河童料理専門店『おかっぱ』
事前に「インド洋カッパ漁船」を読んでいただけるとカッパを漁獲する難しさがわかりますのでよろしければどうぞ!!
「鮭は捨てるところがない」
昔から職人の間でよく言われる言葉だが、私に言わせればカッパもまさにその部類だ。むしろ、使い勝手の良さで言えばカッパの方が上かもしれない。
まず、一番上の「皿」だ。
きれいに削ぎ落として乾燥させれば、そのまま味のある小鉢や深皿の容器として使える。カッパの皿で出すカッパの冷やし汁は、風情があって客にも大好評だ。
次に「甲羅」。
これは叩き割って出汁を取るのに最高なんだが、丁寧によけておけば、甲羅焼きの天然の鍋になる。甲羅の裏側にへばりついた薄皮の肉と一緒に味噌を炙ると、酒がどこまでも進む珍味に早変わりする。
そしてキュウリをたっぷり食べて育った引き締まった「肉」や、香ばしく炙ると最高の「皮」。
だが——うちの店で客に一番喜ばれるのは、なんと言っても「心の臓」だ。
カッパの心臓には、珍しい特徴がある。
ドクンドクンと大きく脈打つ「大心臓」が一つ。そして、そのすぐ脇に寄り添うように並ぶ「小心臓」が三つ。計四つの心臓を持っているのだ。
この大心臓と小心臓の刺身は、口に入れた瞬間に濃厚な旨味が広がる絶品で、これを求めて遠方からやってくる常連も多い。
ただし、仕込みには絶対的な緊張感が走る。
小心臓が三つ並んでいるうち、真ん中の小さな心臓だけには強力な毒(神経毒)が含まれているのだ。
これを誤って包丁で傷つけたり、客の皿に出してしまうと一コロだ。
だからこそ、カッパ職人の腕は「真ん中の小心臓をいかに潰さず、綺麗に除去できるか」で決まる。
私はこの店で、河童料理を提供し始めて40年になる。
河童料理に関しては日本でトップクラスだと自負している。
「親方、今日の夜、例の『天才占い師』のジョージの予約が入ってますよ」
仕込みの手を動かしていると、弟子がそう言ってきた。
「あぁ……あの胡散臭いやつね。俺は好きじゃないな」
テレビやSNSで「未来を100%当てる」と持て囃されている男、ジョージ。
派手な衣装と独特のパフォーマンスで一世を風靡しているが、私のような叩き上げの職人からすれば、どうにも肌に合わない。
「まあ、好き嫌いで料理の質を変えたりはしないがね」
私は包丁を研ぎ直し、まな板の上に横たわる本日一番の極上カッパに向き直った。
どんなに気に入らない客だろうが、うちの暖簾をくぐった以上は一切の手抜きなしで完璧な料理を出す。それが職人のプライドだ。
「よし、仕込みに入るぞ。息を殺せ」
「は、はい!」
緊張した弟子が見守る中、私は研ぎ澄ませた柳刃包丁をカッパの胸元へと入れた。
薄い膜を切り開き、四つの心臓を露わにする。
ドクドクと動く大心臓の脇、三つ並んだ小さな心臓。その真ん中——米粒ほどのサイズしかない毒入りの小心臓へと、包丁の先端を滑り込ませる。
(ここで包丁の刃が1ミリでもブレれば、毒胞が破れて他の肉まで全滅だ……)
ピリッとした静寂が厨房を支配する。
一瞬の呼吸の停止。すっと刃先をくぐらせ、包丁を引く。
ちりと熱い汗が額を伝うと同時に、真ん中の小心臓だけが綺麗にくり抜かれ、まな板の上にポロリと転がった。周囲の肉にも、他の心臓にも傷ひとつない。完璧なトリミングだ。
「す、すごい……! 一瞬で毒だけを……!」
弟子が感嘆の声を漏らす。
「フグと同じだ。客に恐怖を感じさせず、ただ『美味い』と言わせるのがプロの仕事よ。……よし、毒は破棄して、残りの心臓を冷水で締めろ」
「はい!」
夜になり、独特の香水を漂わせたジョージが店にやってきた。
「やあ大将、楽しみにしていたよ」
うさんくさい笑みを浮かべるジョージ
「お待ちしておりました。こちらが本日のコースメニューでございます」
お品書きをすっと差し出す。
自分の嫌いな客にこそ、一切の隙もない完璧な一膳を叩きつける。
今夜も包丁冴え渡る仕込みは、百発百中だ。
【本日の河童尽くしコース】
一、先付 カッパの皮の香ばし炙り 〜キュウリ塩を添えて〜
二、前菜 乾燥皿の小鉢で仕立てた カッパの冷やし出汁ジュレ
三、造り 極上「心の臓」三種盛り(大心臓・毒抜き小心臓二つ)
四、強肴 天然甲羅の味噌炙り焼き
五、揚げ物 もも肉のサクサク唐揚げ 〜秘伝の酢醤油〜
六、お食事 カッパ出汁の特製締め雑炊、またはカッパ寿司3貫
七、甘味 自家製キュウリと青リンゴのアイスクリーム
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