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第六章 文子の声

 窓の外で、雪が降り続いていた。


 実験装置の中では、六角形の雪の結晶が静かに成長している。もはや出来るのは霜だけということがなくなっていた。

 中に見える大きく育った結晶に孫野が息を呑み、中谷はゆっくりと頷いた。

「……この条件でも、うまくできたな」

 その瞬間だった。

 ふと、中谷の視界の端に「気配」のようなものが揺れた。


 誰もいないはずの窓辺に、大人の若い女性が立っているような気がした。そして、その隣には上品な絹の着物を着た侍が立っているように感じられた。

「……?」

 中谷は立ち上がり、窓へ歩み寄った。

 だが、そこには誰もいない。

 ただ、雪が静かに降り続けているだけだった。


 それでも、中谷の視界の隅に、夢の中で見た着物を着た成人の文子の姿が、ちらりと揺れたような気がした。

 耳の奥で、かすかな声がした。

「兄ちゃん……やくそく、守ってくれて……ありがとう」

 そして、あの夢の中の声……土井利位の声も聞こえてきた。

「よかったのう、中谷」

 中谷は、もう一度窓のそばに寄り、窓の上空を眺めた。

 その時、中谷の目に、夢で見た文子の着物の裾が微かに見えたような気がした。それだけではない。その隣には威厳に満ちていながらどこか優しい土井利位の姿が見えた……ように、中谷は感じた。


 しかし、次の瞬間、その視線の先は、元の静かな雪雲に戻っていた。


「まるで、天から声が届いたようだ」

 しばらく窓から上空を眺めていた中谷はそう呟いた。胸の奥が、降り積もる雪のように静かに満たされていった。


「先生?」

 窓を眺め、わずかに目を潤ませて微笑む中谷を、孫野が心配そうに声をかける。

 中谷は孫野の方を向くと笑って言った。

「……なんだか、詩でも詠みたい気分になった」

 孫野は目を丸くしたが、すぐにつられて笑った。

「先生らしいですね」

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