002 Medialyte
「SHIT……頭がスモーカーの中で一晩中燻されたみたいにガンガンしやがる……」
年季の入った愛車のランクルの運転席で目を覚ました俺は、割れるような頭痛に顔をしかめた。
無理もない。昨日は週末恒例のBBQパーティーで肉が最高に上手く焼けた喜びに任せて、バケツ一杯のビールを飲み干したんだから。
そのまま車中泊をキメたのは大失敗だった。
重い瞼をこすりながらフロントガラスの向こうを見ると、そこには信じられない光景が広がっていた。
「OH MY GOD……おいおい、冗談だろ?」
窓の外はカンザスシティのダウンタウンでも、俺の家の見慣れたガレージでもない。見渡す限りの、どこまでも続く大草原!
「JEEZ! まさか、寝てる間に見たあのイカれた夢は現実だったってのか!?」
ピロンッ!
「WHOA!? なんだこの光る板は!?」
突如、空中にホログラムのようなウィンドウがポップアップした。
【スキル:『ガレージ・リンク』『ライブ配信』】
【システム:BBQエネルギーについて】
【BBQを食べる、または他人に食べさせることで『BBQエネルギー』がチャージされる。エネルギーはスキルの使用で消費。さらに、他人にBBQを振る舞った場合、対象にバフ効果が付与されます】
【初期ボーナスBBQエネルギー:100】
「HAHAHA! こいつは傑作だ。日本のオタクカルチャーを愛するMamaが、いつもモニターにかじりついて見てたアニメのテンプレそのまんまじゃねぇか!」
状況を理解した俺は、ランクルから降りて早速スキルを試してみることにした。
「よーし、『ライブ配信』オン! ……WOW、マジかよ! 俺の配信チャンネルにバッチリリンクしてやがるぜ!」
右手に持った圏外のはずのスマホがチャンネルに繋がり、ライブが始まる。
俺は痛む頭を押さえながらも、カメラの向こうの視聴者に向かって笑いかけた。
「HEY! Bro! Dad! Mama! Everybody! Your friendly neighborhood Ken! 米日ハーフで28歳! 趣味で肉を焼くのが大好きなカンザスシティのBBQMANだぜ! 信じられないだろうが、なんと今、ISEKAIからライブ中だ!」
すると、すぐにコメントが滝のように流れ始めた。
Dad:『Ken!? お前、どこで何やってるんだ! その背景のCG、よく出来てるな!』
Mama:『Oh my god! Ken、それってもしかして異世界転移(Isekai protagonist)!? Truck-kun!? 私の息子がライトノベルの主人公になっちゃったのね! 最高じゃない!』
:『え、何この配信? lmao』
:『背景の地平線ヤバくね? どここれ?』
Mike:『Ken、また盛大なドッキリか? lol』
俺は苦笑いしながら、現状を説明する。
「Relax, Dad, Mama! トラックには轢かれてねぇし、CGでもない。Mike! マジのISEKAIだ。昨日の夜、夢の中にイカれた神様が出てきて、『異世界でBBQを広めろ』って抜かしやがったんだ。見てくれ、これが俺のスキルだ!」
空中にスキルウィンドウを表示させ、ザックリと説明する。
「『ライブ配信』は文字通り。んで『ガレージ・リンク』は実家のガレージとここを繋いで、物をやり取りするらしい。スキルを使うにはBBQエネルギーがいる。BBQを食う、食わせるでエネルギーを貯める! 誰かに食わせりゃバフがかかる……要は、この世界を俺の極上BBQでハッピーに塗り替えてやれって魂胆さ!」
そこまで一気にまくしたてて、ふうっと息を吐く。
「……てことで、とりあえずMama、Medialyteをガレージの机に置いてくれないか。二日酔いで頭が割れそうなんだ」
Dad:『バケツでビール飲むから……』
Mama:『Ken! メディアライトをガレージに置いたわ』
:『バケツlol』
:『BBQエネルギーでクソワロタ。肉食うだけで動けるシステムかよ ahahahaha』
:『ママ行動が早すぎる!』
:『てかその浮いてるウィンドウ何!? マジもんのやつ?』
「それじゃ、試しに『ガレージ・リンク』!」
光とともに目の前にメディアライトのボトルが現れる。
俺はキャップをひねり、がぶ飲みした。
「Phew……! OK! 二日酔いがぶっ飛んだぜ!」
Mama:『Ken! 本当にメディアライトが光って消えたわ!』
:『うわ本当に出たLMFAO』
:『おいおいマジかよ……CGじゃないのかこれ』
:『マサカノ本物……!?』
「Mama、メディアライトちゃんと届いたぜ、Thanks! それじゃ、とりあえず道を探さねぇとな。Here we go!」
エンジンをふかし、ランクルでBBQトレーラーを引っ張りながら草原を走り出す。
「電波もGPSも繋がらねえ。マジで異世界か」
:『Ken ここはもうカンザスじゃないのよ』
:『↑名言やめろ 』
:『ドロシー定期 lmao』
「HAHAHA! そのジョークで笑ったの初めてだぜ! カカシとブリキの木こりとライオンでも出てくるのか?」
アクセルを踏み込み、草原を突っ切ってしばらく走ると、前方に物騒な連中が見えてきた。
「OH MY GOD! ……見てみろよEverybody! 二本足で歩いてる豚野郎ども……オークってヤツか!? 馬車を襲ってやがるぜ!」
ダッシュボードのスマホホルダーに固定したスマホを前方に向ける。
前方右に木の棍棒を持った豚のバケモノ達。
対して左には馬車があり、剣を持った戦士とローブを着た魔法使いが、馬車を守るように立っている。
:『うおおおお本物のオークだ!!!』
:『ガチの異世界じゃねえか!! おいおいヤバいだろこれ!!』
:『ファンタジー始まったな!!』
Mike:『Ken逃げろ! そいつら絶対ヤバい!』
「あの豚、BBQの肉にしてはスジが多そうだが……Kansas City Boyの俺が、襲われてる連中を見捨てて通り過ぎるなんて選択肢はねぇよな!」
俺はライブ配信の画面越しに、実家でこれを見ているはずのDadに向かって叫んだ。さっきまでの陽気な笑みから、ハンターの目へと切り替わる。
「Dad! 豚狩りだ! ガレージのガンラックにある俺の700を準備してくれ!」
:『ここでレミントンは草。アメリカンすぎるロジック最高』
:『異世界無双(物理・銃)lmao』
:『これにはオークも困惑』
:『親父さん!! はやくガレージにぶち込んでくれ!!』
すると数秒後、配信のチャット欄に、Dadから力強いメッセージが飛び込んできた。
Dad:『You got it, son! 銃はもう準備万端だ。そのホグどもに、.30-06弾の強烈なキスをお見舞いしてやりな!』
:『ダディ最高だぜ!!! 』
:『アメリカの日常が異世界を襲う lol』
:『豚肉に風穴あけたれ!!』
俺はニヤリと笑って答えた。
「Thanks, Dad! これでこのパーティは俺の独壇場だ! ISEKAIへ、カンザス魂を叩き込んでやるぜ! Let's party!」
【Medialyte】
米国で広く利用されている経口補水液。脱水状態の際に、水分と電解質を効率よく体内へ補給するために用いられる。※作中のように飲んで、すぐ二日酔いが治ることはありません。
【 Remington Model 700(レミントン モデル 700)】
1962年に誕生した、世界で最も有名なボルトアクション式ライフルの一つ。優れた精度と拡張性を持ち、狩猟から競技、軍事まで幅広い用途で愛用されている。
【.30-06弾 (.30-06 Springfield)】
1906年に米軍が採用した歴史あるライフル弾。強力な威力と扱いやすさのバランスが良く、現在も世界中のハンターから「万能弾」として重宝されている。
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次話明日7:00に公開予定。




