初めての戦い
先生が付いて一年近くが経った。
その間、午前は座学を行い、午後は魔法の訓練をほぼ毎日繰り返した。
魔力の訓練は座学の時間に習った魔術を実践して魔法として昇華する為に魔力が尽きる手前まで反復する。
ギリギリまで魔力を使うことで、体力と同じように絶対量が増えていくそうだ。
成長速度はまちまちだし、それほど増えない者もいるそうだけど俺は着実に増えて、上級魔術師程度の魔力量にはなった。
魔術に関しては、俺の場合魔力操作が得意なため、ある程度魔力の流れが分かってしまえば見てしまえば再現できてしまうので、先生たちにあらゆる魔術を見せてもらい、それを真似するのを繰り返すだけだったんだが。
あとは反復していけば精度も上がっていく。
そのためかなり出来ることは増えた。
まず属性魔法だが、水以外の魔法も使ってみたが問題なく使えた。
竜巻を起こしたり、火球を飛ばしたり、土槍を突き立てたりと何でも自由に出来るみたいで実に気分がいい。
属性魔術以外にも出来るようになった。ルシア=タラントが使った肉体強化を代表にした無属性魔術だ。
索敵や隠蔽とかなり役にたちそうな魔法がある。
これらも一通り教えてもらい習得した。
ちなみに身長も伸び、年齢も六歳になった。
この世界では誕生日を祝う風習はない。
有るのは十五歳の時に行われる成人の儀位だろう。
『それじゅあ今日の実技はルシアの森で実戦訓練を行うよ。』
何時ものように屋敷の裏にある林来て始めようとしたら、突然宣言された。
「えっ!ルシアの森ですかあそこは魔物が多いから行っては行けないと父上から言われているのですが?」
「大丈夫ですよ。男爵様にはきちんと許可を貰っています。それに、冒険者が入いるようになって一年近くになります。森の浅いところならほとんど魔物も出なくなったそうです。」
『そろそろ実戦を見据えた魔法訓練をしてもいいころだよ。あんたが将来何になりたいかは知らないけど、魔術師の就職先は人にしろ魔物にしろ大抵戦わないといけないからねえ。それじゃあ行くよ。』
俺は二人に連れられて、ルシアの森に向かう。
アルファン邸はルシアの森とは逆の南西にあるため、アルファン領を横断する。
屋敷から街に出るとそこには自然と調和の取れた街並みがあった。
家々の周りには木々が生えきちんと手入れされている。
家には蔦が這っていてまるで自然と同化しているようだ。
街を歩いていると、俺より大きい子供たちが白塗りの建物に入っていった。
「あの建物は何ですか?」
「あああれは初等学院ですよ。」
初等学院。
教育を充実しようとした先王の政策でフェネキアのある程度の規模の街に設立されている。
八歳から十二歳まで通えて、語学、算術、歴史、宗教を教えている。
学費も高等学院や魔術学院と比べて安いが、平民の中流階層以上しか払えないの金額である。
俺の兄さん達もここで学んでいた。
「そう言えば僕今年で七歳になるので、再来年にはここに入学するんですよね。」
前世ではそれほど学校と言うものに思い入れはない。
むしろ休みたかった位だ。
だが転生を果たした今は、通いたくて仕方がない。
決して勉強するためではない。
この世界での俺はハイスペックボーイなのだ。
これなら注目されること請け合いだ。
しかも領主の息子。
これもポイントだ。
決して日陰者にはならない。
八歳と言えば小学生の四年生位だが、女の子にチヤホヤされるのは悪い気はしない。
『前にも見たことのある締まりのない顔をしてるよこいつは、全く何想像してんだかねえ。』
どうやらまたニヤついていたようだ。
確かに魅力的だが、変態のレッテルもごめんだ。
「でも不思議ですね。貴族って市井と同じ学校に通うわなそうなのに。」
『まあ王都付近の貴族は貴族専用の学院か、家庭教師をつけるのが普通だね、でもこれくらいの規模の地方の街だと将来統治した時に面識があった方が連携がし易いからって、同じ初等学院に通わせることもあるんだよ。』
斯く言う家も初等学院に入学している。
恐らく俺もそうなるだろう。
そんなことを思いながら、街を抜けていく。
街を抜けしばらく歩くと開けた林が続いていた。
途中ウサギやキツネと言った小動物を遠方に見かける、長閑な場所だ。
更に歩くと前方に木が来た道よりも密集した場所が見えてきた。
ルシアの森だ。
さらに進むと森の前に人影が見えた。
父と話していたリーダ格の男とその仲間が森の前で休憩をしているらしい。
「よう!男爵様んとこの坊ちゃんと寝坊助の嬢ちゃんじゃねえか。」
「こんにちは、ダグスさん。どうですか狩の方は?」
呼ばれたリーダ格の男ダグスは、満面の笑みを浮かべると背後にある魔物を見せてきた。
「どうだい、この大きな熊。岩石を飛ばしたり、土槍を地面から放ったりと魔物であることは間違いねえ。
こんだけ大きいと素材も高く売れるだろうよ。」
魔物は冒険者組合や専門の店に卸すのが主流だ。
前者はどこで売っても適正価格で取引し、後者は交渉次第で、価格も変わってくる。
冒険者は大体需要があるときに専門の店に売り、そうでない時に組合に売るそうだ。
「すごく大きいですね。僕もこんなのを狩るんですか?」
「流石に今日はこんな大物は狙いませんよ。良くて、狼の魔物ですかね?もちろん固有種は狙いませんが。」
魔物には大きく分けて二種類が存在する。
一つは普通の動物が魔物になった、変異種。
もう一つが本来の生態系から魔法を放つ固有種だ。
変異種は元が動物なので、比較的魔法を打つ頻度や魔力の絶対量が少ない。
しかし、固有種は魔力の絶対量も多く、かなり手強い。
「大丈夫だぜ、坊ちゃん。慰霊祭が行われる場所までの固有種は粗方倒してある。それ以上に行かなきゃめったなことじゃ固有種には遭遇しねえよ。最初は結構な数いたが、俺たちももう一年近くここで狩りして今じゃ固有種なんて滅多に見ねえからな。」
「そうなんですか。なら安心ですね。」
「そう言えば坊ちゃん魔物狩るのかい?」
「ええそうです。魔法もかなり覚えましたし、今日が初めての実戦なんです。」
そう初めての実戦。
俺は緊張している。
前世では喧嘩ですら碌にしたことのない俺が魔物とは言え生物の命を狩るのだ。
緊張しないわけがない。
「わっはは!そんな固くなってちゃ、いざって時に動けなくなっちまうぞ。もっと気を抜け!」
そい言うとダグスは俺の肩を強く叩く。
「あっありがとうございます。」
「それじゃあ、行きますので、ここで失礼します。クロード君行きますよ。」
俺たちはダグスたちに挨拶をして、森に入っていった。
入ってしばらくして、さっきから疑問に思っていたことを思い出す。
「そう言えばさっきダグスさんたちと話している時、メレーナさんは一言もはなしませんでしたね?」
『まあね。杖が喋ると、何かと面倒だからねえ。」
「ってことは、王都からの移動中一言も話さなかったんですか?」
『人目を忍んで話したりはしたけど基本はね。』
あれ?俺の時は簡単に喋らなかったっけ?
そんな疑問を持ちつつ、さらに森の奥へと進んでいく。
三十分ほど進むとシータさんが屈んで茂みに隠れ手招きしてきた。
それに倣って俺も屈んで近づく。
『イノシシの変異種か、魔力の量も大したことないし、これならクロードでも倒せるんじゃないかねえ。』
「そうですね、初めての相手にはいいかもしれません。焦らずやってみてください。」
視線の先には体長一メートル半のイノシシが草を毟り食べていた。
特に変わったところのないイノシシだが、無属性魔術のサーチによって先ほどの林にいた動物よりも明らかに魔力量が多い。
「具体的なはどうすればぁ?」
『魔術師は遠距離から攻撃が主だ、そのため近寄らせないことをまず考えな。そしてこういった狩の時は相手に気取られずに一発で急所を狙いな。』
「本当は高火力で倒してしまうと、素材が売れなくなってしまうので、なるべく小さな力で的確に急所を狙うんですが。今回は初めての実戦で慣れていないと思うので、そこまで考えなくていいです。」
「わっわかりました。」
会話で離していた視線を再びイノシシに向ける。
どうやらこちらには気付いていないようだ。
黙々と草を食べている。
狙うは額、使うのは土魔術の岩石弾
掌を向け構えて魔力を集中する。
すると、手のひらから拳大の岩が発生した。
形状はドリルの様だ、錐状の岩に螺旋の彫り込み施されている。
それが高速で回転して、発射の時を待っている。
通常の岩石弾には回転も掘り込みも存在しない。
これはクロードが銃を想像して、威力強化に付け足したものに過ぎない。
無論前世で高校生であったクロードに銃の専門的知識も、ましてや実物を見た経験すらない。
これらの工夫は素人の試行錯誤の末に編み出したものでしかない。
『よーく狙いな。外したら逃げるならなだしも、反撃される可能性だってあるんだ。』
息を大きく吸い止める。
眼前の標的は狙われていることに気付いてないようだ。
張り詰めた空気が流れる。
よしいまだ!
狙いすまされた岩石は狙い通り、イノシシの眉間に当たり貫くと、イノシシはその場に倒れた。
「やりましたよ!」
『最初にしては上出来だね。これからは狩を二日に一回ののペースで行うよ、魔物の難易度も上げてくからそのつもりで。』
それから慰霊祭まで狩は続いた。
そして今日慰霊祭を迎える。




