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8-3

『たかが、部活と言えど姫香のデビュー戦だ。いくらなんでもジャージは格好がつかないだろ。幸と一緒にコスチュームを作ってもらいな』

 部活で着る服とは別に、試合用にと上米良に紹介された店は寂れたビルの4Fにあった。


【♡kill you♡ R18】書かれた店の看板にも臆することなく、ノブを回した雅ーー。

 雅の後に続く形で中に入った幸は怪しげな赤い照明に迎えられ、棚から飛び出し所狭しと並んで丸めた布生地や、ウサギ、クマ、イノシシ、ウマ、ワニなどの皮や剥製に挨拶され、店員と思われる赤髪メッシュの女性に日本刀のように細長い、剣ナタを向けられた。


「いい気分はしないわね。一応お客さんよ。私達」

 刃を向けられるも冷静に答える雅。

 雅ほどではないが、幸もパニックになることなく、少しだけ心拍数が乱れただけで、いつでも動けるように、脚に意識を向ける。

「悪いけど、お客さんかどうかはウチが決める。それが店の方針、堪忍な」

「幸、帰るわよ。まともじゃないわ」


雅が足を一歩引くとーーその近くにナタが刺さる。

「なんや、冷やかしかい。貴重な若い時間を無駄に生きてるなぁキミら」

「その、私達、上米良魔技先輩の紹介できたデスマッチ部の2人です。先輩から連絡とかきてなかったですかね? ーー私が、日比谷幸と言いましてーー」

「雅姫香ちゃんやな。おおきに、伺っております。ウチは久原霊(くはら れい)と言います」


 耳や眉にピアスを付け、腕にあるタトゥーからは想像できない、はんなりとしたお辞儀をした久原。

「誤解も解けたところで、ごめんなさい、私達帰ります」

 雅が足を一歩引くとーーその近くにナタが刺さる。

「自分の店でしょ、そんなぽんぽん、ナタ投げたら、ぼろぼろになりますよ」

「関係ないんよー、ウチ修復士やから、ウッドタイルぐらいなら、簡単に直せる」


「そう、ご立派ですね。ーーそれで修復士様は何故こんな嫌がらせをするのかしら」

「いややわー、さっきも言うだけど、お客さんかどうかはウチが決める。お客さんならお店の商品必ず1点買うてってもらう、お客さんやなければ異世界旅行に行ってもらう。この店に日本人が好きな冷やかし文化はないんよー」

「どうやって判断するんですか?」


 久原がテーブルに置いてあった物をごっそりと避けーー空いたスペースにナタ(長さ30cm)とU字型の捕具が置かれる。

「今日は天気も良かったし、ウチは真剣白刃取りをやりたい気分でなぁ、悪いけど付き合ってくれんか」

 まるで骨まで断ち切らんとする厚さのある肉厚な刃と、方や音叉のように溝の幅が狭く頼りない捕具。

 当たり前ながら久原はナタを手に取りーー。


「どちらか代表決めてな」とナタで2人を指し示した。

「悪いですが、こちらも学生ながら忙しい身なので遊びに付き合っている暇はないんですよ」

 雅が言い終わると背を向け幸の手を取りーー幸の背を守るように出て行こうとする。


 ボパッッツツツ!!!!


 大量の栗が一斉に爆ぜたような爆音に身をすくませ2人は歩みを止める。

 幸が後ろを振り返るとショットガンを持った久原が笑った。

「好きな映画監督の逸話があってな、その監督さん。ホラー映画の撮影中にショットガン持ち込んで、ぶっ放してたらしいねん。なんでそないなことしたと思う、さっちゃん?」

 ショットガンに付いているドラムマガジンを触っていた久原がいきなり熱のこもる銃口を幸に向けた。

「わ、わかりません」


 最近部活中でもあまり感じることがなくなっていた恐怖心が幸の心を支配する。

「そっか、分からんかーー正解はな実演者に緊張感を持たすためやって。サイコーに狂ってるやろ。ーーでもな、ウチはこの話を聞いた時こうも思った。日本人に日常的に足りひんのはこの緊張感やと」

「あの、下ろしてもらえますか」

  雅が幸の手を握りながら告げた。


「そうや、その目がウチは見たかった。格安過剰サービスに溺れ、お金を払えば、お値段以上を当たり前のように要求する、平和ボケした阿呆な日本人がウチは1番虫唾がするねん。キミらもデスマッチ部で鍛えてきたから知らんけど、世間を舐め腐っていると突然、痛い目見るで、よーく覚えとき…..よし、もういいやろ。学生をからかう茶番はそろそろ終いや」

 ショットガンを置いた久原はナタを掴むと、それを2人に向け投げ付けた。


 ーー咄嗟に前に出た幸にナタが当たりーー。

 ナタは幸の頭で砕ける。幸が砕けた破片を確認したら、それは精巧に作られてチョコレート細工だった。

「長々と茶弁に付き合うてくれてありがとうな。魔技ちゃんの後輩と聞いて気になってもうて、ほんまに堪忍。ーー久原霊です。改めてよろしゅう」


 出会いこそ最悪だったが、久原から与えられた甘いチョコレートや風味豊かな紅茶のおかげか、雅や幸はだんだんと久原に対してあったトゲが丸まっていく。

 当初の目的通り、2人は頭の先からつま先まで体の寸法を細かく測定され、コスチュームの要望などを聞かれる。過去に制作した衣装を参考にアルバムを眺めてウキウキしながら選ぶ雅とは違い幸は、そのどれもが肌の面積が多い生地であるのが気になった。


「もう少し、露出が抑えめな服はないですかね?」

「さっちゃんは際どい服はあんまりか、なら、こんなのとか、どうな?」

 久原から見せられた写真集に映る女性は猛獣に引っ掻かれたようなTシャツを着ていて、ページをめくっていくと、切れた隙間から黒のブラジャーが顔を出す。ーー他はないのかと、探していくと尻尾を立てた後ろ姿の猫のTシャツを見つける。目に止まり細かく見ていくと、猫が立てていた尻尾が、人が中指を突き立てたような形になっていた。


「ふぁっくねこ、可愛やろ」

「ちょっと過激すぎますかね…」

「若いのに、ビビってたらもったいない。私服と違って、戦いの場で着るんやから、目立ってなんぼ。過激さや露出を抑えたババシャツを着たレスラーを見て誰が惹きつけられると思う?」

「…確かにそうですけど」

「幸はこれなんていいんじゃない?」


 雅が指差したコスチュームはTシャツを斜めにぶった斬ったような形をしていた。機能を果たしていないTシャツの下はトップス。下は長めのタイツとなっていた。肌の露出具合はトップスだけより、抑えられており、幸はまだ着れると思った。

「雅さんはどれか良さげなのありました?」

「私はこれかなぁ」


雅が指差したのは胸と腰周り以外、全てを曝けすコスチュームだった。どうやら、その服のスカートのヒラヒラ具合が気に入ったようで、幸が露出部分について指摘したが「まぁ、血で彩れば関係ない」とデスマッチ部あるあるを言って笑った。

 しばらく 2人で顔を寄せながら様々なコスチュームを鑑賞し時間が過ぎゆく……。


「…おじゃまします」

 その小さな声は2人が店内の奥の方にある、真っ黒な改造ナース、コスチュームを見ていた時、聞こえてきた。

 こんなお店にお客さんなんて、来るのかと思いながら幸が顔を振り返り棚の間から確認すると、見覚えのあるとんがり帽子を被った後ろ姿を見つける。

「雅さん。あれ楓ちゃんじゃないですか?」


「えーー」雅が同じく振り返る「ほんと、かーー」声を上げようとした雅の口を幸は抑えた。

「楓ちゃんが今日の約束ほっぽりだして、こんな店に何をしに来たのか、気になりません?」

 幸が耳元で早口に言う。


「確かに…ぷんぷんちゃんが何をしにきたのか気になるわね」

 幸と雅が頷き、棚の合間から聞き耳を立てるように小さく顔を出す。


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