第一楽章序節
静寂の森、燻る歪み、切り裂く咆哮が木々を揺らす。
予兆は、そこに棲まう小さな命に響き渡り、逃げ惑う。
放たれた火は、幾星霜の中で紡がれてきた命の連なりを焦がす。
灰の道の辿り着く先は、魔王城。
既に、魔族は身を隠していた。
しかし、言葉を共にする事のできない子たちは、その刹那まで平穏に委ねていた。
地を鳴らす足跡の波が、全てを呑み込み、やがて到達する。
砕かれた石造は、それでも荘厳を保つ。
しかし、全てが落ちるのは、暁を見るより早いだろう。
先陣を切る勇猛な剣が、抜け殻の玉座へと向かう。
安堵とも、嘲りとも聞こえる滑稽な笑い声が、城内に収束され、監獄の様に響く。
絢爛の装飾を奪い、主の遺した想いを踏み躙る。
それでも飽き足らず彷徨う様は、騎士と呼ぶには、あまりに哀れであった。
故に、此処に残る最後の魔族、レーヌは、赦すことを選択しようとした。
だが、それは、欲によって覆される。
小さな扉、その先にあるのは聖域。
メルとテラの花園。
そこにあるのは、溢れそうなほどに彩られた二人の記憶。
紡がれた愛と、未来へ繋げようとした揺るがぬ意志。
欲に塗れた亡者が、その扉を破る。
咲き誇る花々を燃やし、煌めくせせらぎに汚物を流す。
レーヌは、震える手を血が滲む程に握りしめ、頬を伝う雫が熱に爆ぜる。
それでも守ろうとした。
魔王様の命令を、大切な子との約束を。
共存という未来のために、誰も傷つけぬようにと。
刹那の崩壊。
それは、悠久を感じさせるように移ろう。
最奥に飾られた、一輪のアルストロメリア。
我が子が此処に遺した、最後の宝物。
それを、穢れた醜怪によって、踏み躙られたのだ。
「愚か者が…。」
彼らの耳を貫く、最後の囁き。
全ては純白に染まり、音が消え、瞬く間に漆黒に抱かれる。
轟音と共に崩れゆく城と、散らばる脈動は、混ざり合う。
その旋律は、静寂の月を紅く染めた。




