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最後に、あたしが伝えたかったこと

 はっと、目が覚めた。

 生暖かい、どこか淀んだ空気。

 室内。

 久しぶりに嗅いだ、におい。

 まさか。

 床に寝そべっていた身体を起こすと。

 

 住み慣れた、けれど遠い記憶の中にあった自室だった。

 

 夢、だったのか。

 安堵と……寂しさの入り交じった何かの感情に巻かれながらも、けれど。

 着ている服が。

 長く伸びた、綺麗な黒髪が。

 鏡の前に行くと映った姿が。

 

 セレスティーナのまま、だった。

 

 サタンに負わされた脇腹の傷は消えている。

 抉られた事がウソだったかのように、血痕も、服の破れすらない。

 部屋には、あたしの他に誰もいない。

 霊体を、身体から飛ばしてみる。

 ……出来て、しまった。

 心臓が、早鐘のように脈打つ。

 あたしは部屋の、家の壁を抜けて、空へと飛び出した。

 時間帯は、夜。

 けれど。

 

 濁った漆黒の空に、大エーテルが輝いていた。

 

 ウソ、でしょ?

 見慣れた、日本での近所。

 久しく見なかった現代日本人が老若男女、空を見上げて唖然としている。

 何だあれは? 花火? ライト? 彗星?

 口々に、的外れな推論を交わしている。

 無理もない。

 ヒトって、理解不能な物事を前にした時、既存の知識で補おうとするものだ。

 あたしは、大エーテルのある方を目指して飛翔する。

 あれは天体ではない。

 恐らく、大エーテルの直下は都内のどこかだ。

 

 サタンの声がする。

《こんなことを、空想したことはありませんか?》

 “何でも願いの叶う石”を頭の中で思い描く。

 その石に、こう願えばどうなる?

 石よ、現実世界に現れてくれ。

 そんなことができたら、この世はとっくに無茶苦茶にされている。

 成功例は、もちろんない。

 ……今までは。

《全能元素エーテルとは、いわば万能を超越した、まさしく“全能”のエネルギー体です》

 それは、あの世界で嫌と言うほど思い知らされた。

 死んだ人間を生き返らせ、無から凝ったつくりの武器とか簡単に作れて、ただの小娘が筋力とか10倍“だったことに”される。

 あらゆる現実を、恣意(しい)的にねじ曲げられる。

 でもそれが、どうして、この世界に現れなきゃいけないの?

《これが、夏蓮お嬢様の望んだ結末です》

 繁華街に出た時、その光景が目に飛び込んできた。

 建物よりも大きなヒトーー巨人が、戸惑うようにうろついている。

 うっかり信号とかの障害物に足を引っかけ、転倒した巨人もいる。

 千切れた電線から火花がほとばしり、下敷きになった車が何台もスクラップにされた。

 空には、空飛ぶ空母のように大きな飛行機ーーいや、何体もの翼竜が、狂乱したかのように飛び交っていた。

 そのうちの一体が、固体じみた火球を吐き出すと、地表に着弾。キノコ雲と瓦礫を巻き上げて、ビル街が吹っ飛んだ。

 明らかに、

 あの世界から、

 来た住人達だ。

 巨人はソル・デだけではない。

 竜は、シュニィだけではない。

《今までの世界が消えてしまえばいい。けれど、死にたくない。

 当然の願いであります》

「違う……あたし、あたしは、」

《その矛盾が解決されたのです。この、変革によって》

 あたしは。

 目の前で東京が滅茶苦茶になってることも、もちろんショックだったけれど、

 

 あの世界の住人たちを巻き込んでしまったことに、動転していた。

 

「どうして、こうなったの」

 どこにいるともわからないサタンに、あたしは問う。

《大エーテルをこちらに実体化させるには、地球とあの世界との“繋がり”が必要でした。

 そして、

 “向こう”でセレスティーナお嬢様となった貴女と、こちらで貴女に敗れ、ゲームですらうまく行かない現実に絶望なさった夏蓮お嬢様。

 双方の世界の住人にして“同一存在”である貴女たちが、同時に願いました》

 

 |こんな世界、消えてしまえ。《こんな世界、消えてしまえ。》

 |けど、死にたくないよ……。《けど、死にたくないよ……。》

 

《そして、大エーテルは“両者”の想念を受けて、こちらへ越次元したのです》

 

 あたしの、あたし達の願ってしまったそれは、ひどくフワッとしたものだったろう。

 けれど世界には、その欠落を自ら埋める性質がある。

 そして、こうなったんだ。

《私が貴女に惹かれた、唯一無二の理由でございます。

 貴女からは“人類が次の段階へ進むインスピレーション”をもらいました》

 そんな、こんなのが、あたし達のステップアップだと言うの?

《ご安心を。イヴお嬢様も、はじめは怯えておられました。

 けれど、そこから進んだ先にあった“現代”はどうでしたか?

 何だかんだで、素晴らしいものになったではありませんか》

 あたしは、それを否定できなかった。

 世界が“こんなの”になって、ようやく。今まで自分だけが不幸だと思い込んで腐っていた事のくだらなさに気付いた。

 あたし、地球でもあの世界でも、生まれた甲斐はあったんだ。

 最初こそ怖かったけど、異種族のソル・デやシュニィと一緒にいられたこと、幸せだった。

 何だ何だ? 特撮か? 火事か!? 地震か!? 戦争か!?

 次第に勢いを増していく阿鼻叫喚を振り切るように、あたしは飛翔する。

 

 墨田区まで来た。

 大エーテルは、よりにもよって東京スカイツリーの真上に現れていたのだ。

 あるいは、サタンが、コレを目立たせるちょうどいい目印として利用したのか。

 そして。

 我先に逃げ惑う現地人達。

 その中で、呑気にスカイツリーを見上げる、嫌に冷静な人が数人……と、普通に巨人が一人。

「ああ、本当にまた会ったな」

 あたしに気付いたエーヴェルハルトが、間抜けなことを言った。

 巨人は、もちろんソル・デ。

 シュニィもいる。はじめての東京の、何もかもに目を輝かせている。

 マイルズが、無傷でそこにいた。

 いい感じにライトアップされた、スカイツリーを背景に。

 あたしと同じだ。大エーテルを目印にここに来たら、再会できたのだろう。

 ソル・デの巨体もいい目印だ。

「貴女も無事で、良かった……」

 あたしの顔を見るや、マイルズは心底安堵した様子で言った。

 いや……どうするの、これ……。

 何かもう、あたしだけ悩むのがアホらしくなった。

 無事な彼らの姿を見た途端、安心して脱力してしまった。

 巻き込まれた現地人は……この地球はたまったものではない。

 飛ばされてきた人や巨人や竜だって、こんなワケわからない世界でどう生きていけって言うのか。

 あたしって本当に身勝手だ。

 自分の立つ世界でしか、物事を見れない。

 そうは言っても、あたし達はこうして生きている。

 ……あとは、在るがままに生きるしかない。

 どんな世界であれ、その事に変わりはない。

 そうだよね? レモリア。

 あなただけはもういないけれど、こんな事が許されてしまう世界なら……どういう形であれ、また会える。そんな、確信めいたものを感じた。

 空を見上げると、スカイツリーの周りを、ひときわいいガタイした黒竜が旋回していた。

 その赤い瞳が、あたし達を父のように見守っているようだった。

 ーー人類(あなたたち)なら、大丈夫。恐れず進みなさい。

 一番タチの悪い迷惑って、本人は善行だと信じて疑わない類のやつだよ。

 

 

 終わりに。

 あたしが、この記録を取った理由。

 あたしは今まで、地味に生きて、地味に老いるか病気して死ぬものだと信じていた。

 あたしは、テレビゲームをしていただけだった。

 メーカーは、商品を作っただけだった。

 けど、その当たり前って、薄氷みたいな不安定な所に辛うじて立っていたに過ぎなかったんだと知った。

 それを、一人でも多くの人に知ってもらいたい。

 空に大エーテルの輝く東京。

 もしかしたら、“あなたの”東京が、明日こうなっているかもしれない事を。

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