037 BAD MOTHER F●CKER
森の神殿に挨拶したあと野営地を出発。森の中の道を鼻歌交じりにドライブする。
「ご機嫌ね、Ken。何か良いことがあったの?」
「HAHAHA! ちょっといい物々交換の約束をしてな!」
◇◇◇◇◇
昨夜深夜3時。
パチパチと爆ぜる薪の音だけが響く、静寂な夜だった。
エルナはハ●ター×ハ●ターを読み、ファラは焚き火をジッと見つめている。
ガンツとトーマスはテントの中で爆睡している。
俺はアウトドアチェアに深く腰掛け火の番をしながら、スマホ画面にゆっくり流れるコメントを眺めていた。
:『深夜のBBQ配信、マジでチルい』
:『寝ずの番お疲れ様! 交代してやりたいぜ』
「BBQMANにとって火の番は神聖な儀式さ。それに、こうやって日本やアメリカのBroたちと話せるから退屈しないしな」
俺が冷えたドクペを一口飲んだ時だった。
チャット欄に、承認マークのついた見慣れないアカウントから、赤色のスーパーチャット(投げ銭)が表示された。
アナハイム・ディフェンス・システムズ【公式】:『突然のメッセージ失礼いたします、Ken様。我が社のR&D(研究開発)部門が、先日の配信を拝見し、大変興味を持っております』
「Wow? アナハイム・ディフェンス・システムズ? どこのアカウントだ?」
:『え? 公式?』
:『おいおい、銃器メーカーが何の用だww』
:『まーたスポンサーが増えるのか? lmao』
チャット欄がざわつく中、そのアカウントから連続して長文のメッセージが投下された。
アナハイム・ディフェンス・システムズ【公式】:『単刀直入に申し上げます。先日のガレリアの街であなたが購入したミスリルのナイフ。あの未知の金属に、我が社の装甲および弾道学の研究チームが喉から手が出るほど魅了されています。
つきましては、ビジネスのご提案です。
ミスリルのインゴットまたは、ミスリルの製品をガレージ・リンクで提供していただけないでしょうか? 代金はこちらがご用意致します』
「HA? ミスリルを? まあ、町に行けば買えると思うが……俺に何のメリットがあるんだ?」
アナハイム・ディフェンス・システムズ【公式】:『見返りとして、我が社の対物ライフル(対戦車ライフル) ADS-ATR-07B-3 【ケルベロス】を差し上げます。さらに、各種.50 BMG弾の無制限提供、メンテナンス用の予備パーツ、そして生涯にわたる無償修理を永遠に保証いたします』
その提案が画面に表示された瞬間、チャット欄の流れが完全にバグった。
:『!!??!?!』
:『おい待て待て待てwwww』
:『対戦車ライフルじゃねえか!!』
:『一生分の弾薬とメンテ付きで物々交換!? ヤバいだろ!!』
:『完全に闇取引で草。武器商人じゃねーかww』
:『FBI! ATF! ここです!』
:『異世界の幻想金属と、軍用対戦車ライフルのトレードwww BANされるぞ!』
Mama:『Ken!! ダメよ! あなたBBQMANでしょ!? なんで異世界で死の商人みたいなことやってるのよ!』
Mike:『Bro、いくらなんでもヤバすぎる! lmao』
「W…WAIT! 落ち着けEverybody! 落ち着けMama! 流石の俺も対戦車ライフルなんて物騒なもん……」
Dad:『Ken!!!』
Dadからのコメントが目にとまる。
Dad:『Ken! よく聞け! .50 BMG弾だぞ! 装甲車のエンジンブロックはおろか、ドラゴンの分厚い鱗だって一撃でブチ抜ける! お前、ドラゴンの肉をBBQにしてみたくないのか!?』
その時だった。
激しく滝のように流れるチャット欄が、認証マークがついた三つの厳めしいアカウントによって完全にジャックされた。
米国国務省【公式】:『Dad氏の意見に同意します。国防総省および関係各局との緊急協議の結果、未知の金属『ミスリル』の極めて高い軍事的・戦略的価値を鑑み、大統領特権により本取引をITAR(国際武器取引規則)の適用除外とし、特例輸出許可を承認します。BBQソースと共にあらんことを』
ATF(アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局)【公式】:『対象者Kenの身元調査の特例免除を確認。火器および.50 BMG弾の譲渡を特別に認可する。良いBBQを、BBQMAN』
FBI(連邦捜査局)【公式】:『サイバー犯罪部門です。本配信における一連の取引は完全な適法とみなされ、監視対象から除外されました。なお、長官がドラゴンのブリスケットに大変興味を示しています』
「…………ッ!!」
Dadの言葉、そしてアメリカ政府機関からのガチすぎるお墨付きに、俺の脳内に強烈なインスピレーションが雷のように落ちた。
ドラゴンの肉。
ファンタジー世界の頂点に君臨する最強の生物。その巨大な肉塊を、ヒッコリーの煙でじっくりとスモークし、特製のKCスタイルソースでテリッテリにキャラメリゼする……。
俺は思わず生唾を飲み込んだ。
「……ドラゴンのBrisketに、ドラゴンのBurnt Ends……。想像しただけで震えが止まらねえ……!」
:『Kenの顔つきが変わったぞww』
:『国務省とATFとFBIが共闘 lol』
:『国家権力キターーーwwww』
:『アメリカ政府公認の武器商人爆誕 ROFL』
:『FBI長官もBBQ食いたくて草。もうめちゃくちゃだよww』
Mama:『あなた達……アメリカ政府まで巻き込んで本当にバカなの!?』
俺はカメラに向かって、最高にハッピーな笑みを浮かべた。
「HAHAHA! 最高のオファーだぜ、Mr.アナハイム! そしてサンキュー、アメリカン・ガバメント! ドラゴンの肉を狩るには、RPRじゃ心許ないと思ってたところさ! その取引、喜んで受けよう! Deal(商談成立)だ!」
アナハイム・ディフェンス・システムズ【公式】:『ありがとうございます。それでは後日、依頼品の調達をよろしくお願いいたします。最高のハンティングを』
:『やりやがったwwww』
:『異世界初、政府公認の闇取引成立の瞬間である』
:『スポンサー(重火器)』
:『これでドラゴン討伐編が確定したな lol』
「Alright, Everybody! これで法的な問題もオールクリアってわけだ! 何も違法なことは無かった! OK? さあ、朝まで大人しく火の番をしようか!」
俺が上機嫌でドクペを煽ったとき、隣でハ●ター×ハ●ターを読んでいたエルナがジト目でこちらを見る。
「Ken、一人で何騒いでるのよ! うるさいわよ!」
「Oh、Sorryエルナ! ちょっと未来の極上肉のデリバリー契約を済ませたところさ! Sorry!」
事の重大さを全く理解していない異世界の魔法使いは、「変な奴」と呟いて再びハ●ター×ハ●ターを読みふける。
「Oh、そうだ。Hey、アメリカン・ガバメント! まだ聞いてるか? どうせなら、小銭入れ用にイカした財布も一緒につけてくれ! タラ●ティーノ監督の『パ●プ・フィクション』で出てきた『BAD MOTHER F●CKER』の財布だ。レプリカは持ってるから、撮影現場で使った監督のガチの私物の方ね。よろしく頼むぜ!」
俺が軽いノリで、まるでドライブスルーでポテトを追加注文するかのように言い放った直後。
アメリカ政府は、一切の躊躇も検討もなく、秒でレスポンスを叩き返してきた。
米国国務省【公式】:『追加要請を受理。Kenの合衆国への多大なる貢献を評価し、大統領権限をもってこれを即時承認。ただちに、CIA特別交渉部隊をタラ●ティーノ邸へ派遣し、手配しよう』
「HAHAHA! さすがは俺たちのガバメント! 話が早いぜ!」
俺がドクペを掲げて喜ぶ一方で、チャット欄は先ほどの対戦車ライフルの時とは全く違うベクトルの大パニックに陥っていた。
:『は????』
:『ちょ、おま、タラ●ティーノの本物の私物だぞ!?』
:『対物ライフルより入手難易度高いだろそれwwww』
:『アメリカ政府、何も考えずに快諾すんなwwww』
:『CIAがハリウッドの監督の家に強盗に入るってマジ?』
:『あれ100億積んでも売らないって言われてる伝説のプロップだぞww 手に入るわけねーだろww』
:『タラ●ティーノ逃げてええええええええ』
:『国務省「財布よこせ」 タラ●ティーノ「FU●K」』
:『どうやって交渉する気だよww 空母でも爆破させる権限でも渡す気かww』
Dad:『Ken! お前ってやつは……! 最高だ!』
Mama:『なんで映画の小道具のために国家権力を動かしてるのよ!!!』
「まあまあ、リラックスしろよEverybody。天下のCIAなら、ハリウッドの頑固な監督の一人や二人、うまく説得してくれるさ!」
【アナハイム・ディフェンス・システムズ(Anaheim Defense Systems / ADS)】
米国カリフォルニア州アナハイムに本社を置く総合防衛・軍事技術企業。ペンタゴン(国防総省)を主要顧客とし、特殊部隊向け大口径火器、次世代装甲、および先端金属材料(R&D部門)の開発を専門とする。圧倒的な開発スピードと高い技術力を誇る一方、国家安全保障に関わる未知の素材や試作兵器の確保のためなら、あらゆる手段を講じる業界の異端児としても知られる。
【ADS(Anaheim Defense Systems)-ATR(Anti-Tank Rifle)-07B-3 『ケルベロス』 (Cerberus)】
アナハイム・ディフェンス・システムズ(ADS)社製の最新鋭大口径対物ライフル。使用弾薬は.50 BMG弾。「07型・Bタイプ・第三世代改修型」を意味する試作型火器で、独自の3段階油圧リコイルバッファーと炭素繊維・チタン複合フレームを採用。強烈な反動を大幅に低減し、歩兵の単独可搬射撃を可能にしている。本来は軽装甲車両のエンジンブロック破壊用に開発されたが、その圧倒的な初速と破壊力は、異世界の巨大生物(ドラゴン等)の強靭な外皮や極厚の鱗すら容易に穿孔・粉砕する。
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次話明日7:00に公開予定。




