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5(視点変更 田中マオ)

 【今日もニャン太を探して第30話】

 昼休憩、それは多くの学生にとっては小躍りしたくなる瞬間だろう。学生の本文は勉強ではなく食事ではないのかと言いたくなる程に、学食や売店は混み合い多くの飢えた生徒が獣と化す時間帯である。


 もちろん、私こと田中マオもその1人だと言いたい所ではあるが、幸か不幸か色々な家庭的事情から入学当初から毎日弁当持参女子をやらせて頂いている。

 しかも、私、田中マオ全部弁当1人で作ってます!! 自慢です!!

 嘘付いてんじゃねぇぞ、丸眼鏡と言った心無い声が聞こえて来そうなので、その時に作ったメニューを紹介します。


 鶏そぼろ、卵焼き、ほうれん草のおひたし。

 味付けは醤油、酒、塩、砂糖、旨み調味料、鶏がら粉末と全部一緒です。脳死で簡単に作れてそこそこ美味しいので重宝しております。

 そんなこんなで、弁当組の私は戦場へと脚を踏み込むことなくその日も、御用達である体育館裏1人脚を向けたのでした。


 それは、昼休みも半分終わったぐらいで、最後の楽しみにとっていた卵焼きを食べようとした瞬間でした。

「ニャン」と我が学園のマスコットであるニャン太が突然姿を見せたのです。

 全身真っ黒でうねり曲がった特徴的なカギしっぽ、ニャンと鳴くので安易に付けられた名前とどこを切り取っても可愛い我が学園のマスコットニャン太をーー。


「お前はニャン太に何か弱みを握られてるのか?」

 新聞部部長である、神谷悟(かみや さとる)が田中が提出した仮原稿を見てPC前で呆れたようにため息を吐いた。

「まぁ握られてると言ったら握られてますねーあの可愛さに」

 田中はニャン太のサラサラな毛並みを想像して表情が緩む。

「平凡な幸せに浸っている所悪いが、田中よ。突然だが、今日限りで我が新聞部は廃部になる」

「はい? 嘘ですよね」

「悪いがもう冗談も言えないぐらいマジな話だ」

「どうしてですか?」


  動揺する田中に向けて神谷は赤字で通告書と書かれた紙を渡した。

「端的に言うと生徒会へ支払う毎月の余裕金がなくなり部活を維持できなくなった」

「だから、廃部にするってことですか?」

「ああ、そうだ」

「そんな…だって部長、ニャン太記事を見た時、『こんな可愛い記事なら読者増加間違いなしだなガハハハ』っていってたじゃないですか!」

「いつの話だ。それにそんなバカみたいな笑い方はしたことがない。だいたい、ニャン太記事を掲載してから出資者が増えたことは一度もない。むしろ減少の一途を辿っている」


「嘘ですよね? それってニャン太記事が原因じゃなくて、部長のエッチな記事が原因じゃないんですか?」

「何を馬鹿なことを言うか! 俺の魂とポリシーが詰まったエロティクな記事には一定の出資者がいたんだぞ、むしろエロがなかったら新聞部などとっくの昔に廃部になっていたぞ」

「そ、そうなんですね。なんかすみません」

「いや、お前が謝ることじゃない。資金繰りを上手く考えれなかった俺の責任だ。ーーまぁ運動部でもなく文化部の中でも大会もない我々新聞部が廃部になるのは時間の問題だったてだけだ。むしろ末端の部活にしてはよく持った方だよ」


 神谷は何度目かのため息を吐き出した。

「部長、ちなみにお金っていくら必要なんですか?」

 神谷は両手でそれぞれピースサインを作った。

「部長。ダブルピースをやるなら、目は上向き加減に涙目で、舌をだらしなく垂らさないと、その界隈では完璧とは言えないですよ」

「何を言ってんだお前は。それにダブルピースじゃくて、トリプルピースサインだ。今、右足の指でもピースしている」

「分かりにく! と言うか靴履いて分からな!」

「ざっと3ヶ月分で6万円、遂に生徒会から三行半を下され。なんか廃部が決定するそうです」


「なんで、後半他人事みたいな感じなんですか…でも安くはないですが6万なら部長が体を売れば解決しますね」

「は?」

「私の使っていない服貸しますんで、お願いしますね」

「ちょっと待て、何を俺にやらせようとしているんだお前は?」

「何ってレンタル部長サービスですけど」

「レンタル部長? 何だそれ?」


「レンタル部長って言うのは、部活内で練習中や重要な会議を行う際などに、そこの空気感を引き締め、そこの部の忙しい部長の代わりに部長を請け負うサービスです」

「…なるほど。意味が分からんが続けてくれ」

「派遣された部長は、部長の代わりに常に腕を組み難しい顔をしたり、無駄に忙しいフリをして周りにアピールしてみたり、部員の肩を突然揉んだり、部員のプライベートな事をフレンドリーに聞いてみたり、できが悪い部員を執拗にみんなの前で怒ったり、放課後気に入った部員をファミレスに誘ったりーー」

「…なるほど、なるほど、ますます、意味が分からんが続けてくれ」


「例えば部員からアドバイスを求められたら、『そんなことも分からないのか?』って威圧的に返したり、部員が生意気にも何かを提案して来たら『でも、それ現実的じゃないよね? 予算的に厳しいよね』ってニヤニヤしながら否定的に返したりと簡単な仕事内容なので、その部活についての知識なんて一切いりません。分からなければ下の部員に丸投げすればいいだけの仕事です」

「それで俺はそこに居て何の意味があるんだ?」

「部長は部長の大切な肩書きを守る為に必要な存在なんです」


「需要云々よりも絶対にやりたくないな。それと、聞きそびれたが、さっき服を貸すと言っていたが、どんな服を貸す気だったんだお前」

「それは、もちろん。フリフリでぶりぶりのメイド服ですよ。お堅い肩書きの部長が甘ロリメイド服で声を荒げて叱ってくるってなったら、叱られる方も、『口では大層なこと言っても、体はぷぷぷぷぷ』ってなり部長だけでなく、部員の心のストレスまでも取り払うことができる。まさに素晴らしいサービスだと思います!」

「なぁ田中?」

「はい」

「発案者であるお前がそれをやれ」

「死んでも嫌です」

 神谷は何度目かのため息を吐き出した。


「まあまあ、元気出してください。部活は無くなりますが、私達に芽生えた絆は永久不滅じゃないですか!」

 田中はズレた眼鏡を治すと神谷に向けてVサインを出した。

「そうだな」神谷はふっと笑いVサインを出した。

「なぁ田中」

「はい、何ですか?」

「帰宅部だけには絶対になるなよ」

「な、何故ですか? 正直言って私、新聞部以外だとやれる気がしないのですが…」


「帰宅部にのみかされる放課後特別授業。お前も知ってるよな?」

 放課後特別授業とは部活を行っていない、帰宅部であり、尚且つ成績の振るわない生徒に課されると言われている補習のような物である。

 風の噂で行う内容は異世界に付いてのより詳しい講習と聞くが、その中身までは田中は詳しく知らなかった。

「放課後特別授業の講習生に選ばれた生徒は何故かことごとく異世界へ消えていくらしい。これがどういう意味か言わなくても分かるだろ?」


「受けた皆んなが異世界消える…それだけ異世界は素晴らしいってことですよね?」

「なるほどな。そういう明るい前向きな見方もできるわけか」

「違うんですか?」

「俺は逆だと思っている。本当は異世界はとてつもなくやばい場所だが、受講した生徒にはその逆を徹底的に教え込み、その結果騙されて異世界へと旅立って行っていると思っている」

「はぁーまた部長の陰謀論ですか。そんなはずないじゃないですか。だって私達も普段から授業で異世界については学ぶじゃないですか? 死んだら神様から強い力を授かり生まれ変わるんでしたっけ? その力は現世では考えられないぐらいとてつもない力。現世で苦労している子は異世界に夢を見て旅立つ。異世界は素晴らしい所、異世界は現世とは違い恵まれた状態で生まれ変われる。恵まれなく生まれた子が恵まれた状態でスタートできる。だから今、現世が辛い皆さんは異世界に行きましょうって」


「そうか、なら何故? お前含めいまだに多くの生徒が異世界に行っていない? 何故、帰宅部の中でも成績優秀者は特別授業を免除されている?」

「それは、私含めて今の学園生活を楽しみたいんじゃないですかね? それに、強くなって異世界に送られると言っても、今の世の中と環境がガラリと変わるわけじゃないですか? やっぱり、安心安全だと聴かされていても多くの人は不安だと思いますよ。今ある幸せを捨ててまで異世界に飛び込もうかどうしようか天秤に掛けた時なかなか決めかねるとか? ーー頭がいい人が免除されている理由ですか? うーん、適材適所とかですかね?」


「なるほど、実に合理的な説明だが田中よ。適材適所と言うなら頭がいい奴が異世界に行くべきじゃないか? 仮に異世界と言っても国な訳だ。国同士の繋がりに頭が悪い人間を送るより、頭がいい人間を送る方が双方の関係性が良くなるとは思わないか?」

「でも、部長。異世界に生まれ変わる際、パワーアップして生まれ変わる訳じゃないですか。だから、頭がいい人間を送っても悪い人間を送ってもそう変わりない。なら、言い方は悪いですが、頭の良くない人が異世界に行った方が、本人も国も喜ぶんじゃないですか?」

「死んでから生まれ変わった時、本当に神様は力をくれるのだろうか?」

「何を言ってるんですか、くれますよ。安心してください。部長が仮にエッチくたって神様は平等に力をくれますよ」


「誰か神様から力を貰ったと証明した奴はいたか?」

「もう、部長疎いですねー。ニュースでもやってましたし、SNSでも時折流れてきますよ、異世界から戻ってきた日本人の紹介」

「そんなモノは眉唾で国が行うプロパガンダなんだよ。おかしいとは思わないか? 帰ってきた、そいつらが何か実際に魔法を使ってみせた事があるか?」

「ーー確かに言われてみればないですが、でも、ニュースで言ってましたよ日本の法律で魔法は制限されているから見せれないって。それに、修復は異世界人の専売特許で使用ができないって。だから見せたくても、見せられないって」

「怪しいな、それは…そうなると異世界が本当にあるのかも疑わしくなってくるな!」


「いや、それはありますよ! だって異世界ないと異世界人である修復士の方々の説明が付かないじゃないですか」

「確かに…だが、もしも、例えばその修復士も異世界人ではなく日本人で、日本の政府が秘密裏に行っている超能力実験の被験者という可能性はないだろうか?」

「一体何を言ってるんですか? あの、部長。もう、疲れたので行きますね私」

「帰るのか? 廃部になると言ったのは俺だが最後ぐらいギリギリまで部室の空気を味わったらどうだ? くだらない陰謀論は辞めて今度はエイリアンの話にするから」


「い、一緒じゃないですか、エイリアンもーーその、帰る訳じゃなくて、部活周りしてこようかなーと」

「ほう、何か気になる部活でもあるのか?」

「いや、特にないですが部長が言うように、私が帰宅部になったら、間違いなく放課後特別授業を受けることになるので、それはちょっと…勉強が苦手な人間に対して勉強を追加で行うってそれは、異世界に行くより地獄ですので…」


「そうか、今より夢中になれる部活動が見つかるといいな」

「今より、魅力的な部活なんて金輪際出会うことないですよーー」

 恥ずかしさでドアを素早く閉めた田中は、顔の火照りを取るように早歩きで廊下を歩いた。

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