八節:ヒロイン攻略は一人だけってルールは無いよね?
――謁見の間を後にした俺は、ちょうど交替時間になった門番に話しかける。
「エリス、用事は済んだぞ」
「あっ、ユーマさん。お疲れ様でしたぁ」
俺が声をかけると、鎧の中から見た目では想像できない可愛らしい声が聞こえた。マリスの妹、エリスだ。
彼女もまた、ルベンカ帝国の騎士として戦っている。
実は謁見の間を護る騎士は一方が男、もう一方は女でなければならない。
バトルマスター、マリスの妹であるエリス。マリスが攻めのエキスパートとするなら、エリスは守りのエキスパートといえる。
ジョブは「ガーディアン」、バトルマスターと対を成す戦士系の最上級職だ。
「心配したんですよぉ、何でも全身炭になる寸前だったとか。エルガーおじさんもマナックに駆けつけた時、一瞬誰だか分からなかったみたいですし」
消し炭寸前の俺を残して敵味方の全てが「焼失」した。
俺が倒れたとされるマナック国境地帯。謎は深まるばかりだ。
「俺が蘇生魔法を受けている間、夜も眠れなかったんだってな?」
「なぜそれをっ!?ハッ、まさかおねーちゃん!」
彼女の兜越しから赤面していることは想像に易かった。
すぐに赤面するのは姉譲り、もしくは親譲りだろう。
「おねーちゃんってば私の秘密をすぐバラすんですよぉ、うぅ……」
がっくりとやや大げさにうなだれる。
エリスは異常なほど人見知りが激しく、城内だろうがどこだろうがフルフェイスで顔を隠し、甲冑を欠かさない。
表情が読めないので、ジェスチャーを大きくすることで少しでも感情表現を分かりやすくしている。
ギャップのある可愛らしい癒しボイスと、それに加えたわちゃわちゃした仕草が人気の秘密だ。
彼女の素顔は、見れないことはない。
VR版では、彼女に思いっきり近づくと兜が「透過処理」をして素顔が顕になる。
マリスが清楚でおっとりした顔なら、エルスは常に困り眉で弱々しさを醸し出している。
「マリスはエリスのことが心配だったんだよ。エリスを気にかけてくれって、そう言ってたからさ」
「おねーちゃん……でも私、何でもかんでもバラすのは良くないと思います!好きな人もすぐにバラすんですよぉ!幸い本人には言ってないみたいですけど」
ごめんエリス、時すでに遅し。まぁ、この件はそっとしておこう。
「エリス、抑えて抑えて。心配かけてすまなかったよ」
「ユーマさんが謝ることじゃないです!あの姉、帰ったらすぐとっちめてやる!」
エリスは感情的になると、ほんのちょっぴり口が悪くなる。
声の可愛さが邪魔して全く迫力は無いのだが。
そんな可愛らしい妹は、ルベンカが攻め込まれるときは、よく姉のマリスと一緒に駆りだされることが多い。
身長よりも大きな盾を使い、華奢な身体から繰り出されるカウンターが敵を一網打尽にする。
なんでもこの盾、受けた攻撃をエネルギーとして溜め込んで、一気に放出できるらしい。
だが錬金術師になるためには、ガーディアンではなくバトルマスターを選ばなくてはならない。
そのため、ゲームとしての"FoC"でガーディアンを選ぶプレイヤーは少ない。ある種、過小評価が見受けられる不遇のジョブだ。