003 Remington Model 700
「ガレージ・リンク!」
俺が叫ぶと同時に、助手席の空間が歪み、見慣れたガンケースが出現した。
中から愛銃、Remington Model 700を引き抜く。
「よし、準備OKだ。まずは挨拶といくか!」
プー! プー! プーーーーーーーーーー!!!
ステアリングの真ん中を叩き、ランクルの図太いクラクションを大草原に響き渡らせる。
突如として現れた巨大な鉄の塊と、聞いたこともない轟音に、馬鹿でかい豚3匹に、馬車を守っていた冒険者達がビクッと肩を揺らしてこちらを振り向いた。
:『冒険者もおどろいてるぞ lol』
:『そりゃ未開の地でランクルが爆音鳴らしたらビビるわ lmao』
:『異世界初のクラクション』
「HAHAHA! 注目を集めるには最高だろ?」
俺は素早くハンドルを右に切り、車体を横に向けて運転席側の窓を豚の群れと正対させ急停車。全開にしたパワーウィンドウにレミントンを構える。
スコープ越しに、間抜けなツラをしてこちらを呆然と見つめる豚どもを捉え……
「Yippee-ki-yay!(イッピカイエーーー!) くたばれ! 豚ども! カンザスシティから鉛玉のプレゼントだ!」
ドンッ! ドンッ! ドンッ!
.30-06弾の強烈な反動が肩を叩く。
ボルトアクションの排莢音とともに、3匹の豚たちの心臓に次々と風穴が開いた。断末魔を上げる暇もなく、巨体が地響きを立てて草原に倒れ伏す。
:『マクレーン警部補!?』
:『鼓膜ないなった』
Mama:『やったか!?』
:『フラグやめて』
Dad:『Ken! どうなったんだ!? カメラの角度が悪くて何も見えないぞ!』
「オー、パーフェクトなキルショットを三連続で決めてやったぜ! おっと、Dadやみんなも見たいか?」
俺がスマホのカメラを倒れた豚たちに向けようとすると、リスナーたちが慌ててコメントを打ち込んできた。
:『やめろ! BANされるぞ!』
:『ゴア表現はやめろおおお! 消されるぞ!』
Mike:『Ken、配信終了になるぞlol』
「Ope! そいつはマズいな。Mamaが悲しむ」
俺はカメラの向きを車内に戻し、ライフルを助手席に置いて車を降りた。
まだ状況が呑み込めず、ポカンと口を開けている馬車の連中に向かって、フレンドリーに両手を広げながら近づく。
「Hi! 大丈夫か? あー……冒険者の仲間たち?」
大剣を構えていた大柄な男が、ハッとして武器を下ろした。
「あ、ああ……助かったよ。俺は戦士のガンツだ。」
「俺はKen。陽気なBBQMANさ! よろしくな!」
「BBQMAN? ……あんた、その奇妙な馬車……さては『流れ人』だな?」
「流れ人?」
「異世界から来たんだろ? 俺たちの世界じゃ、そういった人を流れ人と呼ぶんだ」
「OK! なるほどな」
俺が頷いていると、身なりの良いふくよかな男と、杖を持った女性が出てきた。
「私は商人のトーマスと申します。危ないところを……助けていただき本当にありがとうございます」
「ありがとう。私は魔法使いのエルナよ」
「You bet! 困ったときはお互い様さ!」
俺はウィンクをしてから、倒れている豚の巨体へと指を向けた。
「それより、重要な質問をしていいか? コイツらって……食えるのか?」
「食えるぞ。ただ、スジ張ってて硬いけどな」
「硬くてスジ張ってる? ハハッ、望むところだ! じっくり時間をかけて火を通せば、どんな肉でも最高のBBQになる。それがカンザス流さ! これ、もらっていいか?」
「どうぞどうぞ! 私たちの馬車は荷物でいっぱいですし」
「パーフェクトだ! それじゃ、首と内臓を処理して……悪いが、ちょっと手伝ってくれないか?」
――数十分後。
ガンツたち冒険者の手も借りて、なんとか三匹分の豚の処理を終えた。
「ふぅ、助かったぜ。ありがとうな」
俺はランクルに置いてあったスマホを手に取ると、カメラのレンズを冒険者と商人たちに向けた。
「Hey! こいつらが俺が助けた異世界の仲間たちだ!」
:『おおお! ファンタジーの住人だ!』
:『戦士ガチムチで草』
:『魔法使いの女の子かわいい!』
:『商人の腹がガチ商人lmao』
:『異世界交流最高だな』
俺はカメラに向かって親指を立ててから、解体した肉の山に手を向けた。
「Dad! Mama! 豚三匹分の肉を一旦全部送るぜ! 後で俺が一匹使うから、残りはそっちで好きにしていいぜ! 『ガレージ・リンク』!」
空中に現れた光の輪が、3匹の豚肉を飲み込み、カンザスの実家のガレージへと一気に転送していく。
Dad:『Holy cow!!! すごい量の肉だ! 今日は盛大なBBQパーティーだ!』
Mama:『Oh my god! まさか異世界のモンスターを焼く日が来るなんて! 今からご近所さんを全員呼んでくるわ!』
Mike:『Ken! 配信見てるぜ! 俺も今からお前ん家に行く! 冷えたBale Aleを、ガレージに放り込んどくぞ!』
「HAHAHA! 最高だぜMike! 冷えたエールをリンクしてくれよな!」
実家でのどんちゃん騒ぎを確信して満足した俺は、戦士のガンツに向き直った。
「なあ、この道を行けば町に着くのか?」
「ああ、もう見えてる。あそこだ」
ガンツが指さす方向を見ると、確かに遥か向こうに、石造りの城壁と立ち並ぶ建物が小さく見えた。
「馬車だとギリギリ夜到着だ」
「俺の車ならすぐだな。それじゃ俺は、先に行くけどいいか?」
「いいぜ! 本当に助かった!」
「町で再会したら、カンザス魂が籠もった最高のBBQをご馳走するぜ!」
「ははっ、楽しみにしてるよ」
ガンツたちと固い握手を交わした俺は、ランクルに乗り込んだ。
アクセルを踏み込むと、V8エンジンの唸り声とともにタイヤが土を蹴り上げる。俺はバックミラー越しに手を振る彼らにクラクションで応え、遥か向こうに見える異世界の町へと一直線に車を走らせた。
【Bluebird Brewing Co.(ブルーバード・ブリューイング社)のBale Ale】
カンザスシティの象徴的醸造所が創業当時から製造しているクラフトビール。ホップの程よい苦味とシトラスの香りが、肉の脂っぽさを綺麗に洗い流してくれる、BBQのお供の王道。
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次話明日7:00に公開予定。




