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【完結】あくおに はべり うつくしき  作者: 零 珊瑚屋


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第三十一話 移転 超拡大 蒼武館

「師匠、ちょっとご相談があるのですが……」


ある日の夕刻。


初代集落長となった大吾(だいご)が、図面のようなものを抱えて『蒼武館』の縁側にやってきた。


「あ、大吾くん。どうしたんだい?」


すっかり「僕」「~だねぇ」の穏やか口調が定着した玄蔵(げんぞう)が、ニコニコと出迎える。


「実は……今の道場の規模と、弟子たちの数が完全に釣り合わなくなっていまして。


それに、旧集落同士が統合して街が広がった分、ここからだと遠方の弟子たちの移動が不便なんです。


……ですので、思い切って澄波(すみは)のちょうど中心地にあたる広い高台へ、道場を『移転・拡大』してはどうかと思うのですが!」


大吾の提案に、玄蔵はふふっと温かく目を細めた。


「そうだねぇ。みんなが通いやすくなって、のびのび稽古できるなら、それが一番だね。そうしようか!」


「ありがとうございます! では、すぐに澄波全体の事業として着工します!」


こうして、澄波史上最大の建築計画『超拡大・蒼武館移転計画』が動き出した。


* * *


それからの澄波の勢いは凄まじかった。


大吾を中心に、腕利きの職人や弟子たちが総出で木材を切り出し、基礎を固め、大きな柱を何本も立てていく。


かつて八雲衆を飛び出す際、玄蔵が「田舎で道場を開く(自営業)」と語っていた夢は、今や一つの街の未来を背負うほどの巨大な大事業となっていた。


そして――。


澄波の中心、澄み渡る空を一望できる広大な高台に、威風堂々とした大建築が完成した。


数百人が一斉に素振りをしても余裕のある巨大な稽古場。


遠方からの弟子が寝泊まりできる広大な宿舎。


そして、家族が穏やかに暮らせる日当たりの良い母屋と、広大な芝生の庭。


その正面にドーンと掲げられた看板には、力強く『蒼武館』と刻まれている。


* * *


完成したばかりの真新しい縁側。 心地よい澄波の風が吹き抜ける中、玄蔵、緋乃(ひの)、大吾の三人が並んで腰掛けていた。


目の前の広大な庭では、四歳になった息子の蒼太(そうた)と、六歳になった大吾の娘・鈴(すず)が、元気に追いかけっこをしている。


「あはは! すずちゃん、まてー!」 「きゃー! そうちゃん、はやーい! まけないぞー!」


力加減をすっかり覚えた蒼太は、鈴の歩調に合わせて優しく手をつなぎ、楽しそうに笑い転げている。


それを見つめながら、玄蔵はしみじみと己の過去を振り返っていた。


(……昔はさ、出世して、成り上がって、デカい城持ちになるのが男の志だと思ってたっけな……)


祓い屋として血生臭い戦場を駆け抜け、ただ強さだけを求めていたあの頃。


だが、八雲を出て、最果ての地にやってきて手にしたものは

――城などよりも遥かに温かく、遥かにかけがえのないものだった。


愛する妻・緋乃。


すこやかに、元気に育っていく最高の我が子・蒼太。


背中を預けられる『最高の一番弟子』の大吾と、共に汗を流す仲間たち。


そして、みんなで作り上げたこの超でかい『蒼武館』と、平和な街・澄波。


「ふふ、何を感慨深そうに浸っているの、玄蔵さん?」


隣で蒼太たちを愛おしそうに見つめていた緋乃が、いたずらっぽく微笑みかけてくる。


「ううん、何でもないよ、緋乃さん」


玄蔵はニッと温かい笑みを浮かべ、庭で駆け回る子供たちと、新しくなった巨大な道場を見渡した。


「……幸せだねぇ」


その言葉に、緋乃は優しく目を細めて頷いた。


「ええ、本当に……幸せね」


「はい。俺も……今、最高の心地です」


大吾もまた、誇らしげに胸を張り、深々と頷いた。


風が優しく吹き抜け、新築の木の匂いと、子供たちの弾けるような笑い声が高台いっぱいに広がっていく。


かつて悪鬼と呼ばれた夫婦が開いた道場は、これからもこの最果ての地で、家族と仲間の笑顔をどこまでも温かく守り続けていくのだった――。

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