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その二

6951

 感傷、如何にも一過性のものである響きがありますね。その時だけその瞬間だけという感じがする言葉です。ところが続くので記憶から消えません。一週間もしたら消え去るだろうと思っていると、四十年五十年と記憶に残ります。遺伝病の様に、最早宿命的な様相をして、自分の人生に伴います。まだ何かの呪いの方が時の力に敗けて早く消え去るのではないかと思う程です。

 それはそれだけの価値を自分がその感傷的なものに与えているからです。それを単なる刹那の感傷に終わらせていない何か、その根拠があなた自身から発されているからです。自分が如何なる人間なのか、そろそろ判ってもいいのではありませんか。あなたはその感傷的なものを大切に感じる人間なのです。それは実に良い事なのですよ。それが良いものでなくなるのは、あなたがそれに溺れた時だけです。それに溺れて目下乃至(ないし)人生恒久の目標に達する為の努力を滞(とどこう)らせる時だけです。


6952

 想いの浅い者には浅い喜びしか訪れる事はないでしょう。深く苦しむ者には常人がこの世で経験しない様な喜びがやって来るものと信じます。

 真摯に生きる者にこそ苦しみがやってくる、実はそこに深い深い神秘、生の奥義が横たわっている様に思えてなりません。屹度(きっと)それは、その人の一生の終わりにその正体を見せるのでありましょう。無事にお過ごし下さい。


6953

 この厳しくも非人間的な社会で生きてはいけないと思いますか。正しくもありまた誤ってもいます。あなたが瞼に浮かべ想像している厳しく非人間的な社会というのは、この社会の『厳しく非人間的な部分』だからです。この社会が隅から隅まで本当にそんな部分ばかりで構成されているなら、私だって生きてはいけません。ところが、あなたはまだこの社会の人間らしくあたたかくい部分を知りません。だから僅かの標本数から全体を推し量り認識せざるを得ない、そういう状況のもとに社会を把握しようとするものだから、純粋に科学的な観点からですら間違った結論に至るのです。あなたはまだ全くと言って可(い)い程この『社会』を知りません。これが本当に現代か、この人は本当に現代の人間なのかと疑わざるを得ない様な、そんな人の輪にも個別の人間にもあなたは未だ出逢っていないでしょう。そうですよね。それを知らずに厳しく非人間的で血の代わりに蒸留水しか流れていない様な人間ばかりを見て、それで『そんな社会では生きていけない』と判断しているのです。お分かりでしょうか。

 私の謂うのは、その、本人の自覚としては極めて真面目に考えている『筈』の考察に潜む不遜です。まだろくろく『知らない』癖に、全て見渡し見知ったかの様に『悩む』。これは個々個別の人間に対しては不遜ではありませんが、運命に対しては明白に不遜です。あなたはまだ生きるべきです。少なくとも自分のこの不遜を自ら不遜であると実感出来る時までは。


6954

「暇だなあ、する事が無い。このままでは馬鹿になりそうだ」

 いや、既に、立派に、馬鹿になっていると思います。完璧になり遂(おお)せていると思います。これは馬鹿になって最早(もう)久しい人間の言葉です。馬鹿になりたてだとこの言葉を発するにまだ躊躇しますから。

 どうして町に出て行って、手押し車を押しているお婆さんが信号を渡る時に横から助けてあげないのですか。何故住んでいる町の中でも貧相な地区に立ち入って、お腹を空かせていそうな子供を探さないのですか。別に本当にそういう人達が居なくても可(い)いではありませんか。何か見付けられるでしょう。何か、畳に寝転がって『暇だなあ』を連発していては絶対に知る事が出来なかった事を知る事が出来るでしょう。

 本当にそういう時間的余裕があるのなら、家の中に寝転がっているのではなく外に出て下さい。本来生きている人に暇はやって来ないものですよ。

 ブログは毎日更新しています。

https://gaho.hatenadiary.com/

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