエアコンをつけっぱなしにしていたせいかリビングは心地よい暖かさに包まれていた。
俺はコーヒーメーカーで淹れたコーヒー。
深愛姉はTパックの紅茶を淹れてダイニングテーブルでくつろいでいた。
「やっぱり部屋が一番……」
「もう、悠弥は家にいることしか……くしゅん!」
話している途中で深愛姉はくしゃみを繰り返していた。
「まさか風邪ひいた?」
「そんなことないよー」
そう言いつつもくしゃみを繰り返す深愛姉。
「風呂沸かすから、入って体暖めなよ。あと、これで……」
すぐにお湯張りのスイッチを押してから、つけていたネックウォーマーをとり、深愛姉に被せる。
「ありがとう! あったかーい……」
深愛姉は両手でネックウォーマーに触れながら喜んでいた。
それから20分ほどしてお湯張りが終わったことを深愛姉に知らせるとすぐに洗面所に向かっていた。
「あ、一緒に入る?」
「……くだらないこと言ってないでさっさと入れ」
「はーい!」
洗面所のドアの閉まる音が聞こえると俺は自然とため息がでていた。
「さっぱりしたー」
リビングで遅めの昼食を作っていると深愛姉が戻ってきていた。
白のパーカーに下は黒のジャージと、今まで見た中で一番地味な格好だった。
「何作ってるの?」
横から顔をヒョコッとだして鍋の中を除く深愛姉。
シャンプーの匂いが鼻の中を心地よくすり抜けていった。
「ワンタンスープ」
「……そういえばこの前安かったからワンタン買ったんだっけ!」
それに合わせてスープの元も買っていた。
冷蔵庫にあった野菜を適当に切って鍋の中に入れていった。
スープの元を使ってるからダークマターはできないだろ、たぶん。
「そうだ、これ返すよー」
深愛姉はネックウォーマーを被せてきた。
さっき彼女にかけたことをすっかり忘れてた。
自分がつけていた時にはなかったいい匂いがしている。
「よし、できた」
「それじゃスープボウルだすねー」
「いいよ、座ってなよ」
「だってどこにあるか知らないでしょ?」
たしかに言われてみればそうだ。
深愛姉が持ってきたスープボウルにワンタンスープを装い食べていく。
「そういえば前から思ってたんだけどさ」
「……なに?」
「悠弥って料理上手だよね」
「……そう?」
「うん、この前の焼きそばも美味しかったし」
いや、あれ普通に市販のやつを焼いただけなんだけど?
「いいなあ、悠弥の彼女になる人が羨ましいなあ」
今まで言われることがなかったので俺はむせかえっていた。
「ど、どうしたの?」
俺は慌ててウォーターサーバーから水を汲んで一気に飲み干す。
「深愛姉が変なこと言うからだ」
「変なことじゃないよ! 思った通りのことを言ったんだよー」
冗談でもそれだけはマジで勘弁してくれ。
「ごちそうさまでしたー」
「……まさか深愛姉が全部食べるなんて」
いつもは残す深愛姉だが、俺が作ったワンタンスープはボウルの底がはっきりと見えていた。
珍しく体動かしたから腹が減っていたのだろうか……。
「悠弥の作った料理が美味しかったからだよ!」
「……そりゃどうも」
「もしかして照れてる?」
「……別に」
「顔真っ赤だよ?」
「くだらないこと言ってないで使った食器、全部こっちに持ってきて」
深愛姉は含みのある笑いを浮かべながら食器を俺に渡すとリビングに行き、テレビをつけていった。
その間に使った食器と鍋を洗っていく。
「これで全部だな」
洗った食器を棚にしまい、リビングにいる深愛姉へ声をかけようとするが、リビングのテーブルの上に突っ伏して寝ていた。
「深愛姉、寝るならベッドで……」
毎度のごとく声をかけるが、反応がなかった。
それに肩で息をしているようにも見えていた。
「深愛姉?」
「……うん?」
声をかけると深愛姉はゆっくり顔を上げると同時に咳き込んでいた。
「ちょっとごめん……」
自分の手を彼女の額に充てると熱を帯びているように感じた。
「大丈夫?」
「なんか頭がぐわんぐわんするー」
どうやら風邪ひいたようで、さきほどのくしゃみは前兆だったようだ。
「完璧な風邪だなちゃんと部屋で寝ないと悪化するぞ……」
「だっこー」
と、俺の話を遮るように魔の抜けた声で俺に全体重を預けてきた。
「……マジか、ってか軽く寝てるし」
両手で深愛姉の体を抱き抱えてゆっくりと部屋まで送り届けることに。
2日連日でお姫様だっこしているんだよ、義理とはいえ、姉に。




