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 いうなれば……それはまさに修羅場と呼ぶにふさわしい光景であった。


「おい、二人とも。 この状態では仕事も執筆も出来ないんだが?」

 パイヴァーサルミの街を管理するために作った館にある執務室の中で、俺は背中に嫌な汗をかきながら、両腕にがっちりと絡みつく女性に向かってそう告げる。

 どうやらそれは悪手だったらしい。


「まぁ、それは大変ですわね。

 ハンネーレ殿下、お邪魔になっているそうなので、クラエス様の右手をお離しになってはいかがでしょうか?」

「それは出来ない話だなテレサ嬢。

 どこぞの雌狐が私の大事な友人を誑かそうとするので、私が体をはってつなぎとめてやらなければならんのだ」


 人の視線に物理的な火花を放つ力があったなら、いまごろ俺は消し炭になっていることだろう。

 どうしてこうなった!?


「二人とも、離れろ。 まずはそれからだ」

「断る」

「まぁ、そんなつれないことをおっしゃらないでくださいませ」

 先ほどから、何度同じやり取りを繰り返しただろうか?

 まったくもって不毛である。


「わーい! なんか楽しそう!!

 私もクラエスにくっつくぅー」

「……アンナとテレサを刺激するのはやめろ、エディス。

 お前がよくても俺が色々と耐えられない」

 俺の言葉を無視して首に抱きついたエディスを見て、俺の左右からギリッと大きな歯軋りが同時に響いた。


「全員離れろ。 これ以上仕事の邪魔をするというのなら俺にも考えがあるぞ」

 さすがに限界を感じ、殺気をこめながらそう呟くと、ようやく二人は俺の体から手を離した。

 なお、エディスに関してはいつものように実力行使で引き剥がし、最近作った専用の『エディス箱』に投げ捨てている。


「ふぎゃーーーー! 箱の中に何かいるぅ!?

 い、いやっ! どこ触ってるですか! ひあぁぁぁぁぁぁなんかぬるぬるしてるですぅ!!」

「楽しそうじゃないか、エディス。 そのまましばらく遊んでいろ」

 近くの川で捕まえた沢タコをサービスで五匹ほど入れておいたのだが、どうやら好評のようで何よりだ。

 せっかくだから、明日の昼食は沢タコの炒め物をリクエストすることにしよう。

 あれは冷えた白ワインととてもよく合うのだ。


「おつかれさまですニャー。 ですが、とりあえずお仕事はしていただかないと困りますニャア」

 俺の体が自由になると、すかさず書類の塔を抱えてムスタキッサが現れる。

 貴様、今の今までどこに逃げていた!?


「だったらこの状況なんとかしてくれ、ムスタキッサ。 色々と不自由でかなわん」

「あいにくと、わたくしめはクラエス様の味方ではございますが、ハンネーレ殿下の味方でもございましてニャア」

 そういえばそうだった。

 こいつが介入するとすれば、おのずと俺とアンナをくっつける方向に動く。

 つまり面倒が増えるだけということだ。


「……使えないヤツめ」

「まったくもって、面目しだいもございませんニャ」

 俺が思わず悪態をつくと、ヤツは悪びれもせずにしれっとそんな言葉を口にする。


「さて、ではさっそく面倒ごとの処理にかかりましょう。

 例の問題ですが……またお手紙が着てますニャア。 いかがなさいますかニャ?」

 そう言いながら、ムスタキッサは一通の書状を差し出した。


「冒険者ギルドから、ギルドの支部の建設要請の話か。

 何度も断っているのに、しつこい奴らだ」

 いったいどこからかぎつけたのかは知らないが、彼らの狙いは魔法植物である。

 たしかにこの魔法植物だらけの土地は、彼らにとって恐ろしく魅力的だ。

 だが、すでに魔法植物の管理に成功し、産業に組み込んでしまったこちら側から見れば、彼らの介入は治安悪化などのデメリットしかもたらさない。

 同時に、大量の魔法植物の提供は、世に無用な混乱をもたらすだろう。


「ですが、今度はギルドの幹部が直接交渉に来るという話。

 さすがに面会を拒絶するのは問題ありかと存じ上げますニャ」

「……ちっ、いっそナイトオブラウンドでもダース単位でけしかけてやろうか」

 俺がそんな物騒なことを考えていたその時である。


「クラエス・レフティネン! わ、わわわ、我輩を助けるでしゅ!!」

 突如として飛び込んできたブタ伯爵によって、事態はさらに混沌とした展開を迎えるのであった。

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