5-2
「脳死でも馬鹿でもできると言えば運動ぶーと」
大変に失礼で偏見が詰まった頭である田中マオが部活探しに訪れた場所は、汗と青春と合宿と受けと攻めと、とっては取られ、とられては取り返し、人の夢や欲が詰まったテニス部だった。
目に優しいダブルスコートでは鋭いシャウトと共にボールを打ち返す複数名の楽しそうな生徒の姿が垣間見える。
田中は水分補給を行なっていた集団に声を掛けて見学者である旨を伝え部長を紹介してもらう。
「久しぶりの見学者か。それも眼鏡女子ね…」
「あの、何か?」
「キミ彼氏はいるの?」
「い、いませんけど…」
「ふーん」
田中を足から頭まで全身をしっかりと見つめていたテニス部、部長(でっぷりと太った男)に「キミは声に自信あるかい?」と問われる。
「声ですか? テニスに声って重要なんですか?」
見え方の問題かと思い眼鏡を拭き、掛け直すがやっぱり部長は二重アゴができるぐらいパンパンに太っていて汗かきだった。
「当たり前だ! テニスだけではなくて、スポーツにおいて声は最重要である。声を出すことつまり、シャウトすることにより瞬間的に力を最大限吐き出せる効果がある。故に声も出せない奴は気持ちを出せない! 一緒に気持ちよくなれない!」
「はい?」
「ゴホン、とにかく声は重要なのだよ。だから入ってしばらく新入生は声出しだけを行なってもらう」
「え、声出しだけですか?」
テニスコートに隣接されていた建物のドアを部長が開けると途端ーー。
「「「「「サーアァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアあぃああいアアアぃぃぁあ!!!!!!」」」」」
と耳を塞ぎたくなるような声量のシャウトが田中の耳だけでなく体全体を震わせた。
「ななな、何ですか一体全体?」
部長から汗が所々に染み込んだ耳栓を貰い、少し迷いながらも覚悟を決めた田中は耳にそれをねじ込む。
田中が耳栓をねじ込みしばしたった頃、もう一度、建物内に居た複数人のシャウトが田中の耳を襲う。
若干、うるささは軽減されたが田中の表情は和らぐことがない。
「声ちぃいいセーぞ!!! このヤロウ!!! ほんとに本気でやってんのかそれ!!!」
一列に並ばされている男女複数名テニス部員の周りを回っていた、頭と両腕と両足にバンダナを巻いた男がゲキと唾を飛ばす。
男の手にはラケットが握られており、声の小ささを指摘された部員はズボンを脱がされ丸い尻をそのラケットで思いっきりぶっ叩かれていた。
「者あああああああああああああ!!!」
「小ぃせーぞだから馬鹿やろ!! 殺すぞこのヤロウ!!」
ツダッッツツツアア!! ラケットが部員の尻を襲う。
「者あああああああるああああああ!!」
「小さいーぞ!!馬鹿やろ!! だから!! 殺すぞこのヤロウ!!!」
ダッツアア!! ラケットが部員の尻を襲う。
「あの、こんなことして、彼ら彼女らの喉やお尻は大丈夫なんですか?」
「当たり前だけど無事じゃ済まないね。喉は潰れ、尻は食いちぎられたように赤黒くなり、まるで腐ったリンゴのように変色する。でも、そんなモノは些細なことなんだよ」
部長が指差す先には椅子に座り込むタバコを蒸した女が見えた。
「彼女は? 学園で平気でタバコ吸ってますけど、いいんですか?」
「彼女はいいんだよ。修復士だからね」
「ああ、修復士の方なんですか、なるほど、なるほど」 金髪に真っピンクのジャージを着てりんご3個分の重さのキャラクターサンダルを履いた、修復士の口から煙が吐き出された。
「ガァああ納が…」
修復士の元に声が潰れてしまったのか、ジェスチャーを交えながら声にならない声を出していた部員がバタリと倒れ込む。
修復士はその部員を気怠そうに眺めていたかと思うと、手に持っていた3本のタバコをじゅじゅじゅ!!!! と部員の顔に押し付けた。
熱さで部員の濁声のカスれた声が悲しく建物内に響く。ついで、部員の体がオーロラのように幻想的なモノに包まれーー。
「ありがとうございます! 修復士さん! おかげで元気になりました!」
シカバネ寸前だった部員が嘘の様に立ち上がったかと思うと腰をぺこりと曲げた。
「皆様方どうも、ご迷惑を掛けてすみませんでした!! 直ぐにシャウト練習に戻りたいと思いますぅうううううううう!!」
治してもらったばっかりの喉をこれでもかというぐらい酷使して皆の輪に戻ろうとした部員を「オイ!」と修復士は止めた。
「な、何でしょうか修復士さん?」
「タバコ、」
「え?」
「お前のせいでタバコ切らしたから今直ぐに買ってこい!」
「は、ひ! 分かりました直ぐに!」
血相を変えて部員が建物から飛び出して行く。
「どう? 何かあったら修復士さんも居るし、練習は苦しいけど、楽しそうな部活でしょ?」
「け、検討します…」
しばらくふざけパートが続きます…。




